第4話 会敵

頭の中に聞こえる【扉の声】に従って30分ほど歩くと、2メートルほどの大きさであり大理石で作られたかのような塔の前にやってきた。


「これがポータルってやつか?」


[はい この建造物が『ポータル』です 手を触れると第2階層に転移します]


「…」


このポータルとやらは、中世ヨーロッパの神殿に置いてあるような見た目をしている。

だが大きさが2メートルほどであり、身長170センチの俺とあまり差がない。

本当に触っただけで転移するんだろうか…


半信半疑でポータルに触る。


[シン 手を触れたら3秒後には第2階層に到着します 到着後すぐに身を隠せる場所を見つけ移動してください]



「え?」


扉の声がなにやら不穏な事を言っているが、それよりも目の前に起こった変化に意識が向いた。


さっきまで目に映っていた景色が、パズルのようになり、一気にピースが崩れ落ちて目の前が白い光に覆われた。


「まぶしっ…! 着いたのか?」


目を開けて周りを確認すると、シンは驚いた。


「ここ…渋谷だよな…!?」


周囲には多くの高層建物があり、中央に数字の書かれた建物がある。


人間は一人も見あたらないが、東京の渋谷の街そのままである。


「え、なんで…」





[シン!]



「え」


反応できたのは、扉の声が頭の中に響いたからだ。

1秒前まで自分の頭があった場所に、何かが高速で通過する。微かに「それ」が頬に掠れ、赤い血が吹き出す。


「いたっ…!」


[シン!もう一度きます!]


咄嗟に両手で頭を庇うようにしたのは生存本能が働いたからかもしれない。右手の肘から上に「それ」が激突する。


「ぐぅぅあぁ!」


見れば右手は紫色に変色しており、とても強力な力で当たってきたことが分かる。


「はぁはぁ…! なんだよ…!」


全速力で走りながら視界の左に見えた、地下鉄の入り口になっている階段を下り、地下に身を隠す。


地下にあった公衆トイレに入り、鍵をしめてその場に座り込む。


「はぁはぁ…痛いっ…!」


何に右手を攻撃されたのか、どのように攻撃されたか全く分からなかった。

唯一分かったのは、何かが高速で飛んできたことだけ。


[先程の攻撃は『イーグル』によるものです 上空30メートルを飛行しており 空中から攻撃をしていたようです]


「な、なんだよそれ! 倒しようが無いだろ…!」


空にいるモンスターなんか、倒せるわけないに決まってる。いや、鍵を持ってるモンスターじゃないなら倒さなくてもいいのか?


[シンはレベルを上げる必要があるため 『イーグル』の討伐を推奨します]


だよな…レベルを上げないと3階層にも進めないし、倒す必要があるのか。

だが、あんな速くて飛んでいるモンスターを倒すのなんて無理に決まってる。


「うっ…!」


右手がズキズキと痛み出し、涙が目に浮かんでくる。


「クソッ…! こんなところ、来るんじゃなかった…!」


涙が溢れ、心が絶望感に支配される。

さっきまでのワクワク感は一ミリたりとも無くなっていた。





[……]






[…シン あなたの体に私【扉の声】を、『統轄』を承認してください]


…統轄?俺の体の一部になるってことか?

よく分からないがあいつを倒せる方法があるってことか?




「ああ、許可するよ。倒せるのか?あいつ。」


[はい]


こいつは諦めてないみたいだな。何か作戦があるんだろうか。

でも飛んでるモンスターを倒す方法なんて思いつかないぞ。


[ 私【扉の声】が顕現します 対象〈シン〉を媒体とし『統轄』を開始 完了しました 

〈シン〉と私の権限は5対5の割合です 『統轄』状態に入ります。 全ステータス10ポイントの上昇を確認

これより掃討を開始します]


「おお…」


統轄が完了すると、頭の中に響いていた扉の声が聞こえなくなった。

今度は頭ではなく、胸の中から声が俺の意識に働きかけてきた。


[シン 聞こえますか? 『統轄』が完了しました

これから『イーグル』を討伐し 第2階層にいる異形生物全てを倒します 準備はいいですね?]


「お、おう。」


胸から熱さを感じ、扉の声がやる気に満ち溢れていることが伝わってくる。


[では行きましょう]


足が勝手に動き出し、トイレを出て階段を登り、地上に出る。どうやら扉の声が俺の体を勝手に動かしているようだ。

空を見上げると、体長1メートルほどのトンビとタカを混ぜたような鳥が、空中を旋回していた。


「あれがイーグルか。」


右手がズキズキと痛む。体は逃げろというように震え出す。

しかし、胸がドクン…!と鼓動し、体の震えが止まる。



[シン 私たちの最初の共闘ですね]



「…お前って人格とかあるのか?すごいやる気を感じるけど…」



[その話はまた後で まずは『イーグル』を倒してからです]



「だな」



扉の声からは負ける気を一切感じず、先までの恐怖は無くなっていた。




[私【扉の声】が命令します 『ウエポン 炎之剣(フレイムソード)』を召喚 ]


扉の声が聞こえると、空から刀身が赤黒い刀が落ちてきて、勢いよく地面に突き刺さった。





[さぁ 剣に手を 反撃開始です]


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俺にだけ聞こえる「声」で門扉(ゲート)攻略 侶子 @rocoham

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