最終話 友人
ひとしきり笑って、私たちは顔を見合わせて、苦い笑みを浮かべた。告白した二人と、された一人。振られた一人と、振った一人。
その関係は、既に昔のようにはいかなくて。泣きそうな顔でその場を去ろうとした玲音の両手を、私と悠里がつかんでつなぎとめた。
色々と言いたいことはあると思う。居心地の悪さは玲音が最大だと思うし、正直私だったら真っ先に逃げ出したと思う。けれどここで逃がしたら駄目だと、私と悠里はそう判断した。
顔が沸騰しそうなほど熱かった。玲音の筋肉質な腕から伝わる熱が、思いが、私の心を揺さぶった。
頭を振ってよこしまな感情を追い払って、私と悠里は両側から玲音を捕まえながら歩き出した。
教室の外には、誰もいなかった。文化祭倉庫を出れば忘れていた喧騒が遠くから響き、夏に置いて行かれたセミが弱々しく鳴いていた。
まだまだ高い日の光に照らされる廊下を、私と悠里と玲音で歩いた。三人で、歩いて学校を出て昔のように玲音の家に向かった。
たわいもない話をして、トランプをして、テレビゲームをして、遊んで、遊んで。
そしてかつてのように疲れ果てて、私も玲音も悠里も、気が付けばリビングで眠ってしまっていた。
呆れた様子で声をかけてきた春ちゃんが足の指先で玲音を蹴りながら愚痴を言う姿は昔のままで、私と悠里は顔を見合わせて、涙が出るまで笑った。
「……花蓮」
春ちゃんが勉強のために自室に去った後、真剣な顔をした玲音が私を見た。私も、そして悠里もつられて背筋を正した。
「俺は、お前とは付き合えない」
「うん、わかってる」
玲音は悠里が好きなのだ。考えが一致しなかったからと言って玲音がそう簡単に悠里を嫌いになるとも、私に振り向いてくれるとも思っていなかった。それどころか、私の告白をなあなあにせずに、真剣に考えていてくれたことがうれしかった。正直私は、かなり勢いで言ったところがあったから、どこまでも真剣な玲音に申し訳なく思ったりもした。
それに正直、ここで玲音と付き合えることになっても、私はその後が全く思い浮かばなかった。正直付き合うイメージなんてないし、どうしたらいいのかもわからない。
付き合ってから考える、なんて恋愛観を持っている人には尊敬すら覚える。
「……ふん、玲音と付き合うのは僕だよ」
「さて、どうだろうね?」
顔を見合わせて不敵な笑みをぶつける私と悠里を見て、玲音が顔に手を当てて盛大なため息を吐いた。
こうして、私たちの日常は再スタートを切った。それは私が望んだ大切な時間の続きで、そして宝物の日常だった。
「花蓮!」
「待って、今行く!」
教室出口で私に声をかけていた玲音に片手をあげて、私は慌てて荷物をまとめて走り出した。
「頑張って」
すれ違う際に小さくつぶやかれた鬼頭さんの言葉に頷きを返す。教室から出れば、二つ隣の教室まで恋人を迎えに行っていた初音と目が合った。顔を見合わせた私たちは、どちらからともなく笑み崩れた。初音の隣を歩いていた日下部君と会釈を交わし、私はもう廊下の先まで進んでしまっていた二人の元へと向かう。
昇降口で追いついた私は、玲音と悠里と並んで歩き出した。
今日も私たち幼馴染三人の日常は続いていく。まるで呪いのようで、そしてぬるま湯のようなこの関係に再び変化が訪れるのはきっとそう遠くない日のことで。
けれどその変化を恐れずに、私たちは今日というかけがえのない日を生きていく。
幼馴染な私たち 雨足怜 @Amaashi
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