今朝は君の所へ^._.^

月咩るうこ🐑🌙

俺はその辺の野良猫である。


俺が飼い猫として飼われたことは1度もない。


いつの間にかこの世に生まれていて、いつの間にか母猫に毛繕いをされていて、いつの間にか他の兄弟たちと育てられてきた。

あっという間に成猫になって、あっという間に母猫が死に、あっという間に兄弟と離れ一人ぼっちになった。


で、適当にその辺をうろついたり、好きな場所へ赴いて好きな場所で飯をもらって好きな場所で寝る。


散歩中の犬に吠えられても知らんぷり。

人間のガキ共に愛でられたりしても知らんぷり。


俺はこの生活を大いに気に入っている。

どこまでも気ままでいいだろう?


気に入っている最大の理由がある。

それは人間観察ができることだ。

家ん中で飼われてたんじゃできないからな。


人間は実に面白い生き物だと思う。

どうでもいいことで泣いたり喚いたり、怒ったり笑ったり...

愛し合っていたかと思えば時には殺し合ったりなんかしている。

そして我々猫には考えられないことなのだが、自ら命を絶ったりする奴もいる。

とにかく感情が凄まじく複雑な生物らしい。

こういうのを見ていると、生きるのが心底めんどくさそうで人間に生まれなくてよかったと思ったりする。


俺が一番人間観察ができるのはなんといっても朝だ。

朝は一番多くの人間が外へ出てきてどこかへ向かう。

子供たちが集団で手を上げて歩道を渡っていたり、スーツ姿の男女たちが忙しなく駅へ向かっていたり、カフェにはそんな人間たちがわんさかいる。

一度駅のホームへと足を運んでみたが、あまりの人混みに危うく踏み潰されそうになり、それからは二度と行っていない。

ダンボールみたいなものに包まれて寝ている奴らもたまに見かける。

繁華街では酔っ払って道端で寝ている奴がいたり、派手な衣服に身を包んだ奴らが客を送り出していたり、今から帰るかというような男女が寝ぼけ眼で歩いていたりする。


まぁ、それはなんだっていいんだが、朝に楽しそうに歩いている人間はほとんどいない。


誰もが緊張した面持ちだったり、気だるそうにしていたり、苦しそうに走っていたり、とにかく皆不機嫌そうだ。


それが猫の俺には妙に気になって仕方がない。

そんなに朝は辛いものなのだろうか?


しかし俺を知ってる人間は結構いて、声をかけられたりもする。


「よぅ!にゃんこ!おはよう」

「クロくんおはよー。」

「おはよう、にゃーちゃん」


俺が、にゃ〜と一声あげれば人間はちょっとだけ笑顔になる。

なぜかは分からないが、猫には愛想がいいみたいだ。

でも俺も人間には愛想がいいだろう?

だからにゃんこでもクロでもにゃーちゃんでもなんでもいいから飯をくれと思う。


そして俺は飯をもらうために毎朝いろんな家の中を覗く。

馴染みのところは快く飯を出してくれるが、そういった所は増やしておくに越したことはないから俺はとにかく良さそうな人間を探すために窓から覗く。


家族皆で朝食を囲んでいる家もあるし、たった1人で飯を食ってる奴もいれば、とにかくバタバタと準備をしたりして忙しない奴もいる。

抱き合ってまだ寝ている男女もいれば、痴話喧嘩をしている夫婦みたいなのもいたり、目にクマを張り付けてテレビゲームみたいなものから目を離さずにいる奴もいる。


人それぞれに全く違ういろんな朝があるようだ。


「おはよう」「行ってらっしゃい」

それが朝によく聞く人間の言葉だ。

俺にもよく言ってくれる。



「あっ、にゃんちゃん。おはよ。ごはんだね?」


結局いつもの女のところでご飯にありつくことになった。

玄関の前で食事をする俺の頭上から声が降ってくる。


「君はいいね。いつも気ままで。私も猫だったらなぁ。次に生まれ変わったら君みたいな猫になれるかな...」


どこか切なそうな悲しそうな声でそう言った女に俺はにゃ〜と鳴いてみせた。

おはようと言ったつもりなのだが伝わっただろうか?

くすくす笑って俺を一撫でした後、そそくさと出かけて行ってしまった。



「おはよう」

その一言の意味は俺にはよく理解できない。

けれど、なんとなくわかるのは、それは人間が今日一日を生きる始まりの言葉。


それに意味を持たせるのだとしたら、「生き抜け」以外にないのではないかと思っている。


今日一日を無事に生き抜いたら、また朝が来る。

その朝をまた生き抜いたら次の朝が来る。


それを繰り返して生き続けているのはもちろん人間だけではなく我々猫だってなんだって世界中の皆がそうだ。


しかしその言葉に意味を持たせて使っている奴がいるようには俺には見えない。


何千回何万回と繰り返すそれは、とってつけたように皆朝に言う無機質な単語。

そんなふうに思えるのだ。


だが言葉を発せられるのは人間しかいないんだ。

俺のように猫はにゃ〜しか言えないし、犬も、鼠も兎も、人間以外は皆言葉なんて発せられないんだ。



せっかく言葉を操れて、しかも毎朝使う言葉があるのなら、そこにきちんと意味を込めて言うべきなんじゃないのか?



今日も無事に生き抜け


と。



俺がさっき

あの人間に言ったように。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

今朝は君の所へ^._.^ 月咩るうこ🐑🌙 @tsukibiruko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