第3話


「ちょ!? 何だこの数値は!? 「9」がいくつ……10桁!? それも全ての項目が!?」


「スキルを見てみろ。二つしかないが、全属性神級に森羅万象LV999だ。バケモノかよ」


「称号もだ。神々の興味と猫派の神一堂からの寵愛だと。神の使徒とどっちがすごいんだろうな?」


「どうニャ? 我輩渾身のステータスは!? 恐れいったかニャ?」


 宙に浮んだままドヤ顔になるクロスであった。

 だが、騎士団長はその言葉尻を捕らえる。


「渾身? その言い方は、やはり改竄しているのか。道理でありえない内容のはずだ」


「……言い間違っただけニャ。それは正真正銘、神が認めた我輩のステータスにゃ。それとも、おミャーらは、我輩が改竄したという証拠があるのかニャ?」


「くっ……こ、こんなステータスがあって堪るか!」


「改竄の証拠がないなら、それが事実ニャ! さあ! 我輩たちを中に入れるニャ!」


「そ、そうはいかん! 例え事実でも、いや、事実だったとしたら、そんな危険な存在を街に入れることはできん!」


「じゃあどうするのニャ? このままお見合いを続けるニャ? それとも我輩と戦うつもりかニャ?」


「くっ……た、たとえこの身が滅ぼうとも……」


「愚かニャ。頭が固すぎるニャ。考えてみるニャ、我輩たちがその気なら、この街はとっくに火の海になってるニャ。こうして、おミャーらのルールに合わせて門で手続きをしてる段階で敵意はないと理解するべきニャ。それとも、いたずらに敵を増やすのが騎士の仕事なのかニャ?」


「ね、猫に言われる筋合いはない!」


「転生者ニャって言ってるニャ!」


「信じられるかっ!」


「やれやれだニャ。おミャーらが用意した石版ニャのに。わかったニャ。おミャーが認めないというのニャら、我輩にも考えがあるニャ」


「待て。何をする気だ?」


「我輩が人間だと認められないニャら、つまりは、ただの野良猫ニャ。野良猫ニャら勝手に中に入っても問題ないニャ」


「それはっ! いや、しかし……あのステータスは危険すぎる!」


「おミャーは石版を信じてるのか信じてないのか、どっちニャ?」


「ぐっ……わ、私では判断できん。上に判断を仰ぐゆえ、しばし待ってくれ」


「嫌ニャ。こういうのは勢いが大事ニャ。我輩は野良猫として勝手に入ることにするニャ。始めからそうすればよかったニャ」


「待ってくれ! そもそも街で何をする気なんだ!?」


「冒険者登録をするニャ」


「猫が冒険者になれるわけがないだろうが!」


「それはおミャーが決めることじゃないニャ。ギルドは実力があれば種族を問わず登録できるニャ。我輩ほどであれば鳴り物入りで歓迎されるはずニャ。いまならドラゴンが付いてお得ニャ」


「そ、そうだ! ドラゴンもいたのだった! 中に入れるのは危険すぎる!」


「がう~……」


 忘れられていたゴロベーは悲しげだ。


「従魔ニャ。テイマー差別はよくないニャ」


「さ、差別などではない! あくまで危険性の問題だ!」


「おミャーらに忘れられるほど大人しくしてたニャ。従魔としての資格は充分ニャ」


「くっ、戦うしかないのか……」


「騎士団長殿、本気ですか? 猫はともかく、相手は小さいとはいえドラゴンですよ?」


「私にどうしろというのだ!?」


 衛兵隊長は腰が引けているようだが、騎士団長のほうはまだ頑なである。


「煮詰まってるニャ~。あ、そうニャ、お土産があるニャ」


「……土産? 通行税は払ってもらうが、賄賂は受け取らんぞ?」


「ちょっとした転生者ジョークニャ。言葉の綾ニャ。ここに来る途中、盗賊を捕まえたから、引き渡すニャ」


「は? 何だと?」


「話が進まニャイから、被害者から出すニャ。詳しいことはソイツらに聞くニャ。おーい、出てくるニャ!」


 クロスは言うが早いか、魔法でとある有名なドアを作り出し、それを開けると中に声をかけた。

 その後しばらくしてドアの中の不思議な空間からぞろぞろと大勢の人間が出てくるではないか。

 騎士兵士たちはその光景に呆気に取られるのだった。


「お、お前たちは何者だ」


「はい。私どもは商人でございます。商隊を組んで移動中に盗賊に襲われまして、そこをこの猫様とドラゴンさんに助けられたのでございます」


 クロスに被害者だと呼ばれた団体の代表が落ち着いた様子で騎士団長に答える。


「い、今までどこにいたのだ!?」


「ここはサエゼリアでございますね? 猫様が盗賊のアジトを片付けてから送ってくださるというので、それまでこの不思議なドアの中におりました。中は草原が広がっており建物もあります。御伽噺に出てくる『転移門』かもしれませんが、私にはわかりません。しばらくすると、盗賊に捕まっていたという人たちも中に入って来ました。子供は全てそうです」


