第2話 「私の話」

『これから記す内容は、嘘のようで本当に起こった、私と貴方への物語です__



これを読んでいる私は今どこで何をしているのでしょうか。全てを理解してしまった今、ここに綴ることでしか彼の気持ちを救うことができないように思えるのです。』






「ようやく来ましたね。」



宛もなく雪の中を歩いていた一人の少女はこの日、とある家屋に辿り着いていた。


見た目の古いこの家の周りには雪景色のみが広がっていて他に家屋のようなものは見当たらない。しかし吹雪を彷徨う中で救いを求めていた少女に「ごめんください」と戸を叩かせるには充分な程のものであった。


「寒かったでしょう。」


コンコンと戸を叩くと間もなくして扉が開かれる。しかし中から出てきた姿を見て少女は一瞬ドキリとした。それは失礼ながらにも、出てきた現世の者とは思えないほどに透き通っていたからだ。


「何をしているのですか。早くお入りなさい。」


その美しさとは反対に、風邪を引くだろうと眉間に皺を寄せ顔を訝しめる彼。少女はそれを見て慌てて中に入った。


「靴を脱いだらこちらへおいで。雪が肩に乗っていては寒いままだ。」


青年のまっすぐな目に少女はわずかに急ぎながらも靴を脱ぎ部屋へと上がった。


中に入るとそこには大きな部屋が一室のみあった。さらに目を凝らして見るとその中央には砂のたまり場があり温かい火が灯っている。おそらく彼はこの火の前に来いと言っているのだ。


「寒かっただろうね。なにか食べる物をあげよう。」


そう言う間もなく彼の手には温かそうなスープが置いてあった。するとそれを見た途端、少女は不思議に思う。


「今、ちょうど料理をしていたのですか」


こんな山奥に一人の少女がここに来ることを誰が予測出来たことだろうか。出来たてのスープは作り置きのようなものでもなさそうである。

しかし彼はそれを聞くと特別気にする様子もなくすぐにお椀を手渡し、そして毛布を取りに行ってしまった。


言葉を躱された少女は仕方なくスープを一口飲むことにした。


「おいしい...」


こんなに温かい物を飲んだのはいつぶりだろうか。静寂の澄み渡る一室の中で、しばらく少女は手元のスープを見つめていた。するとそれから彼が声をかけるまでに時間はかからなかった。


「おいしいかい。それは良かった。」


少女が驚いて振り返るとそこには手に毛布を持った先程の青年が立っていた。スープに夢中で足音が聞こえなかったなんてことはバレたくない。少女は大人ぶってお辞儀をした。


「吹雪も止まない寒さの中だと言うのに、突然お邪魔してしまってすみません。すぐに出て行きますから。」


慣れない言葉を並べる少女の姿に青年はふふっと笑みをこぼす。


「気にしなくても良いんですよ。元々貴方がここへ来ることは知っていましたから。」


さり気なく言われたその言葉に少女は自身の耳を疑う。


「知っていた?どうして。」


しかし青年はそれきり会話を続ける様子は無さそうであった。

また躱された。少女は彼の様子を見ると少しムッとしながら残りのスープを飲み続ける。


「___またここから。」


気がつくと彼は一言そう呟いていた。しかしそれを少女が気にするより先に彼女の目を見つめて次の言葉を並べてきたのは彼の方だった。


「それを飲み終えたら早く布団で寝るんだよ。風邪を引いてはいけないからね。」


体を壊しやすい少女にとってその言葉は懐かしいようにも感じた。彼女は素直に言葉を受け取る。


「分かりました。そうします。」


するとその様子を見た青年は微笑みを返した。そして少女は次に火の方へと視線を向ける。


「それは''囲炉裏''と言うものだ。温かい火がずっと灯っていられるようにするんだよ。」


彼女は目を丸くした。まさに今それの名前を聞き出そうとしていたところだったからだ。


「何故...」


しかし少女の言葉を遮るように青年は口を開いた。


「お喋りは明日以降にでもしよう。とにかく今はゆっくり体を休めるといい。」


彼の見つめる視線には強く服従させるものがあるように感じた。仕方なく少女は会話を諦め、しばらく暖を取ってから奥の部屋の布団に潜り込むことにする。


「なんだか不思議な人ね。」


そう呟く少女の声は、布団の中であるためか幸いにも青年には届いていない。しかし彼女はそれから目を閉じるとすぐさま夢へと堕ちていくのだった。




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