第2章 夢集め

第19話 クリスタル鉱山世界

 その夢異世界はクリスタル鉱山世界。

 ドワーフだけのドワーフによるドワーフまみれの異世界だ。

 彼等は金槌と巨大なハンマーさえあれば生きていける。


 この異世界の凄い所は鉱物が食べられる事だ。

 エメラルドの宝石やサファイアの宝石、はたまた石ころや岩石、はたまた鉄や鋼鉄。

 硬い事は硬いがドワーフによるドワーフによっての調理方法で食べる事が出来る。


 クリスタル鉱山世界の惑星に降り立つと瞬時にあるポイントに転送される。

 そこがドワーフの始まりの鉱山と呼ばれる場所。


 ここで俺は採掘の基本と鍛冶の基本を鍛冶屋ジニーに教えてもらった。


 彼はいわゆるハードボイルド風なドワーフ老婆だ。


 ドワーフの始まりの街を歩いていくと、大勢のドワーフ達が片手に鉱石を握りしめて噛み締めている。

 そこから溢れる鉱石の石汁を堪能し片手にはビールの入ったジョッキを握りしめてぐびぐびと飲み干している。


 変わらない光景に俺は心の底からほっとした。


 始まりの村はずれ。

 逞しく頑丈な鍛冶場が見えてきた。

 扉をノックすると。


「入ってきな、ユウ坊」


 扉を開けると。


「やっぱり足音でばれますか」


「たりめーよ、あたいにかかりゃ虫の鳴き声も足音もかわりゃせんわい、さて、ユウ坊何用で参った」


「鍛冶屋ジニー、いえ伝説の鍛冶屋ジニーさん力を貸して欲しいのです」


「まぁ、座りな、この世界の鉱石も食べたいだろうさ、一服しようじゃないか」


「はい」


 伝説の鍛冶屋ジニーさんは銀色の髪をふさふさにさせながら、頑強な体をしている。

 背丈は人間の大人の腰くらいだが、戦えばこちらが殺されるかもしれない。

 彼女はいつも葉巻を咥えており、一服と言っているが、永遠と葉巻を吸うヘビースモーカーでもある。


「さて、一服も終わったことだし、話を聞かせな」


 一服はちなみに終わらず無限に続いて入るが。

 俺は身がすくむ思いで、心の底から言葉を紡ぎだした。


「かくかくしかじか、それで、かくかくしかじか」


 とてつもなく一生懸命説明した。


「ふむふむ、かくかくしかじか? かくかくしかじか?」


 ジニーさんも分かってくれたそうで。


「へい、帰りな、ユウ坊」


「やはりダメですか」


「そりゃダメだわさ、なんでかって? あんたの世界に鉱山はあるんかい?」


「鉱山は確かにありますが、このクリスタル鉱山世界よりは出ません」


「だろうさ、あたし達鍛冶屋から石を奪ったら何も残らないさね」


「ですが、俺が特別な鉱山と特別な鍛冶場を用意すると言ったら?」


「ほう、そんな事が出来るようになったのかね、前はびびってめそめそしていたじゃないか」


「あの時は俺の力に気付いていませんでした」


 この世界に来たのは本当に初期の頃だ。

 数十年眠り続けて、この世界に辿り着いた時、俺はまだまだへなちょこで、コレクションブックの活用方法をまだまだ知らなかった。


「なら、鉱山に住み着く、ダイヤモンドドラゴンでも討伐してきな」


「それでよければ」


「はん、はったりもいい所だ」


「はったりかどうかは、あなたに誠意でもって示して見せましょう」


 伝説の鍛冶屋ジニーの眼の前でゆっくりと立ち上がり、会釈してドアに向かった。

 いつまでもいつまでも伝説の鍛冶屋ジニーの視線だけが向けられていた。


 俺は外に出ると。鉱山に向かった。

 どこにダイヤモンドドラゴンがいるか既に把握している。

 ダイヤモンドドラゴンとはドワーフ達の伝説になっている。

 そいつを倒す事は不可能とされ、何よりずっと何千年も前から同じ場所に居座っている。


 その先には未知の鉱石や宝石が眠っているのにだ。

 ドワーフ達はそこに辿り着きたくて必死にダイヤモンドドラゴンを倒したがっている。


 歩いた。

 鉱山の中を。

 歩き続けた。

 ドワーフの老人とすれ違った。

 ドワーフの子供とすれ違った。

 少しずつ少しずつ。

 人がいなくなってくる。

 封鎖されてもいないそれでもドワーフ達は入ってはいけないと知っている。

 ダイヤモンドドラゴンの巣穴へ。

 その広場に到着する。

 銀色に輝く巨大な鱗。

 眩しい光に照らされて。

 洞窟の中だというのに、まばゆい光。


 巨大な空洞に収まるダイヤモンドドラゴンが悠然と構えている。


 大きな欠伸をしてこちらを睨み。

 咆哮を発した。


 空気という衝撃が全身を穿つ。

 体が吹き飛びそうになる。


 逃げたいと思う俺がいる。

 何より恐ろしいと感じられない。

 それだけ俺自身が強くなりすぎた事。


 無数の異世界で習得したスキル、超能力、覚醒力を発動させる。

 

