第4話 子供がいない夫婦

 久しぶりのキャットフード。

 おう、この味は懐かしい。よく食べた味だ。


「スケキヨ、このにゃおにゃおゼリー食べる?」

にゃおにゃおゼリー?!


あ、あのCMで有名な! にゃーおにゃーおにゃおゼリー♪

テレビでよく聞いてたぞ。


たまーに前の主からもらっておった。


食べたら極楽浄土、病みつきになって食べ過ぎで病院から止められたやつ。


しかし和樹どのが首を横に振る。

「いきなり食べさせすぎはダメだよ。また今度にしよう、それは」


ぬあー!!! ジタバタする。

が、やはりダメのようだ。目をうるうるさせても通じない。


「にゃおにゃおゼリー、高いだろ」

「お隣の木林さんからいろいろもらったの。そんなにいいですわって言ったけど……」

「気前いいなぁ、さすが三匹飼ってるだけあるわ。でも今度引っ越すんだろ。娘さんのところに」

「やはりご主人亡くなってから少し元気なかったし……猫いても寂しいみたいね。って猫ちゃんも一緒に引っ越すのかしら」


 お隣にも猫がおるのか。前の家は野良猫が多かったがよく喧嘩したものだ。


 ……猫も引っ越し、吾輩も前の家族に連れてって欲しかった。

 でも子供の1人が言っておった。


『パパいないからもう餌買ってあげられないの』

 って。


「東京に引っ越すと環境ここと全く違うし。慣れるかね」

「すぐに慣れるわよ。きっと……。ってスケキヨはどこからきたのかなー?」


 実の所前の家から車に乗って少しした川の近くに捨てられた。

 10年一緒におったのに……見知らぬ土地に捨てられた吾輩って。


「んー、なんとなく都会の猫じゃないな。地元の猫だろ」

「人懐っこいしね、前の家では可愛がられたのかな」


 ……ああ、本当に可愛がってくれた。

 でも急なことだった。


 慌ただしく荷物を持って奥様と少し大きくなった子供たち二人が車に乗って荷物を運んでご主人はいなかったなぁ。


「って、和樹さん。スケキヨって名前つけたけど……飼うの?」

 んっ?


「え、飼うに決まってるだろ」

 んんん?


「……エサ代……」

 え、なんか……?


「なんとかなるやろ」

 んんん……。


「このマンションのローンに……病院代も……」

 ちょっと雲行き怪しい。


 ん? マンション?

 それに病院?


「大丈夫だって。スケキヨ、どっか保護猫施設預けたとしてちゃんといい飼い主のところに行くとは限らんだろう」

 和樹どの……。


 三葉どのは少し困った顔をしている。

「でも赤ちゃん産まれたとして……」

 赤ちゃん?! お、まだこの家には子供いないから産まれるのか?!


「大丈夫だって。昔近所も赤ちゃんいても猫飼ってる家もザラじゃないし。世話は俺がするし、日中は放し飼いにしてれば大丈夫だって」

 和樹さんどのはさっきから大丈夫大丈夫言うとるのに三葉どのの顔は沈んでる。


「……和樹さん、あのね。またダメだった」

 ダメ?


 和樹どのの顔も曇った。


「そうか、今日病院だったか」

「うん……」

 なにがダメなんだ? 


「大丈夫だよ、まだ不妊治療初めて一年だし! そうだ……来週だっけ。俺も病院」

「そうね……」

「そんな暗い顔するなって! スケキヨもやってきたし……しばらくはスケキヨも一緒に……三葉?」


 三葉どのが部屋から出て行ってしまった。どうした? 


 和樹どの……さっきの元気はどうした?

 おっ、抱っこしてくれた。

「……スケキヨ、心配するな。うちでゆっくりしな」

 頭なでなで。お主はようわかっておる。撫でられると嬉しい。


「三葉のこと、慰めてきてくれないか?」

 へ? それはお主が……。


「子供できなくて一年……まだ一年じゃないか、なぁスケキヨ」


 そうか、この家にはまだ子供がおらぬのか。

 ふむ。


「あとで、にゃおにゃおゼリーあげるからな、なっ」


 和樹どのは励ますのはできるけどおなごを慰めるのが下手なんだな……しかも吾輩を餌で釣るだなんて。



 しょうがない、吾輩が三葉どののところに行こう。


 前の家もご主人が不器用でのぉ。でも効果はなかったが。


 スタッと和樹どのから降りた。

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