殺人描写

バルバルさん

笑顔

 人間は、人を自分の意志で殺すと、二度と笑えなくなるという。

 ならば私はなぜ、笑っているのだろうか。


 私が奴を殺したのは、単純に憎かったからだ。


 憎くて、憎くて憎くて。仕方がなかった。だから綿密な計画を立てて奴を殺した。


 殺し方は色々と考えていたのだが、最終的に絞殺に行きついた。あの殺し方が、最も苦しく殺せると思ったからだ。


 奴に眠剤入りの酒を飲ませ、ぐっすりと眠ったのを確認し、首に縄をかける。


 そして、手の甲に一本、ナイフを突き立ててやれば奴は叫び目を覚ました。


 その叫び声と同時に、私は縄で首を思いっきり絞めてやる。


 目を見開き、何かを言おうとしているのは実に滑稽だった。


 最後、何を言いたかったのか。それには少しだけ、興味があるが。もう知る方法はない。


 そんな私の顔が、部屋の窓ガラスに映る。


 その表情は、すがすがしいと思える笑顔だった。


 私が彼女を殺してあげようと思ったのは、彼女を哀れんだから。


 生きているのに、死んだほうがマシな目に合っている、彼女を殺してあげよう。じゃなければ、あまりにも、可愛そうだ。そう思ったから。


 私は、彼女を部屋に呼びつけた。部屋には、最高のワインを用意しておく。彼女を、苦しませずに、眠るように殺す。そんな薬の入ったワインを。


 彼女は本当に儚くて、部屋に入ってきた姿は、今にも消えてしまいそうで。


 早く、殺さなければという使命感と、ほのかな恋心にも似た感情を抱きつつ、彼女にワインを勧める。


 彼女は、にこりと笑い、ワインをその可憐な唇から、口内へと流し込んでいく。


 それを見て、私はそっと、彼女を抱きしめてあげる。彼女は、目を開くが、そっと、眠るように瞼を閉じた。


 数分後、彼女の息は無くなり。殺してあげることに成功した。


 その時、部屋の鏡に映っていた私の顔は。


 とても、満足げな笑顔だった。

 私は、彼を殺した。殺してしまった。


 だって、仕方がないじゃないか。私のお金を盗もうと、バッグに手を入れていたんだ。


 それを咎めたら、私に向かって脅してきて、怖くて、思わず、ガラス製の灰皿で殴り殺してしまった。


 あぁ、終わりだ。私の人生は、ここで終わりだ。


 人殺しなんて、したくなかった。私を生んでくれた親に、家族に。友人に、先生に申し訳がない。


 だけど、ああ、なんだろう。この胸の高揚感にも似た。昂る感覚は。なんだか、感情が高ぶりすぎると顔が引きつってくる。


 そして、部屋の鏡を見ると、その瞬間見えた表情に、私は戦慄した。


 だって、あんな不気味な、ぞっとする、忌まわしい笑顔を、私がしているなんて。


 しばらく震えながら、私は、携帯で警察に自首の電話を入れようとした。


 声が引きつり、笑っているような声が、喉から出てきた。


 人間は、人を自分の意志で殺すと、二度と笑えなくなるという。


 なら、私の書く彼らの笑いは何なのだろうか。


 いや、彼らの笑顔を笑顔に分類してもいいのか。


 それとも、彼らは人間ではないから。ただの文章だから、笑っているだけで、本当は、別の表情をしているのではないか。


 だが、人を殺したことのない、私にはわからない表情なのは確かだ。


 私には、わからない。


 人殺しの彼らの表情の正しい描写が、わからない。わからないものを描写していい物か。


 だから、これから勉強しようと思う。誰で試してみようか。


 そう思った時、このパソコンの画面上に薄っすら映る顔。


 そこには確かに、笑顔があった


~この物語はフィクションです~

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殺人描写 バルバルさん @balbalsan

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