エピローグ~破戒教師、青空に笑う。

 翌朝は、臨時の全校集会だった。


 副校長が、校長と教頭、そして稲垣の退職を告げた。


 突然のことに、生徒達はざわめいていた。きっちり説明してやらないとな。


「え、えー。次に、東郷先生から、皆さんにお話があるそうです」


 事前に頼んでおいた通り、時間がもらえた。


 朝礼台に上り、マイクの前に立った。


「あー、みんな。いきなりのことで驚いてるだろうが、真相を話す。まず校長は、未成年買春のカドで警察にしょっ引かれた。教頭も、業務上横領の罪で、同じく警察行きだ。稲垣先生が辞めた理由は知らないが、奴は、俺が徹底的にぶちのめしてやったからな」


 さらにどよめく生徒達。


 全員に全部を伝えるために、時間をもらったんだ。


 すう、と軽く息を吸い、本題を話し始めた。


「みんなに告白したいことがある。そもそも俺は、復讐のためにここへ赴任してきた。なぜなら、前の恋人を、ここの校長に殺されたからだ」


 それから、組織についても触れた。


 その存在の目的、そして、ここの教師全員が構成員であること。


 稲垣が組織のナンバー2で、校長が総裁であったこと。


 歯向かった俺は、命を狙われていたこと。


「二年C組のみんなの中には、いつだったか、俺の授業の終わり際に、いきなりボウガンの矢が飛んできたのを憶えてる奴もいると思う。つまりは、そういうことだ」


 生徒達は、みんな、半信半疑という雰囲気だ。


「マンガみたいな話だろ? だが本当だ。おかげさまで、晴れて俺は復讐を果たせたわけだが、一つ、みんなと言うより、残っている組織の構成員である先生方に申し上げたい」


 ビクッとした空気が後ろからした。


 ニヤッと笑いながら言ってやる。


「総裁の校長はもういないが、残党共で結託して俺を消したきゃ、いくらでも足掻いて見せろ。もれなく後悔させてやる」


 後ろから、「否! 断じて、否!」の雰囲気が伝わってくる。


「よし、よろしい。今後とも、俺は俺のやり方を貫く。文句がある奴は遠慮なくかかってこい!」


 堂々とした宣言をぶちかますと、まったくの意外にも、生徒たちから拍手が湧き上がった。


 えっ? と思ったが、どうやら本当らしい。


 なんか調子が狂うんだが、まあいい、のか?


 じゃあ、あの件も一応この場で改めて言っておくか。


「あ、あー。それとだな。余談を一つ。これは、知ってるみんなもいるとは思うが」


 そこで、忍が走ってきた。


 たったったっ、と朝礼台に上がり、隣に立つ。


 そして、マイクに向かって、彼女は自信たっぷりに言った。


「この際やから、全校生徒に宣言しとくわ。龍センセは、ウチだけのもんや! ウチらはな、将来を誓いあった、本気と書いてガチの恋人同士やで! ちょっかい出そうとかいう奴は、それこそ遠慮なくかかってきいや!」


 こちらも、この上なく堂々とした宣言だった。


「龍センセ、こっち向き」

「えっ? あ、ぅむっ!?」


 忍の方を向くと、ぐいっと身体をたぐられ、あろうことか、その場でキスをされた。


 参ったな、軽い公開処刑だ。


 自分でも赤くなっている顔を感じつつ、正面に向き直って、


「お、おほん」


 と、咳払いを一つ。軽く呼吸を整え、あえて口角を吊り上げる。


「まあアレだ、みんな。いや、テメエ等! これからも、みっちり正しく教育してやるよ。覚悟しやがれ! クックック、ハッハッハ、はーはっはっは!」


 無理があるのを承知で、精一杯の邪悪な笑顔を作り、天を仰いで高らかに笑ってみせた。


 生徒達の喝采が聞こえた。


 それらが渾然となり、春の終わりの、抜けるような青空に吸い込まれていく。


 俺は破戒教師。


 だがそれが、最高の称号だ。


 また一筋、涙が頬を伝った。


 しかし、俺の心は、爽快に晴れていた。


 今の、この、青空のように。


――おわり

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破戒教師は青空に笑う 不二川巴人 @T_Fujikawa

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