第57話 決着


 クオーターのクルシュが鬼人の司令官って。


「本当はクオーターじゃなかったの?」

私が聞いた。


「クオーターさ。私がクオーターなのに、この地位に昇れたのには理由わけが有る」


 すると、クルシュの目が光ったような気がした。


 ん? この感覚って、もしかして魅了? タガメの魅了攻撃の時の感覚とにているわ。

 この力で敵や同胞たちを魅了し利用して、今の地位にい上がったのかしら。 

 でも、このまま魅了に掛かったふりをして、チャンスをうかがおうか。

 それなら、あの時の雄一たちの表情を真似てみよう。

 

 私は体の力を抜いて少し目の焦点をずらし、ボケっとしている様子を演じた。 

 

 すると、クルシュが楽しそうに笑った。 

「はっはっは。地球一の戦士も他愛ない。こんなことなら、ダンジョンコントロール装置を触らせて時間稼ぎをするまでもなかったか。さて、ちょうどこのあと大総督が視察においでになる。お前を差し出せばお喜びになるに違いない。ついてこい」 


 私はクルシュの後についていき、そこにいた鬼人たちも後ろからついてきた。 

 

 上手くいったみたいね。

 クルシュがさっき自分で言っていた司令官の特殊な能力って、魅了だったのね?

 第七層の石碑で状態異常耐性をもらっておいてよかったわ。 

 

 でも、なんとかしないと、せっかく変えたダンジョンの設定も戻されてしまう。

 中・上級ダンジョンからの強い魔物と鬼人本体の侵攻が重なれば、地球は勝てないわ。


 こうなったら、やってきた大総督を人質にして、侵攻を食い止めよう。

 


 クルシュは私を先程のゲート室につれてきた。

 ゲート室に入ると、鬼人たちが大総督を迎えるために整列し、私はその前に連れて行かれる。

 

 しばらくそこで待っていると、部屋の奥にゲートが現れた。


 数光年向こうの前線基地に繋がったのね?

 いっそのこと、こちらから前線基地に乗り込んで暴れてやる?

 でも、それは無謀か。鬼人たちが何千人もいるに違いないわね。


「もうすぐ大総督がいらっしゃる。お前も膝をついて待つんだ」 


 クルシュはそう言って、後ろの鬼人たちとともにゲートに向かってひざまずいた。

 私もそれを真似して、ひざまずく。

 

 しばらくそのままでいると、ゲートの向こうから三人の鬼人が現れた。

 

 先頭の一人は明らかに上等と思える服を着ているので、あれが大総督だろう。

 体つきから、ある程度鍛えている印象を受ける。

 そして後ろの二人は槍型の武器を持っていて鎧のようなものを着ているから、おそらく護衛に違いない。


 大総督が手を少し動かすと、それを見てクルシュが立ち上がった。

 そして、大総督と何かを話しだす。 

「※□○△●※……」 

 

 雰囲気から察するに、「ようこそおいでくださいました」とか言っているに違いない。

  

 しばらく会話が続く。

 おそらくクルシュが、地球攻略が順調にいっていることを報告しているのだろう。


 どこで仕掛けよう。

 

 すると、クルシュが私に言ってきた。

「立つんだ」


 私が立ち上がると、大総督が私を頭の上からつま先まで眺める。

 

 でも、なんか嫌な視線ね。値踏みされているような。

 今、私の胸の所で目が止まった?

 

 すると、大総督が何かを言った。

「○✕△◇※※○……」 

  

 何か侮辱されているような気がするわ。


「きっと胸が無いとか言ってるんだわ! 頭にきた!」


 私がそう言うとクルシュが驚く。


「み、魅了が効いていなのか!」 

 

「効いていると思って武器を取り上げなかったのはミスだったわね」 

 

 私はそう言うと同時に身体強化をして魔法剣の火の刃を出し、大総督に切りかかっていった。

 

 すると、後ろにいた二人の護衛が素早く槍型武器を構えて前に出てくる。

 

 危ない気がするわ。

 

 私はとっさに後ろに飛び退くと、私が向かおうとしていた所に魔法弾のようなものが放たれた。

 

 あの護衛、邪魔ね。

 

 すると、大総督が護衛に何かを言って後ろに戻し、続けてクルシュに何かを言った。

  

「通訳するように言われた」

と、クルシュ。


 続けてクルシュは大総督の言葉を訳していく。

「魔法剣は騎士の武器だ。お前が騎士だというなら直々に相手をしてやろう」

 

 おっ。大総督と一対一の勝負ね。騎士道みたいなものがあるのかしら。

 でも、そうとう自信があるのね?

