第3話 しまりました?
かくて、俺の異世界転移はあっという間に終わりとなった。
元の世界に戻ると、そこは止まった電車の中で、1車両分の乗客が異世界転移に巻き込まれたらしい。戻ってくるまで約30分。
今現在は事情聴取のため、ちょっと離れた施設に巻き込まれた全員が移動している。悪いことをしたわけでもないのに、事情聴取と聞くとなんだか居心地が悪い。ちょっとした健康診断なんかもされた。聞いたところ、あの押し倒された男性も大した怪我ではなかったようだ。
「お待たせしました」
やや待たされて、部屋に来たのは女性。女性は救助隊の他の面々に隊長と呼ばれていた人のようだ。
「すいません、お話を伺うのが最後になってしまって」と頭を下げる。
「今回の件では、西木さんの通報があったお陰で初動を迅速に行うことが出来ました」
「やっぱりあそこって、異世界…でいいんですよね?異世界って端末が繋がるものなんですか?」
「ええ、最新機種の一部では非常通報が可能となっています」
凄いな最新機種。買ってて良かった。
「それと、今回は防犯ブザー。あれも最新機種でして、複数の発報があったお陰で、場所を特定するのが迅速に行えたわけです」
あの逃げ回ってた女の子か。そういえば、通報したときも『他にも発報があった』って言ってたような。
「というか、異世界って本当にあるんですね、、、」
「はい、本当は公表されているんですけど、皆さんには認識し辛いように調整をかけています」
「・・・どういうことです?って、聞いていいことです?」
なんだか世界の闇!みたいな?
「聞いていただいても問題はありませんよ。一応公表されている建前になってますし。」
―――
事の始まりは4年前。異世界転移から無事に帰還した集団が現れた。しかも、異世界の住人を伴って。
異世界から帰還した、と主張するだけだったら、虚構として取り扱われ相手にされなかっただろう。但し、その帰還者たちは異世界で手に入れた超能力・所謂【魔法】を手にしていた。
さらに、一緒に帰還した異世界の住人は人間に近いが人間ではなかった、エルフと呼ばれる人種であった。
帰還者たち及び、異世界の住人は一旦国に保護されることとなった。
「それだけでも大騒ぎだったんですけどね、その後が」
それを知った時、激怒した集団があったという。
「曰く、人同士あるいはコトワリ内ならば是非もない。ただコトワリの外から干渉するとは何事か、と八百万におわします方々が」
「帰還者のもと、つまり保護した国の施設に神様降臨 と相成りまして」
帰還者と国の担当者とたまたま居たお偉方の眼の前に現れた高位存在。
「まずは帰還者の方たちに謝られたらしいですよ、苦労をかけたと」
その後、国の担当者(とお偉方)には対策を指示し、自らも策を採るとして姿を消した。
異世界転移だけでもなかなか信じられなかった者たちも、眼の前に現れた高位存在を肌で感じ取れば疑うことが出来なかった。畏怖すべきほどの存在から対策を指示されても、何するものかと途方に暮れていると、今度は先程とは異なる御柱がご降臨。
「先程の御方より、協力して事に当たるべしと、遣わされました」
と最初の御柱より多少対応しやすい(それでも十分恐れ多い)方が現れ、協力を申し出てくれた。
また、帰還者と一緒に現れたエルフたちも協力を申し出てくれた。彼らは魔術に精通し、帰還者が帰還することを手伝ってくれており、異世界転送に対する知識があったのだ。
そして、国と神様、異世界エルフが協力して対策を検討(実務は帰還者と神様とエルフ)した結果
・新たな異世界転移の抜本的な阻止は、コトワリ(法則?)が異なるため難しい
・転移が発生すると、それは検知できそう
・転移先まで検知できると、こちらから追っていくことが出来そう
となり、
・転移を検知した場合に備え、速やかに救助する体制を整える
ということとなった。
―――
「ということで出来たのが、私達、異世界転移対策室:異世界転移救助隊、なんです」
「うーん、なんだか聞いたことがあるような、ないような?」
「はい、そのあたりは広域に認識阻害の術式を掛けられていて、ある程度公表はされているんですけど聞いた人は"噂程度"と思ってしまうようになっています。今回の西木さんのように深く関わってしまうと解けてしまうんですが、それもまたゆっくりと認識阻害の影響が戻ってきます」
「で、ここからが本題なのですが西木さん、救助隊に所属しませんか?」
「え?なんでです?」
「先程受けていただいた健康診断の中に、異世界への適性度検査・魔力検査が含まれていました。後ほど詳細をお伝えしますが、西木さんの数値は適正が高く、人手不足の救助隊に是非―――」
こうして、俺の異世界転移は終わり、他人の異世界転移にまきこまれていくのであった。
異世界転送救助隊 空棺 @dummyk1980
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