13・そして


 おじ様の旅のお供に立候補して一週間。

 わたしは忙しさに圧倒されていた。

 何せこの世界、引越しとは前世と比べてもとっっっても大変で。

 まず家の整理。母の洋服をご近所の奥様はお姉様に譲り渡し、繕い直してわたしの服に活用できるものはそうする。

 薬の材料の仕分けに、道具の片付け。何から何まで片付けなきゃならない。

 そしてそれをこの九歳の体でやるのがもう大変!この作業だけで一週間かかってるのにやっと半分終わらせられたところだ。

 まぁ、この作業が進まない理由は他にもあったりする。


「こんにちはユオシーちゃん。ねぇ、本当に村から出ていくのかい?」

「勝手に入ってこないで。出ていくよ」


 そう、ロリコンだ。

 このロリコン、わたしを引き止めるために毎日のように来ては邪魔をしてくる。本当にキレそう。いっそ燃やしてやろうか。

 止めてくるのはロリコンだけではない。ロリコンに味方してる村の人達もそう。貰うものは貰ってる癖に、口を開けば村長のお世話になれば安泰、だ。安泰なのは私の人生じゃなくてお前たちの方でしょうが!

 でも、最近は親のいない子供の扱いなんてこんなものなのかもしれないと思い始めてる。

 何も言わず助けられず、農奴にされることだってあるんだろう。私の場合は、まだ選択肢があるだけマシなんだろう。

 そうとは思っても上手く割りきれないんだけどねー。いやさ、親を亡くしてひとりになってしまったばかりの子供に大人が寄ってたかって自分たちの都合のいい言葉ばっかりかけていくんだもん。ぶっちゃけ洗脳かな?って思った。

 そんな人たちにも効く言葉をおじ様から教えてもらったから、最近はそれを返してる。


「わたし、教会にはいるの。めでたいことでしょう?」

「うっ……それは、そうなのだけど…」


 これだ。

 なにやら、教会に入るというのはとてもめでたいことらしい。特に、教会に入る条件として魔法の適性の有無があるから、庶民からそうなるのは本当に珍しくておめでたいことなんだとか。

 本来ならば村総出でお祝いして旅に送り出すくらいはするもんなんだとさ。

 ちなみに、魔法の適正がなくても教会に入ることはできるっちゃできる。ただ、その場合は“入る”じゃなくて“お世話になる”になって、自活もできない生活力のない人ってことになるらしい。それでも、お金のない村での口減らしなんかではよくあるんだって。まぁ、村でひもじい暮らしをさせるくらいなら教会でお世話してもらう方がって感じみたい。そうなると、その子供の扱いは教会預かりの孤児ってなるんだけどさ。

 まぁ、実際に教会にはいるつもりは今のところない。

 おじ様が言うには、ある程度大きな街からはラノベで定番の冒険者ギルドがあるんだと。冒険者ギルドでは十歳から仕事ができて、その内容は多岐にわたる。魔物や魔獣の討伐から、荷運びやゴミ掃除の雑用まで。そしてわたしには調薬スキルもあるから、最悪どこかの薬屋に弟子入りしてってのもアリなのだ。

 実際に王都について何をするかはまだ未定だけど、多分どうにかなる、はず。お金はあるしね。

 そんなわけで私にこの村に残るという選択肢はまるでない。だって外に出た方が将来への可能性が多いんだもん。利点の多い方を選んで当然なのよ。

 それなのに、村の人達はどうにか引き留めようとする。鬱陶しくて嫌になるね!


「でもほら、村の外は危険が沢山あるし」

「わたしは魔法も使えるし、おじ様がいるから平気」

「怪我をするかもしれないよ?」

「そのための魔法だし、薬は作って持っていく」


 危険があるのはそれはそう。でも、なんか話を聞いた感じおじ様ってば結構戦えるみたいなのよね。じゃなきゃこんな辺境の教会配属にならないか。戦えない人だと、何かあった時すぐ死ぬし。

 わたしはディエゴをあしらいつつも木箱の中に母が書いたであろう調薬レシピのまとめられた本や薬作りで必要な薬研なんかを詰め込んでさっさと家から出た。

 構うだけ時間の無駄だし。


「おじ様〜、これも持っていく〜」

「あぁ、ではそこに置いておいてください」

「はぁい」


 一方教会でもおじ様の引越し作業が行われていた。と言っても、さすがは清貧を美徳とする教会所属だ、荷物って荷物がまぁ少ない。

 おじ様の主な作業は無駄に広い教会のお掃除らしい。


「あとどれくらいありますか?」

「んー、服と薬の材料、毛布とかそれくらい?」

「あなたも荷物が少ないですねぇ」

「子供だもん。それに、家具なんかは持っていかないしね」


 実際必要なものってそんなにない。

 向こうに着いたら暫くは宿屋のお世話になるだろうし、服だってそんなに持っていっても成長したら着れなくなるもの。

 薬師として必要最低限のものと、多少の着替えと寒くないようにするものがあれば十分だと思う。

 食材やら薪やらはおじ様が用意するみたいだし。


 そして更に三日たち、いよいよわたしは旅に出ることになった。

 空はからりと晴れている。

 王都まではひと月程度かかるらしいから、ギリギリ冬には間に合うかな。

 王都について、冬があけたら十歳だ。一応、ちゃんとした誕生日的には夏には十歳になってるんだけどさ。

 そんなわけで、わたしユオシー十歳。

 王都をめざして旅に出ます!しゅっぱーつ!

 

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転生乙女は平和な日常を謳歌したいだけなのに 槐蜷 @enju_nina

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