 

「望むところだわ」


 クルシュが私の言葉を訳すと、大総督も腰に付けていた魔法剣を持って構える。私が両手持ちなのに比べて大総督は片手持ちだ。

 

 他の鬼人が魔法剣を持っていないところを見ると、魔法剣って特別な武器だったのね?

 でも、片手持ちならリーチが長くなるから気をつけないと。

 

 するとそこに、基地にいた鬼人が私を横から魔導銃で撃ってきた。

 どうやら、火属性の魔弾のようだ。

 私はそれをとっさに魔法剣で受けると、同じ火属性だったからか、魔弾がはじかれてそれが他の鬼人に当たり、その鬼人が倒れる。


 同じ属性だとはじくことが出来るのね?

 

 すると大総督が何かを言った。

 

「他の者は手を出すな、と仰せだ」 

と、クルシュ。

  

「いいじゃない。では、一対一の真剣勝負よ」  

 

 クルシュが私の言葉を訳すと、大総督がニヤリとした。


 大総督が上段から切りつけてくるのを私は魔法剣で払う。

 大総督の剣を弾いたタイミングで私が突き入れると、大総督はひらりと回転して避けてそのまま横から払ってくる。

 私がそれを飛んで避けると、大総督は間合いを詰めてきた。


 二人の動きはとても素早くて、見ている鬼人たちが驚いているようだ。

 

 そういう戦いが五分ほど続いただろうか。

 私は相手の技やパターンが読めるようになってきた。

 すると、だんだんと私の方が押し始め、とうとう私が大総督を壁際に追い詰める。

 

「大総督も大したことないわね」


 私がそう言ったのをクルシュが翻訳したようだ。

 するとそれを聞いた大総督は、鬼のような怖い顔がさらに怖くなり、魔法の詠唱を始めた。

 どういう魔法かわからないので、私は飛び退いて一旦距離を取る。

  

 でもどうやら、この魔法は前にシュウキが使ってきた体を拘束する魔法だ。

 急に私の体が重くなった。

 あれからレベルが上がったせいもあって、動きは止まらなかったが、明らかに私の動きが鈍くなってしまった。

 

「卑怯よ」 


 クルシュがそれを訳すと、大総督が鼻で笑った。

 

 こうなったら、こっちも。

「ファイヤー・ボール」


 私はファイヤーボールを撃ったが、大総督はそれを魔法剣で軌道をそらす。

 

 やはり、射出系は無理か。

 それなら。

 

「フレイム・ピラー」 


 これも、僅かな魔力の発動兆候を察知したのか、大総督が横にジャンプして避けた。

 フレイム・ピラーはそれが発現する場所に発動兆候が現れる。

 

 やはりだめか。

 あれは私でも簡単に避けられるからね。

 

 今度は大総督が、すごい速さでこちらに迫ってきて、私を切ろうとしてくる。

 しかし私は、先程からの大総督の魔法のせいで、あまり速くは動けない。

 

 やばい。

  

 すると、大総督の振り下ろした剣が何かに阻まれた。

 大総督は何が起きたかわからずに、後ろに一旦飛び退く。

 

 今度はそこを狙ったかのように大総督の頭の上に大きな岩が現れて、それが落下してくる。

 大総督はそれを魔法剣で叩き切るが、岩の一部が体に当たり床に倒れ込む。

 その拍子に、大総督が私を拘束していた魔法が解けたようだ。身軽になった私は、後ろに飛び退いた。

 

 でも今のって、陽向のシールドと芽依のストーン・ドロップ?


 すると後ろから第一小隊の皆の声。  

「「姉御!」」「「ボス!」」


 スイスの予備役兵の応援が到着して、ダンジョンにいなくても良くなったのね?


 そしておそらく、私が先程ゲート装置のモニュメントのところから電話をしたので、大佐に聞いてその位置を割り出してもらって追ってきたのだろう。


 私は声がした方をチラッと見る。

「みんな、来てくれたのね!?」


「手柄を独り占めにはさせないわ」

と、芽依。


 そうは言ったが、本当はクルシュが信用できなくて、私のことを心配して来てくれたのだろう。


「うふふ。言うようになったわね? それじゃあみんな、やるわよ!」

「「おう!」」


 すると、第一小隊とそこにいた鬼人達の戦闘が始まった。

 手下の鬼人達は仲間に任せて、私は床から起き上がろうとしている大総督に魔法剣で切りかかっていく。今度は魔法を詠唱するスキを与えない。

 