 そう言われて騎士団長は子供が数人いることに気が付いた。なんとドラゴンに群がっているではないか。危険だと思ったが、どう見ても楽しそうにしている。何も言えなくなってしまった。


「ふふん、どうニャ! 我輩は悪い猫じゃないニャよ!」


 再びドヤ顔になる子猫、もといクロスであった。

 顔を引き攣らせながら騎士団長は質問を続ける。


「と、盗賊はどうなった?」


「今出すニャ」


 もう一枚別のドアが現れ、そこからぞろぞろと人相の悪い男たちが出てくる。

 拘束されている様子はなかったので兵士たちが身構えたが、よく見てみると、男たちは人相が悪いのに加えて死んだような目をしていて反抗的な態度を取る様子もなかった。


「……これが盗賊か? 何故これほど大人しいのだ?」


「魔法ニャ。素直になるように洗脳したから、拷問する手間を省いてやったニャ」


「洗脳!? そんなことが許されると思っているのかっ!」


「知らんニャ。悪人の人権問題は他所でやってほしいニャ。証拠が要るニャらこれも渡すニャ」


 クロスは能力を隠そうとはせず、今度はドアすら出さずに直接兵士たちの目の前に大量の証拠品を出現させた。金銭をはじめ、宝飾品、魔道具、武具、モンスター由来の素材などが木箱に詰め込まれている。一番証拠になりそうなのは手紙やメモなどの書類だろう。


「……これは……盗賊の後ろに誰がいるか丸わかりだ……捨て置けんな……」


 書類を一瞥しただけで、騎士団長にはことの重大さがわかったようだ。


「ふふん、どうニャ? 感謝してもいいニャよ?」


「……わかった。私の負けだ。詳しい話はきちんと聞かせてもらうが、街に入る許可は出そう」


「わかってもらえてうれしいニャ。早速ギルドに行くニャ!」


「待て待て。いや、本当に少しだけ待ってくれ。私が責任を持ってギルドまで案内するので、部下に指示する時間をくれ。副団長、そういうことだからこの書類を調べてくれ。あと、衛兵隊長、被害者たちの聞き取りはそちらに任せる。世話も頼んだぞ」


「「ハッ、了解しました」」


「では猫殿、行こうか」


「猫じゃニャくて、転生者クロス・ライトニャ。クロスと呼ぶのを許すニャ」


「偉そうだな……まあよい。ではクロス殿、行こうか」


「わかったニャ。ゴロベー! 付いてくるニャ!」


「ガウ? がうがう……」


「そうか、ドラゴンもいたな……従魔というからには引き離すわけにはいかんし、しかたないな……」


 ドラゴンのゴロベーは短い時間で子供たちに懐かれていたが、クロスがギルドに登録できたら改めて遊ばせると子供たちを説得し、やっと門の中に入ることができた。


「クロス殿。そなたは冒険者になって何がしたいのだ? いや、身分証がほしいというのはわからないでもないが、その力があれば必要はないだろう?」


 クロス念願の人の街の入り、道行く人々が小さなドラゴンが歩いているのを見かけて、慌てつつも騎士が同行しているのに気付いて首を傾げる、という光景を面白そうに眺めていたが、不意に騎士団長から根本的な質問をされた。


「我輩は転生者ニャから、テンプレに従ってるまでニャ」


「テンプレが何かはわからないが、結局何がしたいのだ?」


「冒険者になったら、孤児院を造るニャ」


「ますますわからん。どういう関連があるんだ?」


「転生者にしかわからない、と言ってもダメかニャ? さっきの子供たちを見たかニャ? アレは元気そうに見えるけど、我輩の魔法で精神をケアしてるのニャ。記憶を見たら、ほとんどが親に売られたり、そもそも親がいなかったりして、人攫いに狙われたニャ。そんな子供が世界にいっぱいいるニャ。我輩は神に力をもらったニャ。できるだけ助けてやりたいニャ」


「……そうか。神の使徒であったな。本当かもしれん。実に崇高な考えだ。見た目に拘ったことが恥ずかしい。謝罪する。私にできることがあったら何でも言ってほしい」


「転生者と認めてくれればそれで充分ニャ」


 街の大通りを堂々と歩くドラゴン。噂が噂を呼び、野次馬が集まる中、クロスは騎士団長に案内され、ついに冒険者ギルドに辿りついた。


 さて、クロスは無事冒険者になって孤児院を造ることができるのだろうか。


 それはまだわからない……




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《祝・猫の日》 転生者は見た目が大事!? IF番外ー猫は究極生物だった!? 樹洞歌 @juurouta

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