第20話 闇森世界

 闇森世界の惑星は闇に閉ざされた森で造られている。

 そこには果てしない数のモンスターがはびこり、狩人とされるのがダークエルフ族と呼ばれている種族だ。

 

 エルフと違うのは黒い肌をしている闇魔力に秀でた種族という事だ。


 結構な昔、まだ夢の中での攻略方法すら知らなかった俺に狩りと密売の基本を教えてくれた人がいた。


 その人は優男のダークエルフで密売人と呼ばれていた。

 いつもけらけら笑っており、何を考えてるか分からない、危機的状況に陥ればいつも別人に切替わる。どんな品だって密売してしまう。


 この世界での密売とは潜入してそこにない物をひそかに売り飛ばす事だ。


 つまりその国では違法という事。


「ゴンザメありがとうな」


「また戻ってくるんでしょ数時間後に」


「ああ、そうするよ、早く戻らないとフウに殺されるからな」


「そりゃそうか」


 ゴンザメが笑ってくれるだけで嬉しかったが。


 意識が闇森惑星に吸い込まれていくと、闇に閉ざされた森に出現した。


 俺の瞳は闇を捕えた。


 闇は永遠に閉ざされており、何も見通す事が出来ない。


【おい、青年、そこはこの魔法を使うといい】


 ダークエルフのゴック密売人はそう教えてくれた。


【スキル:光目】


 眼の周りに光が集まってくる。

 光は辺りを照らす事に秀でており、辺りを見回す事が出来る。


 そこはいつも密売人ゴックがいた小屋であった。


 やはり思い入れのある場所に転送されるようだ。


 小屋の扉を開くと、今にも死にそうな密売人ゴックがいた。

 彼は瘦せ細り、天井を真っ直ぐに見据えていた。


「ゴック?」


「ああ、あの時の青年か、あれから何年が経ったのだろうか」


「たぶん、数十年じゃきかないね」


「そうか、もう教える事はないはずだが? この闇の森については……」


「密売人ゴックあなたの力が必用だ。密売の力で俺の領地を潤わせてくれ」


「ふ、ふふ、ふはははははは、見てみろ、病でこんな姿になっちまったのに俺様にまた夢を見ろと?」


「ああ、そうだ。君が願った、密売で領地を立て直す、それを俺の領地でやってくれ」


「条件というか、これが無いと出来ないんだが」


「なんだ」


「ダークエルフの城の中に【潤いの水】がある。これは1つで国が買える。警備も厳重で、そう簡単には盗めない、やれるか? 俺様はこれを飲まないと復活しない」


「ああ、やろうじゃないか」


「ダークエルフの城は分かるな? 闇森世界のさらなる奥地に……」


 そう言って密売人ゴックは荒く呼吸を繰り返す。

 これ以上話をしたら死にそうなので、毛布をかけて、小屋の扉を開けて走り出した。



====闇森の城====


 闇色に染まった木々と岩が折り重なり、1つの城の形となっている。

 城下町では多くのダークエルフと多種多様な種族が貿易や商売をしている。


 門は通らないほうがいい、この辺りでは人間は珍しい。


【スキル:変装】を使用して、ダークエルフの姿となる。

 それでもダークエルフの所作などは知らない為、かつて密売人ゴックが教えてくれた裏口を利用する。


 門とは別の入り口から侵入する。

 そこは茨の木々が折り重なっており、隙間に道があった。


 中に入ると壁にはかつて密売人ゴックが俺に伝えた事が書かれてある。


【馬鹿は馬鹿なれど、ここを見つけた馬鹿は俺様だけだ】


 意味不明な自慢。


 城下町に侵入する事に成功すると、次に人々の隙間を縫って、また城の裏口を利用して侵入する事に成功する。


 広場に出ると、ちょうど大勢の兵士達がこちらを見ていた。


「あ、え、いやーすみません、宅急便でーす」


【侵入者だああああああ】


【うーううーううーうう】


 ダークエルフの兵士が警報の歌を歌う。


 ここのダークエルフは少し天然なのか、道具で警報を鳴らせば良いのに、自らの美しい声を披露したいが為に、歌を歌うのだ。


 しかも目の前の20人の兵士のうち10人が歌っている為、戦うのは10人だけでいいというバカみたいな話。


「とりあえず、駆逐させてもらうよーコレクションブックで色々強くなったんだからな―」


 拳を固める。


 ダークエルフ兵士が抜刀し剣を抜き打ちざま叩き付ける。

 俺は拳を振り上げた状態で振り落とした。


 突風が舞い上がり、兵士10名と歌を歌う10名も吹き飛ばされる。


「いつつつつつ」


「ば、ばけものか」


「な、なんだ、何かのデジャブが」


「あ、あああ、お前、お前は10年以上前にいた人間のゴリラ」


「ゴリラじゃねーよ」


「化物ゴリラ、その力で次から次へと敵を屠る恐ろしいゴリラ」


「なんでゴリラにんって俺もフウの事ゴリラって言っちまってた」



 取り合えず、拳を連打で浴びせて再起不能にさせておく。

