第6話 強敵


「やはり居たのか、飛んで火に入る夏の虫がよォ」


先ほど室内で徘徊しているのを見かけた男だ。しっかりと武器を構えており、それは引き連れている手下も同様だった。


「アルシュラの差し向けた使いか?それともガキにすがり付かれて助けに来た愚か者か…まぁどちらにせよ殺すだけだがな!ハッハッハ」


ローゼスが銃口を向けると、4人の手下は各々武器を取り出し間合いを詰めてきた。


「ガキがナメてんじゃねぇぞ!」


「近距離は任せたぞ!」


そう言うと、ローゼスはその場から瞬時に後退した。


「ちょ、ちょ!おい!待て!俺一人でこの数を!?」


バシィィィ


後ろを振り向いた途端に前方から突っ込んできた手下の棍棒が俺の頬を直撃する。

後退していたローゼスの隣まで吹き飛ばされると、手下たちは高らかに笑い声をあげた


「ブハハハ!!こいつら!こんな程度で俺たちに挑んできたのか!? これならモザナ一族の方がよっぽど…」


バヒューーン


「え、あ…?!」

「バカが…油断してんじゃねェよ」


高笑いをあげている隙にローゼスはしっかりと一人を狙撃し鋼鉄の弾丸に沈める。

それを見て突撃してくる他の三人も的確に一人ずつ迎撃し、手下は全て沈めた。


「今のはお前にも言ったんだぞ…デイン」


差し出されたローゼスの手を取り起き上がる。

例え姿は少女だったとしても、狙撃手としての腕は鈍っていない様子だ。


「おいおい…俺の数少ない生き残りの部下が全員死んだじゃねぇか」


能力者の男は剣を鞘から抜き出す。するとまるで笑い話のように語りかけてきた。


「元は手下も50人はいたんだぜ…? それをたった10人のモザナの戦士にここまで減らされた…信じられねぇだろ?」


だが、そのモザナの戦士は男がたった一人で倒したのだと言う。

となれば、この男ひとりの強さが一体どれほどか、図り知ることは容易だ。


剣の突っ先を地に引き摺りながらこちらへと疾走する男。

ローゼスもそれに対して射撃するが弾の軌道がブレているのか、先ほどと打って変わって着弾していない。


「チッ…なぜだ!?」

「ブハハハ!!死ねぇぇ!!!」


ギィッッン


ローゼスの前に立って盾になるような形で男の攻撃を持っていた剣で受け止めた。


「ぐっ…クソがッ!邪魔だッ!」

「ローゼスッ!!今だ!!能力を使え!!」


俺の言葉に呼応して瞬時にローゼスは背後からスッと横に飛び出して男に近づき右手を突き出した。

すると男はつばぜり合いを止め、一瞬にして後方へ退避した。


「おっ~と、やはり能力者か…その動きを見るにどうやら俺に触れなきゃ発動しないらしいな」

「クソッ…!避けられたか…!」


男に見破られたことで戦況は一気に変化してゆく。

ローゼスは完全に警戒されてしまい、近付くことはままならない。

逆に距離が出来ることを利用して、銃撃を試みるもやはりどれだけ撃っても男に弾は一つたりとも当たらなかった。


「こんな小娘が一体どこでこんな狙撃技術を身に付けたんだ?」

「お前には関係の無いことだ」

「当たってんだよ…当たってんだよなァ~本当はよォ…しっかり的確に俺のタマ狙ってやがんだよ」

「なんだと…?」


矛盾した言葉を発する男に困惑する。

なぜなら、ローゼスの撃った弾は一弾も当たっていないのにも関わらず、狙いは的確と言うのだから。

その言葉の意味するところが分からないがローゼスはどうにも何かヒントを得ていたようだ。


「やはり何らかの能力か…当たっていないはずがないんだ」

「フフッ…恐ろしいか?己の技術を疑いたくなる現実がよォ…」


やつの能力が何なのかはまだ分からない。だがそれは相手も同じ事で、こちらの情報はまだローゼスの能力発動には手で触れなければならないというしか判明していない。

しばらく剣での応戦が続き、ローゼスは男への狙撃を止め、スタミナ切れになりつつある俺への援護射撃に徹していた。

次第に銃の弾は切れ、とうとう追い詰められてしまう。


「フフッ…どうやらもう、終わりだな。なら最後に見せてやろうか?俺の能力を…」


そう言うと男は手の甲に刻まれた〝赤の紋章〟を見せつけると、自慢気に能力を説明してみせた。


「俺様の持つ能力は〝風を操る力〟だ…お前の完璧な銃撃ショットが当たらないのも、風を操作し弾の軌道をわずかにズラしたからだ」


そう言うと男は片手に持つ剣を投げ捨て両手をこちらへ向けた。


衝撃風ストームド…ッ!!」


ゴォォオっと強烈な音を立てながら発生した竜巻が俺とローゼスの二人もろとも宙へと打ち上げた。

