エピローグ

 十夜は新大阪の駅で榛名が到着するのを待っていた。

9月はまだまだ暑い。ふーっと十夜は息をついた。

榛名は就職活動のためやって来る。大阪府の企業の秋採用を受けるためだ。


 大学2年生になった十夜は、相変わらず1人の時間と人との距離が大事だったが、それなりに友人も増え、休暇の折には田丸や友人たちと遊びに行くなど少しずつ世界を広げていた。

せっかく関西に来たんだからと、大阪内や京都、神戸に観光に行ったりなどした。


 そして、なんと意外なことに割木と大崎はヨリを戻したのだった。

2人とも(特に割木が)ケロッと接してくるので、十夜も何事もなかったかの様に接している。

その方が面倒くさくなくて助かる。十夜はそう感じた。


 アルバイトも続けている。

去年の夏休みは榛名のリハビリに付き添うため帰省していた期間が長く、シフトにあまり入れず申し訳なかったが、そこは黒崎が上手く言ってくれた様だ。

 

 時任の話を黒崎にしたところ、十夜は心霊も含めた何かしらの違和感を割と察しやすく、察しやすいが故に付きまとわれることもあるが、ある程度はそれらを跳ねのけられる性質もあるとの事だった。


 それを聞いた時、小学生の頃、母の実家がある田舎に遊びに行った際に妙な子供たちに絡まれたことを再び思い出した。

「あれも家までついてきたんでした」

十夜がそう言うと、

「パッとバリアみたいに跳ねのけられる訳じゃないんですけど、なんだかんだで立ち入らせないようです」

子供の姿をした怪異は諦めて退散してくれたようだ、と黒崎は説明した。


 時任の場合もそうだったのだろうか。十夜は今でも考えるのだ。

苦手な相手だから逃げて、たまたま結果的に正しかったみたいな感じで落ち着いたが、本当にそれで良かったのだろうか。


 黒崎にそう吐露すると、

「試練と言うか向き合うことで成長する相手もいますからねぇ。ただ、関わってしまうと厄介な相手というのもいますから。そこは単に毛嫌いなのか、防衛本能なのかの判断が必要になると思いますが、これからですよ十夜くん」

と大人の視点からのアドバイスをくれたのがありがたかった。


 そして黒崎にはいつの間にか十夜くん呼びされていた。


 母の朝子は時任と再婚はしないと書類も交わし正式に決定した。

「仕事もあるし、友人もいるし、別に寂しくないわよ」

とカラッと笑っていたが、母には時折連絡を入れるなどしている。


 自分は大学を卒業したら関西で仕事を探すつもりでいることを伝えたら、たまに遊びに行くからよろしく~と楽しそうであった。


 

 去年、榛名は退院した後、十夜の自宅で厄介になることにちょっと気が引けるな~と言っていた。親同士の再婚が白紙になったので、まあ言うなれば完全な赤の他人になってしまったからだ。


 そこで朝子は、

「そこは全然気にしなくてオッケーよ。て言うか、もう十夜と義理でも姉弟とか気にしなくて良いのよ。どっちみち私と榛名ちゃんは義理の親子になるのかな?ちょっと気が早かったかー」

と返してきたと榛名から聞いた十夜は、飲んでいたお茶を吹き出したのだった。


 

 榛名とは怪我のリハビリと追試験が落ち着いた後、付き合い始めた。

「私も霊体だか生霊だかで大阪まで来ちゃったぐらいだし、母のこと言えないけど大丈夫?」

と不安からか、ちょっと斜に構えた感じで聞いてきたが、


「それはなぜか大丈夫だったんだよなぁ」

と自分でも不思議だが、この件に関してだけは謎の何とかなるだろうと言う妙な自信があった。


 

 榛名の乗った新幹線が到着した頃だ。

十夜は新幹線の改札口に榛名が現れるのを待った。


 少しすると、ワンピースにカーディガンを羽織った姿の榛名を発見した。

改札を通り、十夜に気づいたようだ。


 「おーい、十夜くん」

榛名が手を振ってこっちに向かってくる。

「どーも」

久々に会った榛名に思わず笑みがこぼれる。


 榛名から荷物を受け取り、空いた方の手で榛名に手を握った。

今日が清々しいほどの良い天気で良かった。

十夜はそう思うのだった。

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明けの十夜 香村珠里 @juri_k0

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