第3話 扉の声
40年前に現れた「それ」は、空間を裂いたかのような禍々しい見た目であった。
最初に「それ」の中に入った人は「声」を聞いたという。
[門扉の接続に成功 7等から1等門扉を配置
最重要指令を遂行 失敗しました
最重要指令を再設置 完了しました]
この「声」から、「それ」は「門扉」と名付けられた。人々は門扉を「ゲート」と呼ぶことにした。
※※※
「ここが門扉(ゲート)の中か…!」
周囲に人工物は何もなく、辺り一面に草原が広がっている。
地面から生えている草も3センチ程で、歩くと サクサク と音がなる。
風が フゥゥォォ と優しく頬を撫でてくる。
「門扉(ゲート)に入っちゃったな…これで俺も狩者になれたのか?」
と少し照れながら、スキップのように周囲を歩く。
受験には落ちたが、大人気職業に就けるかもしれない。
俺はウキウキしながら探索ごっこを始めた。
「あれ…門扉(ゲート)の入り口どこだ?」
10分ほど歩くと、どの方角から来たか分からなくなってしまった。
その後、2時間ほど周囲を探したが、入り口は見つからなかった。
「やばいな。誰にも連絡してないし、電話も通じない。…どうすればいいんだよ…。」
門扉から脱出できずに死ぬというのは、狩者の中ではよくある事例だ。体が勝手に震え出す。
考えたく無い未来を、自らイメージして更に恐怖を感じていく。
顔が血の気を引いていき、指先も冷たくなってきた。
「誰か助けてくれよぉ…。」
[対象の要望を受諾 対象に【扉の音を聞く者】を付与 …失敗しました 対象のスキル【扉の声】に【扉の音を聞く者】の付与を申請 …受諾されました
【扉の音を聞く者】を付与 …完了しました]
「え…?」
急に女の人の無機質な声が周囲に響いた。
「な、なんだ…? 扉の声? 俺スキルなんか持ってないぞ…?」
スキルはレベルが3になったらようやく手に入るもので、狩者で稼ぐにはレベル3が必要だと言われている。
そんなものを俺が持っているはずがない。
「なんだったんだ?今の。」
[先程の声は門と扉の管理をするシステムのものです]
突然頭の中に、さっきの声とは違う、鈴を優しく鳴らしたかのような女の人の声が聞こえてきた。
「は!?なんだよこれ!?」
[私はスキル【扉の声】です 初めまして主人]
「と、扉の声…?俺が持っていたスキルってことなのか?」
[……その質問には現段階ではお答えできません]
「…?」
いきなりすぎてよく分からないが、俺が所持しているスキルだそうだ。
質問に答えてくれるスキルということなのか…?
「ん? じゃあお前って他の質問なら答えてくれるってことか…!?」
[主人の質問には全てお答え致します]
「まじか! ならここから出る方法を教えてくれ!門扉(ゲート)の入り口が見当たらないんだ!」
[この扉の入り口は現在閉鎖しています 外に出るためには扉の『鍵』となる生物を倒し新しい『鍵』になる必要があります]
「鍵? 鍵を持ってる異形生物(モンスター)を倒して、俺自身が『鍵』になるってことか?」
[その認識で間違いありません]
「なるほどな…。でも、周りに生き物1匹もいないし、俺戦ったことなんて無いんだけど…?」
[現在主人がいるのは第一階層です 生物は第二階層から存在しております 戦闘になった際は私が戦闘支援(サポート)いたしますのでご安心ください]
「え? いやいや…武器も持ってないし、モンスターを殺すなんて無理だよ俺」
[扉から出るには『鍵』になる必要があります 『鍵』になれなければ脱出は不可能です]
なんでこんなことになってしまったんだ…
いや、俺が興味本位でゲートに入ったのが原因か…
この扉の声とやらがサポートしてくれるならモンスターと戦闘になったとしても、安心ってことなのか?
「分かったよ…。鍵を持ってるモンスターを倒さないと出れないんだろ? まずはモンスターがいる二階層に行こう。 行き方は?」
[第二階層へ行くには『ポータル』を見つける必要があります。『ポータル』はすでに発見していますのでご案内いたします]
「…なんだよポータルって。ゲームでいう転移するのに必要なものみたいなやつか?」
[その認識で間違いありません]
「…分かった。まずはそこまで案内してくれ。」
[了解しました主人]
『鍵』だの『ポータル』だの…そんなことテレビでも学校でも聞いたことないんだけどな…
狩者の間では常識なのか…?
「それと主人って言うのやめてくれ。 なんか背中が痒くなる…。 俺は速水真だ。これからは真で頼む。」
[了解しました シン]
くそっ。早く家に帰りたくなってきた。
でも…… この状態に少しだけワクワクしている自分もいた。
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