第18話 しまった商品全部売っちまった。

 目が覚めた瞬間全身に激痛が走った。

 ま、まさか敵襲にあって拷問を受けていたのではないかと俺はヒア汗を搔きながら、ゆっくりと瞼を開いた。

 

 大丈夫だベッドの上にいる。

 辺りを伺うと、大勢の人々がいた。

 フウやジェラルド将軍はもちろん、その他大勢の仲間達までいる。

 彼等は深刻な顔をして相談している。


「あいつ、寝てから1ヵ月経とうとしてるけど一行に眼を覚まさないし、ぼこぼこにぶん殴ってもぴくりともしない、下手したら殺してた」


 そうか、フウがって何してんだよと心の中で突っ込む。


「ユウ様はきっと壮絶な夢世界を旅しているのでしょう、新しい商品が期待できそうです」


 ジェラルド将軍が腕組みしながらうむと頷いており。


「うーむ、冒険者ギルドの運営はヒダリ受付嬢に任せて来てしまったが、商品全部売れたのだろう? エンカウンター領地にお客がおしかけてきてる、暴動が起きるぞ」


 マックスギルドマスターがあたふたと呟いた。


 その他大勢もごにょごにょと呟き。


「まったく、ユウはどうしたものかしら」


「そうだな」


「ユウ!」


 俺はベッドに座りながらにやりと笑って見せた。


「いやーちょっと苦戦しまして、自分を買い取りしないと夢から戻れなくなってしまってね」


「ユウ殿!」


 ジェラルド将軍が抱き着いてきたが、気持ち悪いので逃げる。


「さて、商品の前に新しい仲間を紹介しよう」


 その場の全員が驚きの眼差しでこちらを見ている。

 それもそうだろうどこにもその仲間とやらがいないのだから。


 夢の世界で得た物は自動的にコレクションブックに収納される。

 よってアイテムボックスを取り出すと、そこから魔王を取り出す。

 その場が騒然とする。


「ヴァンパイア?」


 フウが当たり前のように呟く。


「いえ、魔王です」


 俺が教えてあげると。


「てことはーフーデリカのお父さん?」


 破壊勇者クラウスが大きな目を開けながら言うのだが。


「いえ、お父さんじゃないです」


 フーデリカが断固として否定。


「ふはははははあはははは、ここが師匠の故郷なのですなぁ」


「師匠!」


 フウが呟き。


「あんた夢の世界で何してたのよ」


「まぁ、説明するとだな」


 俺は昔話のように語り始めて、すぐに語りは終えた。


「なるほど、大変だったわね、さて、その話を順番に追ってみると、商品全部売れて、3000億万Tになって1000億万T消費して、2000億万Tになったという計算では?」


「そうだよって、さっきの話から推測するにコレクションブックの在庫全部売れた感じ?」


「そうなのよ、それで客が暴動起こしそう」


「……て事は売り物がない!」


「そうね……」


「よし、また寝るか」


【って、まていい】


 全員が思わず静止する。


「あんた寝たらまた時間かかって暴動起きるでしょうが」


「そうだけどさ、うーむ、コレクションブックにあるコレクト化した物は売りたくないしな」


「そこでじゃ」


 突然雑貨屋カンスイ老師が呟いた。


「老師! 何か策がおありで」


「そうじゃ、稼いだお金で領地を発展させ、武器や防具や道具や雑貨を生産するのじゃ、お主の夢異世界で手に入れた力を活用して生産活動をするのじゃ!」


 その場がしーんと静まりかえる。


 俺は思考を巡らし。


「稼ぎは?」


「1000億万Tが100束で100Zよ」


 1000億万T以上になると、1000億万Tが一束となり1Zとなる。それが100個あるから100Zと1000億万Tが100あると考えるようにこの全ての世界では考えられているが、普通国規模じゃないとZは使用されない。


 頭の中で計算していくと。


「て、ことは俺の稼いだ資産をまとめて、102Zという事か」


「そうなるわね」


「問題は生産拠点を作ったとしてもそれに適応する人材を集めるのが大変だという事ですよ」


 マックスギルドマスターが痛い所を突いてくる。


「ふぁふぁふぁ、それなら故郷に心当たりがある。一度行ってくるわい」


「いや、カンスイ老師あんた【ジブラルス王国】から追放されただろうが」


 思わず突っ込むと。


「まぁ、なんとかなるわい」


 そう言いながら、カンスイ老師はとことことドアを蹴破って立ち去った。


「問題はお客さん達ですよね」


 カフカ少年がびくびくおどおどしながら呟くと。


 俺は恐る恐る窓を開くと、そこには夢幻ショップの開店を待ち望むお客さんが長蛇の列をなしていた。


 ヒア汗を掻きながら。


「取り合えず帰ってもらおう、暴動が起きるようなら、魔王鎮圧してくれ」


「ふ、師匠がおおせのようなら」


 フウが訝し気な顔で魔王を見ている。


「そもそも、夢世界からどうやって、こちらへ、アイテムボックスから出したのは理解出来るんだけど」


「んーとコレクションブックには入らないけどアイテムボックスには入る。そして夢世界は俺が魂となって実体化し渡ってるだけで何も仮想の世界ではない、実在の世界、だからこちらへ来れたんだと思う」


「うーん、数時間程度で夢から仲間達を連れてこれる? あなたがかつて旅した夢異世界で」


「可能だよ、俺もアイテムボックスで渡る攻略方法は思いつかなかった。魔王のおかげだ」


「すごいじゃろ」


 魔王が威張っているがほっとく。


「兄貴ー次は俺が発言してもいいでしょうか」


 それはカラスマルだった。


「兄貴が眠り続けている間。空の研究を重ねました。空飛ぶ研究所には研究しやすい設備が沢山整っていました。その結果、飛行船なるものを発明しました。気球の力を応用した乗り物です。これで遠くまで貿易が可能となります」


「よくやったカラスマル」


「ですが商品がないので何も出来ません」


 カラスマルがしょんぼりと落ち込んでいる。背中には相変わらず色々な道具が装備されている。あれで空を飛翔するのだから驚きだ。


 パンパンとフウが両手を叩くと。


「じゃあ、解散、皆各自仕事してね」


「よし、俺は数時間だけ寝るぞ」


「頼むわよ」


 心当たりの人物達を脳裏で思い浮かべる。

 1人目伝説の鍛冶屋ジニー、2人目ダークエルフの密売人、3人目破壊神


 とりあえずこの3名に当たってみる。


 また俺は深い眠りの冒険に旅立った。


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