【スキル:肉体強化】【超能力:サイコキネシス】【覚醒力:野獣】


 まず最初にスキルの肉体強化が施される。

 次に覚醒力の野獣が発動される。

 右手と左手を握りしめると。

 全身が獣のような獣毛に包まれる。


 上半身のシャツが破れて、野獣そのものに変貌した俺は。

 咆哮を張り上げて、地面を走り出す。

 ダイヤモンドドラゴンの尻尾がぐるりと回転し真上から叩きつけられる。


 右手と左手でダイヤモンドドラゴンの尻尾を掴むと。

 サイコキネシスを発動させる。

 尻尾が浮いてくる。サイコキネシスとは物に触れなくても物を移動したりさせる事が出来る。

 集中力が必用だが。

 そこは訓練済みだったりする。


「ぐおおおおおおお」


 野獣の方向を発して、ダイヤモンドドラゴンの尻尾を反時計回りに回転させ壁に叩き付ける。


 痛みなのか巨大な咆哮を上げているダイヤモンドドラゴン。


「まだだ」


 サイコキネシスをさらに発動させ、人間より遥かに巨大、地球にあったビルで例えれば10階建てはあるだろうし、横幅はとてつもなく太っている。


 それをサイコキネシスで持ち上げるものだから。


 耳から目から鼻から口から血が噴き出る。


「ぐるぉおおおおおおお」


 野獣の咆哮をあげて、痛みを紛らわし。

 地面に思いっ切り叩き付ける。


 何度も何度も何度も何度も。

 蛇を何度も叩き付けるようにして。

 しばらくするとダイヤモンドドラゴンは動かなくなった。


 俺の視点がぐらりと揺らめいた。

 眼がまるで回転しているようだ。

 少し力を使い過ぎてしまったようだ。


 深呼吸を繰り返して、そこに伝説の鍛冶屋ジニーがいた。

 俺は岩の壁に寄りかかり地面に座った。


 眼から口から鼻から耳から血が噴き出ている。

 血が止まらない。


「まったくこれだからいかんせん」


 ジニーは宝石のような卵型の石を口の中に突っ込んできた。


「これは回復の石だ。最高級もんだぜ、お前にくれてやったのはコレクションしたんじゃろう?」


「あ、ああ、助かった」


「まったく、本当に1人で倒しちまった。壮大すぎる話だがこれであたしがここにいる理由もありゃーせん」


「なら」


「ああ、行こう、お前の異世界という奴にな、最高の鉱山と最高の鍛冶場を用意しろよ、これだからユウ坊は、それと、このダイヤモンドドラゴンから取れる鱗は素材アイテムだ。全部回収しな、1つはコレクションするんだね」


「ああ、助かる」


 1時間、ダイヤモンドドラゴンの解体作業に追われ、鱗はコレクションブックに適応出来た。物凄いステータスの上昇が見込めた。


 その日多くのドワーフ達が伝説の鍛冶屋ジニー老婆との別れに悲しんだ。

 

「さてと、準備は出来たよ」


「ってそれだけでいいんですか」


「いいかい、ドワーフにゃ金槌とでっかいハンマーがあれば良いんだよ、何度言ったら分かるんだあんたは」


「そうでした」


「アイテムボックスに入るのか、人生初めてバッグに入れられるのは奇妙な感じだな」


「すみません」


「気にするんじゃないよ」


 ドワーフのジニー老婆がアイテムボックスに入ると。

 俺はこの夢異世界から出る事にした。

 宇宙空間に運ばれ、ふわふわと浮いていると。


 巨大なサメのゴンザメが流れてくる。


「ゴンザメ―」


「次は闇森世界ですよね~」


「ああ頼む」


「あそこ暗いから好きじゃないんですがねー」


「大丈夫だ近づいたら後は転送してくれ」


「はいさー」


 宇宙は相変わらず黒くて真っ青で寒そうな世界。

 それでも俺はこの世界では肉体があるんだが肉体は無いのかもしれない。

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