テンポがよくユーモアのセンスが抜群で、読みながらついつい笑ってしまう。ニートで引きこもりで体重88.8kgの娘を思うお父さんの気持ちが、切なく、滑稽で可愛らしい。
娘がハマっている未知の世界を戸惑いながらも理解しようとする努力も涙ぐましく可笑しく、その包み込むような愛情が(笑いながらも)心に沁みてきます。
お父さんが見守る娘の志帆が素晴らしく魅力的なキャラクターです。もしかしたら暗くなりがちな題材が、彼女の明るさによって救われています。
同時に彼女が抱えている傷の深さも感じ、何重の層にもなった人間の心が描き出されています。だからこそシニカルで現実的な言葉がその口から出るとき、悲しいほどの説得力があるのです。
お父さんの思い、娘の思いが不器用に絡み合った先にどんな結末が待っているか、ぜひお確かめください。
ユーモアと愛にあふれた家族ドラマです。
中学時代からすでにいろいろ怪しかった愛娘、渡貫志帆は32歳になった今、体重88.8キロのニートとして売れ行きのよろしくないBL同人誌制作に勤しんでいた。元気ではあるようだが、さすがにこのままではいけない。父である雅人は逸らしてきた目を今一度志帆へ向けることを決意。彼女を更生へと導くべく動き出したのだが、事態は思わぬ方向へ!
真面目な父によるニート娘更生記、ではありません。志帆さんと向き合うことを決めた雅人さんは突きつけられるのですよ。とある事情で社会から自分を断絶せざるを得なかった志帆さんの苦しみを。
それは普通の人である雅人さんにとって理解し難いもの。しかし彼は今度こそ目を逸らさず、多くの傷を抱えてそれでも独りあがいてきた娘へと向かうのです。それだけはけして揺るがない家族の絆を手繰って! この力強いカタルシス、実にすばらしい。
コメディから家族ドラマへ転じ、なんとも意外なオチに行き着く本作。読めばちょっと元気になれますよ!
(「社会の問題、その“今”を切り取る!現代ドラマ4選」/文=高橋剛)