 ゲート室は大混戦だ。

 鬼人たちは魔法や魔導銃のようなもので攻撃してくる。

 それをジャックとブラッドが盾で防いだり、陽向がシールドで防ぐ。

 グレイグとジョンは魔法の腕輪で中級魔法を撃っていくが、下っ端の鬼人には十分に効いているようだ。


 雄一が身体強化して魔法剣で鬼人を切りに行く。

 芽依が同じく身体強化して、瞬時に鬼人の懐に入って正拳突きや蹴りを食らわす。

 身体強化した第一小隊の皆は、鬼人たちと互角かそれ以上だった。 


 ところが、私が他の鬼人が撃った流れ弾を魔法剣で弾いたスキを利用して、大総督が大きく下がった。

 そしてクルシュに何かを言って、護衛とともにゲートの方へ向かい始める。

 

 あ、逃げるの?

 追いかけて切るには護衛が邪魔だし、魔法で攻撃しても避けられてしまうし。 

 そうだ、あれをやってみようか。

 でも、自分で意識的に使うのは初めてだから、上手く出来るかどうか。

 

 大丈夫。魔法はイメージよ。そして、絶対出来ると信じて。


「サンダー!」


 すると私の頭上から雷が発生して、大総督を襲う。

 今までの中級魔法と違って目標の近くで魔法の発動兆候は現れないし、雷のスピードは生物の認識できる範囲を超えているので、大総督は避けることが出来ずに雷に撃たれて床に倒れた。

 

 大総督を人質にして帝国軍に撤退を迫るのが目的なのに、死んではいないわよね?

 

 すると視界の片隅で、クルシュがコソコソとゲート装置に向かうのが目に入った。

 

 何をする気? さっき大総督に何かを命令されていたわよね? 邪魔をした方がいいような気がする。


 私はクルシュのところに行って殴りつけた。

 クルシュは床に倒れ込み、私はクルシュに魔法剣を突きつける。

 

 するとその間に大総督は、護衛の二人が助け起こしてゲートに入っていく。

 

 あっ。大総督に逃げられた。

 追おうか。でも、ゲートの向こうには何千の鬼人が待ち受けているかもしれないし。

 

 しょうがないから、今回はこの宇宙船のゲート装置だけ壊しおけばいいか。そうすれば、とりあえず十数年は帝国軍はやってこれないはず。

 その間に地球側も準備できるだろうし。

 

 私は魔法剣を突きつけているクルシュに意識を戻す。

 

「ところで、何をしようとしたの?」

私がクルシュに聞いた。


「殺さないでくれ! げ、ゲートを閉じようとしただけだ」

「さっき、大総督は去り際になんて言ったの?」

「……」

「早く言いなさい」

「私に向かって『お前には失望した。この星は爆破しろ』と……」

「なんですって!?」


 勝手に地球を破壊されてなるものですか。

 私は片足でクルシュの頭を踏みつけた。

 

「ウガッ!」


 すると今の拍子に、クルシュのポケットから例のゲートキーが転がり出た。核兵器の数百倍の威力がある爆弾の起動装置だ。

 

 これって……そうかクルシュはゲートでこれを地球のどこかに送ろうとしていたのか。


 私はそれを拾うと、三十秒後に爆発と念じて魔力を流し起動して、大総督が去ったゲートの中に向かって投げつけた。

 

 すぐに解除されるかもしれないけど、ちょっとは焦るといいわ。

 

 あとは、ゲート装置。

 これを壊せば、今回の侵攻は終わるはず。

 

 私は横にあったゲート装置を、魔法剣で叩き切った。

 すると、ゲートが消える。

  

 ところが、今の一連の行為を見ていたクルシュが焦っているようだ。

「な、なんてことを!」


「ゲート装置のこと?」

「ゲートキーだ」

「ああ、ゲートキーのこと? でも、どうせ向こうで解除されちゃうんでしょ?」

「魔力を流して起動した者以外が解除するには、特別な装置が必要なんだ! 爆発は何時間後にセットしたんだ!?」

「三十秒後に設定して放り込んだわ」

「え?」


 △▽△▽△▽△▽△▽ 



 ゲートの先の帝国の前線基地では、護衛に支えられて大総督が戻ってくる。

 ひどい火傷を負っているようだ。


「救命カプセルを!」 


 支えている護衛がひとまず大総督を床に寝かせ、すぐに救命装置を取りに行かせた。

 そこにいた鬼人の軍人たちが、その様子を見てざわつき出す。

 

「これはいったい!?」

高位の軍人が駆け寄った。


「皇帝陛下に……タケミカヅチの子孫がいたと……伝えろ」

と、大総督が息も絶え絶えに。

 