飲み込まれた竜巻の中で衝撃波を受け、体は見るも無惨にズタズタにされてゆく。

そのまま真っ逆さま地面へと落下し、地に打ち付けられた衝撃で更に肉体にダメージが加わる。


「さぁ、ゲーム終了だな…」


そう言うと男は再び剣を手にし、トドメを刺そうとジワジワとにじり寄ってくる。


「すまねェ…オレがお前を巻き込んでしまったせいで…」

「よせ…俺がもっと強ければこうは…」

「ブハハハ!ゲス同士…最後は傷のナメ合いか!!もう…死ね!」


ガンッ!!


「なんだァっ…!?」


殺されると思ったその瞬間、閉じていた目を開けると頭上で男がよろめいている姿があった。

よろめいたその流れで男はバタリとその場に倒れる。


「お兄ちゃんたち!!そいつをやっつけて!!」


遠方からこちらに向かって少年が叫んでいるのが分かった。


突如として窮地を救ってくれた少年が投げつけたであろう木製の矢は男の耳に突き刺さり出血を伴っていた。

男は警戒していなかったからか、能力を発動していなかった為に矢が当たったのだ。


「チキショォォウ!!」


不意打ちによる攻撃で痛みに喘ぐ男を前に、反撃の姿勢に出る。


「ローゼスッ!!」

「あァ、分かってる!!」


横たわりながら耳を押さえ痛みに悶える男に、ローゼスはばしっと右手を当てる。


ポワポワポワ…


すると、船着き場で見た時のように男の体を覆い尽くすように煙が噴出する。


「最後はお前だぞ…デイン!」


煙が消えると、ローゼスの能力が発動されており、男は見紛うことなく女性へと変貌していた。


「あ、あれ…私…一体なにを…?」


当然の出来事に困惑している様子だが、これは命を賭けた戦いだ。油断が命取りとなる。

それがこの戦いの決着への命運を分けた要因と言えるだろう。


「いでよッ!!我が必殺剣ッ!!性なる最強の剣セクス・キャリバーァァア!!!!!」


雄叫びと共に俺は格納されていた〝最強の剣〟を解放する。

ローゼスはしっかりと目を手で覆い隠し、能力の影響を受けないよう対策していたが、男…もとい女はしっかりとを凝視していた。


ドキュンンン


「はぁ…はぁ…旦那様ぁ~!」

「やった…のか…?」


まるで発情しているかの如く、目はトロけ一心に俺の方を見つめていた。


「おい…聞くが、まだ俺たちと殺り合おうってのか!?」

「い、いぇ~そんな~ 私があなた様と戦うだなんて…」

「どうやら効いたみてェだな…なんて恐ろしい力だ…」


明らかに敵意は喪失している。分かってはいたが、いざ発動してみるとこれがいかに凄まじい力なのかを思い知らされる。


「お兄ちゃんたち、勇者なの!? ていうか凄い力だね!」


不意打ちの援護射撃をしてくれた少年が近寄ってきた。

この少年の助けなくしてこの一戦に勝ちはなかったと言える。命の恩人だろう。


「キミのおかげで助かった。ありがとう…」

「うぅん、僕の方こそ悪党を懲らしめてくれてありがとう!」

「お前か?爺さんの言っていた伝書鳥を飛ばしに行った少年ってのは」

「少年じゃない!僕はティビカって名前だよ! アルシュラ様も、もうじき来ると思うんだけど…」


ティビカと言う少年と話をしていると、急に女はガタガタと震え始めた。


「ハッ…この気配…! ごめんなさい…ごめんなさい…」

「おいどうした!?なにがあった!?」


まるで何かに怯えるかのように急に謝り始める。

その様子はどこか狂気さえも孕んでいた。


「見ていたぞ、人間…なぜ私を裏切る?」


背後から何者かの声がする。その声のする方を見ると明らかに人ではない異形がそこにはあった。


「誰だ!?」

「まさか…」


俺たちが戦っていた奴を人間と呼ぶそれは、見紛うことなくゴブリークそのものだった。


「彼はカスケード…私は彼と取引を……」

「…余計な事は喋るな」


そう言うと、カスケードと呼ばれたゴブリークが放った光弾によって女は心臓を貫かれ、その場で倒れ込んだ。


「言葉を喋るゴブリーク…上位種だ…今の状況じゃ間違いなく手に負える相手じゃねェ…」


ローゼスが静かにそう囁くと、カスケードは鳥類にも似た羽を広げて飛行しながらこちらへと向かってくる。


先の戦いで負傷した俺たちでは、とてもティビカを庇いきれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ハーレムはセクスキャリバーの名のもとに 藤原いちご @homura31

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