第5話 これが幸せ、なのか
三葉どののところに行く。初めて来た場所なのになぜかわかってしまった。
さっきから思ってたが床が暖かい。足の裏が冷たくない。
カーペットでもないのに。ついゴロンと転がってしまう。暖かくて気持ちが良い。
いかんいかん、三葉どののところに行かなくては。
三葉どのはすぐそばの寝室にいた。
吾輩は三葉どのにすりすりと寄り添うと
「スケキヨ……」
すぐ気づいてくれた。
うれしいのぉ。
元気出して、三葉どの。
「わたしね、子供の頃から猫を飼うのが夢だったの」
ヒョイっと抱きしめてくれた。
やはり和樹どのよりも柔らかくていい匂いがする。顎くいくい撫でてくれるの、嬉しい。
慰めに来たのに反対に癒されてる吾輩……。
「それ以上に、結婚して……子供を産んで育てることもね」
三葉どの……。
「結婚も早くできると思ったけどさぁ……」
おお、美人だもん。
「選り好みしてたらもう三十五超えててさ」
ん? お主……35には見えぬぞ。
前の家族のお母さんも35くらいの時にはボサボサ……いや、前の家族の悪口は言ってはいけない。
「……たまたま婚活パーティで会ったガサツで剣道バカの高校教師の和樹さん、今までに選ばなかった人と結婚しちゃったわけよ」
ほぉ、だからあんなに体格がいいのか和樹どのは。
「今までにないタイプだったけどさ、グイグイ一直線の暑苦しい、無理とか思ったけど」
わかる。
「そこが反対に……良くてさ……なんかね。ふふふ、和樹さんには内緒よ」
ラジャー。
三葉さんのこの笑顔で和樹どのがしっくりきたんだねぇ。
ああ、この感じ懐かしい。
前の家でも家族たちの独り言をずっと聞いてた。いや聞かされていた。
学校や友達とのことや、親のこととか……あとお母さんは……泣きながら震えながら吾輩を抱きしめていた。
それらに対していつもすりすりするか、ニャーと泣くしかできなかったんだっけ。
何か優しい言葉でもかけてあげたら前の家族に捨てられなかったのだろうか、吾輩は。
ニャー
三葉どのにもそう声しか掛けられない。
このままではまた吾輩は捨てられるかもしれない。
「スケキヨ、聞いてくれてありがとう。喋られなくても聞いてくれるだけでも嬉しいよ……」
本当か? 聞いてるだけだよ。それだったら吾輩も嬉しい。ぎゅっ、三葉さん……吾輩を抱きしめるだけで癒されるのなら。
「三葉……」
お、和樹どの。
「和樹さん、スケキヨが慰めてくれたの」
「そうか……ありがとうな、スケキヨ」
和樹どのが吾輩の頭を撫でてくれた。そして吾輩を抱いた三葉どのごとその大きな体で包んでくれた。
むむ、苦しい……。
和樹どのも三葉どのを慰めてあげなさいな。まぁ人間は不器用なやつもおってな、この吾輩を挟んで会話をすることもある。
「今日はスケキヨ挟んで寝ようか、温かいぞ」
「そうね、温かい。でも、和樹さんも温かい……」
「そうかぁ? ならもっと温めてやる!」
「ふふふ、温かいー」
苦しいー……。
吾輩がいることを忘れておらぬか?
だが幸せだ、吾輩は喋れないし擦り寄るぐらいしかできないが……少なくとも癒しになっていたら、本望である。
「あ、スケキヨ。にゃおにゃおゼリー、あとであげるね」
さらに幸せなり……。
終
吾輩はスケキヨである 麻木香豆 @hacchi3dayo
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