「はっ」

その軍人はどこかに走っていく。


 それを後ろで聞いた鬼人たちが小声で話す。

「タケミカヅチって?」  

「知らないのか? 初代皇帝陛下に唯一勝ったことがある伝説の戦士だ。なんでも、雷魔法の使い手だったと言われている」

「でも、それがどうしてこんな辺境に?」

「一族を率いてどこかに去ったと伝わっているが……」

 

 するとそこに、背後のゲートから球状のものが投げ込まれてきた。

 その球状の物、ゲートキーは大総督に当たり、そのまま部屋のどこかに転がっていく。


「今のはまさかゲートキーか? 早く探せ……」

大総督が最後の力を振り絞って。


「は、はい」


 その間にも、地球の基地と繋がっているゲートが向こうから閉じられる。


 二十秒後、そこに卵型の爆弾が現れ、前線基地の星はそこにいた帝国軍とともに爆発して消滅した。

 爆発は強い閃光を伴ったが、この光が地球で観測されるのは数年先のことだ。

 

 

 △▽△▽△▽△▽△▽  

  


「それならおそらく、前線基地は星ごと消滅した」

と、クルシュが暗い声で。


「それは自業自得ってやつよ」

「この地球の侵攻作戦がうまく行けば、私は地球の総督になれたのに」

「それはご愁傷さま」

「クオーターの私がどれほど苦労してこの地位になったか知らないだろ」

「そんなの知るわけないじゃない」

「あの基地とそこにいた軍が消滅したなら、帝国軍は大損害だ。おそらく地球には当分やってこられなくなる。我々の完全な負けだ」


 クルシュは完全に戦意を喪失したようだ。


「当分って?」

「純血は子供が生まれにくい。他の宙域の部隊を割くことも出来ないだろうし、あの規模の軍を整えるとなると百年ぐらいか」

 

「明美、どういう事なんだ?」

雄一が後ろから聞いてきた。


 第一小隊と手下の鬼人たちとの戦闘も終わっていたようだ。

 もちろん、第一小隊の勝利だ。そして今は、芽依たちが生き残った鬼人の武装解除をしている。


 私は何が起きたかを、集まってきた皆に説明する。

「今のゲートキーを送ったことで、向こうの前線基地に星を破壊できるほどの威力の爆弾が転送されて爆発したみたい」


「それって、僕たちの勝利ってこと?」

陽向が聞いた。


「そう。そして、銀河のこの地域では、新しい前線基地を作り直し、軍の体勢を立て直してこの地球に再びやってくるには百年はかかるみたいね」


「やったな」「やったじゃないか」「やったわ」「とりあえず、ひと安心だな」

と、皆。


「でも、ダンジョンを消すことはできなかったわ。ただ、資源回収モードにすることはできた。資源回収モードというのは……」


 私は皆にダンジョンの設定を説明し、それが終わると負傷している鬼人たちを縛り上げ、クルシュには目隠しをした。

 クルシュの目を見ると、普通の人間は魅了されてしまう可能性があるからだ。

 

「じゃあ、帰ろうぜ」

ジャックが言った。 

 

「あっ、ゲート装置を壊してしまったわ」

と、私。


「え?」

「言い訳じゃないけど、どうせこのゲート装置を使うには鬼人たちの言葉が話せないと使えなかったし……」


「じゃあどうする? 俺達はここを出られないのか?」 

グレイグが聞いてきた。


「この宇宙船を操縦するという手があるかもしれないけど」


「まったく違う文化の物は、操作が難しいと思うな」

ジョンが言った。


「動かすには鬼人の手を借りなければいけないわけか。こいつら、信用できるのか?」

と、ブラッド。


 うーん、どうしよう。困ったわ。


 するとそこに、ローザがテレポートで現れた。腕にはポチを抱いている。

「お困りみたいね」「ワン」 

 

 そうか。前にダンジョンに助けに来てくれた時みたいに、ポチの意識から私たちの状況と場所を探って来てくれたのね?

 

「ローザ。来てくれたのね? 嬉しいわ。これで皆で帰れる」


 とりあえず私がローザに月の基地までテレポートで連れて帰ってもらい、私が月からここにゲートを開くことにした。 


 そして、生き残っていた鬼人の捕虜も連れて、私達は月に帰ってきた。

 


 大佐に基地内用の通話機で帰還したことを報告すると、捕虜を他の兵にまかせて、第一小隊は大佐のオフィスに来るように言われた。

 オフィスに行くとコーネル将軍も来ていて、第一小隊の皆は整列して経緯を将軍と大佐に報告をし、それが今終わったところだ。


「では、敵の前線基地を破壊して、おそらく百年は攻めて来れないわけか」

と、将軍。

 

「はい」

私が応えた。

 

「さて。それでは皆、覚悟はできているだろうな?」

と、大佐。


 命令違反で怒られるんだわ。

 でも、みんな?


