12・助けておじ様!


 さてさて困りました。いやまじで。

 突然の母の死にべそべそしていたけれど、現実にぶん殴られてハッとした。そういう意味では墓前でプロポーズなんてクソみたいなことをしてくれたディエゴに感謝だ。嬉しくないけどね!

 九歳の便利な子供、それが村の大人たちから見たわたしだ。親がいないのをいいことにいいように使われるのは一目瞭然。

 どの家のお世話になるってなってもそうだ。

 唯一の例外は教会だけど、教会はおじ様しかいないとはいえあくまでも個ではなく集団だ。光魔法が使えるから問題なく所属できるとはいえ、どこに配属されるのかもわからないし、死ぬまで清貧を貫かなきゃならない。

 まぁ、それはそれで別にいいかな、なんて思うけど、折角異世界に産まれたんだもん!成人したらこの辺境の中だけでも旅をしたいとか思ってたんだよ!魔法も使えるしさぁ!

 教会に所属したら旅は叶わないだろう。旅する聖職者ってなんやねん。

 だがしかし、現状で頼れるのはぶっちゃけおじ様だけ。

 おじ様は、わたしの結婚だとかそういう話の時は第三者として見守っててくれたから。


「おじ様ぁ!わたし、このままじゃ飼い殺しにされるぅぅ!」

「またどこでそんな難しい言葉を…はぁ、とりあえず落ち着きなさい。どういうことです?」

「うぅ〜!」


 べそべそと半分嘘泣きで同情を引きつつもおじ様へと状況を説明していく。え?嘘泣きはずるいって?何言ってるの、女の子なんてこのくらいの歳から嘘泣きをマスターして、便利に使うものなのよ(偏見)。なにより子供が泣いてたらどうにかしようって思うでしょ、まともな大人なら!それに半分は嘘だけどもう半分はガチだし。えーん、まじでこの状況どうしよう!


「なるほど…ユオシーは、あくまでもディエゴとは結婚したくないんですね?」

「ぜっっっっったいにイヤ」

「何故そこまで拒むのかわかりませんが、はぁ…」


 ロリコン死すべし!慈悲は無い!

 イエスロリータノータッチなら別にいいかもしれないけど、ディエゴはそうじゃないんだもん。全然気軽にボディタッチしようとしてくるし、結婚なんてしようものなら酷い目に遭うし、多分歳とったら幼女に浮気される。そんなのお断りよ!

 悩む素振りをするおじ様に何か妙案は無いかとじっと見つめていると、彼はあぁ、と小さく手を叩いて笑う。


「時にユオシー、ソフィアさんは実は教会にお金を預けて貯めていましてね」

「ほぇ?」


 初耳。えっなに、教会って銀行みたいなことしてるの?

 顔に出ていたのか、おじ様はくすくすと笑う。


「普通の教会はしませんよ。ただ、ほら。ソフィアさんとユオシーちゃんしかいない家です。お金を貯めておくには、いくら村の中とはいえちょっと不用心でしょう?ですから、私が預かっていたんですよ。まさか、神の見てる前で泥棒なんてできませんからね」


 はー、なるほど。

 確かに母娘二人しかいない家だもん。なんなら二人とも留守、ってこともあったし、なにより薬屋は儲かってしまう。だってみんな何かしら怪我をするし、冬になれば風邪も流行るし。

 ご飯が豪華、とか洋服が特別綺麗、って訳じゃなかったから普通にそんなに稼げてないと思ってたけど、変にやっかみを受けないように母が金銭のセーブをしてたのか。すっげ。

 そしてこの世界、神の前で悪いことをすればその魂は救いあげられずさ迷うことになる、って言われてる。だから教会で蛮行に及ぶ人間はそうそういない。この村でそんなことしようものなら、まず村から追い出されるだろうしね。


「それで、実はユオシーにはその遺産があるわけです」

「ふむふむ」

「金額にして、金貨十七枚、銀板九枚、銀貨四十八枚、銅板三枚です」

「きんっっ、ほぁっ!?」


 予想外の金額にとんでもない声が出た。

 ここで、この世界のお金について説明しよう。

 この世界で一番小さなお金は銅貨、それが百枚で銅板一枚。

 そして銅板が十枚で銀貨一枚。

 銀貨が百枚で銀板一枚。

 銀板が十枚で金貨が一枚。

 金貨よりも上のお金もあるらしいけど、そこまで行くともう平民には関係の無いお金。国が動かすような大金だ。

 銅貨が三枚で、パン屋で大人の男の拳くらいのパンがひとつ買える感じ。

 感覚的には、銅貨が十円、銅板が千円、銀貨が一万円、銀板は百万円、金貨は一千万円だ。

 このうち平民が一生のうちで目にするのは銀板まであればいい方。

 金貨なんて、貴族様や大商会なんて言われるおおだなの店が取引で使うような金額だ。

 それが十七枚もあるといえば、わたしの驚きも理解してもらえるだろう。いやほんとに、薬屋で遺産にできる額じゃないよねぇ!?そりゃ教会にも預けるわ!


「どうやら、金貨や銀板に関してはあなたのお父上が残していったものらしいですよ」

「はぁ……えっ、父が?」


 見たこともない父親だが、何やらお金は置いていって蒸発したもよう。いや待て、金貨を置いてくって父親何者!?

 ここにきて、なんとも嫌な予感にぞわぞわとする。


「もしかしたら、ユオシー、あなたは貴族の御落胤の可能性もあります」


 あぁあ〜!やっぱり!やっぱりそうだよね!?

 蒸発じゃなくて連れ戻されたとしたら納得だよ!お金はあれかな!手切れ金的なものかな!?

 思わず頭を抱えるわたしに、おじ様は軽く笑いかけるととんでもない提案を持ちかけた。


「ふふ、そう悩まなくとも。それでですね?お金もありますし、あなたは魔法も使えて、多少なりとも薬も作れる。さて。話は変わりますが実は私、翌年度からは勤め先が変わるんですよ。場所は王都です。あぁ、そこまでに旅の生活を楽にしてくれる魔法使いがいれば助かりますねぇ。それに、薬を作れるならば心配事も減ります。ユオシー、そんな便利な方を知りませんか?」


 ―――はいっ!わたしですっっ!

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