 ぴくぴくと痙攣しているが放っておくことにしよう。


 階段を下りながら。

 扉が見えてきた。


 あそこの向こうが宝物庫になっており、さすがに全部盗んで、闇森世界のダークエルフを破滅させる訳にはいかないので【潤いの水】だけでも探そうと思っていたら。


 門番が踊っていた。

 そう門番がノリノリで踊っていた。

 音楽もなく無音で踊っている。

 ダークエルフの姿をしながらおっさんの顔、それは俺もおっさんだが。


「すみません、踊ってるところ悪いのですが、どいてもらっても良いでしょうか」


「良い訳ないだろ、俺は最強の門番ことゴガローだ。お前は?」


「俺はって名乗らせろよ」


 長身でガタイのいいダークエルフ。

 それがゴガローであった。

 彼は弓を引き絞ると、連射してきた。

 弓ははっきり言ってスローで見えたので。全部人差し指と中指でキャッチした。


「なかなかやるねー」


「次はこっち」


 地面を蹴り上げた瞬間、ゴガローの至近距離に到着顔面をぶん殴りあちこちにバウンドしていき、頭から壁に挟まった。


「まるでピンボールゲームだな」



 最後の扉を開くと、そこには無数の宝箱と1個の【潤いの水】が置かれていた。


 ゆっくりと盗んでアイテムボックスに入れた瞬間、ダークエルフ王国そのものが消滅した。

 それは一瞬で何もかも渦巻きのように集められて一冊の本になった。


【ダークエルフの書】


 手が震えた。


 いまだ闇の森に俺はいた。

 ここには先程まで大勢の人々がいた。


 それが一冊の本になってしまった。


「一体どういう事なんだ」


 本を開くと、そこには1人の少年の物語が書かれてあった。


====密売少年====

 

 その子供。

 大勢の人々から嫌われ。

 大勢の人々から疎まれ。

 ただひたすら生きていく。

 子供の頃よりその手は幾多のアイテムを掴み。

 困った人々を助ける為動く。

 まるで操り人形のように。

 歩き、歩き、走り。

 ひたすら助け助け助け。

 少年自分を助けるのを忘れる。

 呪われ、病気になる。

 体から生気奪われ。

 真実に行きつく。

 ダークエルフ王国、それは一冊の本のストーリー。

 少年部外者。

 ただ唯一のダークエルフ王子。

 その名前はゴッグ。

 病は死を与えず苦しませ。

 助けるにはその潤いの水を。

 夢物語のダークエルフ王国消滅するが。


====密売人ゴッグの小屋====


 体中から汗が噴き出る。

 手を握りしめて。

 小屋を吹き飛ばす。

 中にいてこちらを見てけらけら笑っている少年ゴッグ、いやもう既に大人のゴッグ。


「こんなに苦しんでてお前はなんであの時助けを求めなかった!」


「かはかは、いい事を教えよう、あの時の青年君は人を助ける器にあらず」


「だからってあの時、決めただろ、仲間だって」


「だが、青年君は突如として消滅した」


「それは別れの挨拶を済ませたあの時に」


「なぁ、青年君、俺は知ってしまったんだよ、自分の故郷が既になく、そして単なる本だって」


「ああ」


「単なる本の命を助けて結局は夢物語だ」


「ああ」


「だから、無意味」


「密売人ゴックあんたは1人だけ助けてる」


「へぇ、誰だい」


「俺だ」


「俺が助けられている。他の人を助けてもそれは夢物語だったかもしれない、結局はストーリーだったかもしれない、だが、ダークエルフの外の国の人を助けたのはあれは真実だ」


「ああ、でもダークエルフを助けたかったんだ。もう生き残りは俺だけだ、そして潤いの水を飲まなければ死ぬ」


「さぁ、飲め」


 そう言いながら、無造作に口に水差しを突っ込むと、思いっ切り飲ませた。


「がはがは」


 ダークエルフの密売人ゴッグの体に水分が戻り、見る見るうちに回復していく。


「へい、青年、力がみなぎってきたぜ」


「まったく」


「それで、次の仕事はどこなんぞい、そして、美女たちが待つ朝日はどこなんだい」


「それは俺のいる世界だ、アイテムボックスに入ってくれ」


「了解だ。そうだ。言ってなかったな青年、いやユウ青年、色々とありがとな」


「これ、本だ」


「それはお前の獲得した品だ。コレクションブックにでもしてくれよ」


「そうか……」


 その日、既に滅びていた世界は消滅し、闇森惑星に到着してから数時間後に宇宙に戻った。

 きっとアイテムボックスの中では伝説の鍛冶屋ジニーと密売人ゴックが初めて面会しているだろう。


 次はゴッド世界。神々の惑星。

 そこにいるのは作られた神々。

 破壊神というかつての相棒を探すため。

 彼女は破壊して再生させる特殊な力を持ち。

 その力が生産力を上げる鍵となるはずだと信じている。



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