「もしかして、私を助けに来たのって命令違反をして来たの?」

私は第一小隊の皆に聞いた。


「実はそうなんだ」

と、グレイグ。


「上官が上官なら、部下も部下だ」

大佐がため息まじりに言った。


 私が代表して謝る。

「申し訳ありません」


「それでは、全員命令違反により、一階級降格だ」

「はい……」


 皆の顔がやや暗くなる。

 軍は命令には絶対服従が原則だ。それが破られたら組織が成り立たなくなってしまう。

 今回はスイス軍の予備役兵の準備が整うまで、現地にいる命令が出ていた。幸い何もなかったから良かったが、もしあのあとに凶暴な魔物が出てきてスイスに被害が出ていたら、まずかった。

 だから、今回の処置はしょうがないことだ。


 すると今度は、将軍が言ってきた。

「それでは、今度は私の番だ。敵の前線基地を破壊して異星人の侵攻を止めた功績で、全員二階級昇進とする。特別ボーナスも出そう。ありがとう。地球は皆に救われた」


 大佐も笑顔だ。こういう処置になることを予想していたに違いない。


「おー」「やった」「やったな」

と、皆。


「こうなると思ったぜ」

「ジャックはまた調子のいいことを言って」 

ジャックの言葉に芽依。


 私は小佐になり、グレイグは大尉、ジャックは中尉、ブラッド、雄一、ジョンは少尉、芽依と陽向は曹長になった。

 

 

 

 その後研究チームがあの宇宙船を詳しく調べたら、クルシュがウソをついていて、実はダンジョンを消すスイッチがあったそうだ。

 鬼人たちの言語は地球の古代語に近かったそうで、ローザと美月が宇宙船の操作方法やダンジョンのコントロール方法を調べ上げた。

 

 ところが、ダンジョンが氾濫すること無く有用な素材が得られると分かった各国は、ダンジョンを消すのに反対してきたらしい。

 

 国によっては軍の訓練を兼ねてダンジョン探索が始まり、アメリカなどはダンジョン庁を作って一般に開放することにしたそうだ。

 日本はしばらく国会で議論されたが、なかなか結論が出なかった。しかし、最終的にはアメリカの真似をしてダンジョンを一般に開放することにしたらしい。

 

 月のダンジョンはと言うと、攻略を続けると十層で終わりとなった。

 帝国のダンジョンの仕組みとはちょっと違うようで、コアを破壊すること無くダンジョンを停止することが出来た。

 必要なら、いつでもダンジョンの活動を再開させることが出来る。

 それによってダンジョン攻略部隊の大部分は解散し、それぞれ自国に戻って自国のダンジョンに向かうことになるだろう。

  

 そして私は、貯まったお金で大学に通うつもりだ。

 といっても、月の制御やダンジョン関係で何かあったときのために完全に軍籍を離れるわけではなく、要請があった場合は駆けつけることになっている。

 その代わり、前の給料よりは安くはなるが、毎月いくらかの給料が支払われるようだ。

 

 陽向も一旦軍を離れ、大学に通うらしい。

 そして、芽依は自衛隊にスカウトされ、自衛隊に移籍した。そこで新設されたダンジョン関係の部隊で活躍することになる。

 

 雄一は警察に戻ったが、その後アメリカを真似て新設された日本のダンジョン庁の保安局長に抜擢ばってきされたそうだ。

 ダンジョンやその付近での治安維持などが目的の部署らしいが、大出世だ。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あとがき 

 

 これで、第二章は終わりです。読んで頂き、ありがとうございました。

 

 続きは今の所いつ書くかは決めていませんが、書くとすれば、これと並行して連載している異世界ファンタジー「平民の俺に王侯貴族の令嬢が押しかけてきて、どうすればいい?」の第二章を書き上げてからになります。

 

 続きで考えている内容をちょっと予告すると、明美は異星人撃退の功労者であることを隠したまま大学に通い始め、日本を始め世界ではダンジョン探索がブームになり、明美も大学の友人から学費稼ぎにダンジョン探索に誘われて……。

 という感じになる予定です。

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月には魔力とダンジョンがある 中川与夢 @AtomNakagawa

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