第17話 自分を購入しますが?
ダンジョンから帰還した俺は。
空を見上げて一仕事終えた気になっていた。
周りを見ると、奴隷パーティーと冒険者パーティーが相変わらず群れを成して自らを購入する為に日夜ダンジョン攻略に励んでいる。
露店を開くポイントは決めていて、もちろんダンジョンの入り口。
堂々とそこに陣取り、俺は売買の基本である売りを始めようとしている。
沢山の人々から買い取った色々な品々を複製、合成、改造を施して、信じられない品々にする。
それがリサイクルの基本だ。
と誰からも教わっていないのに威張ってみる。
「寄ってらっしゃい見てらっしゃい超絶凄い完全回復ポーションだよ、強化された武器や防具もあるよ」
1人が尋ねてくる。
「これは、体力とマジックポイントを同時に全回復させてくれるんだね?」
「その通りです」
「よし、買おう」
「まいど、残り98本だよー」
「なんだとおおお、俺も買うぞ」
「俺もだ」
「いやまて、私はこっちの武器と防具が気になるが、1つ10億は高すぎないか、それにしてもなんたる在庫の数だ」
「お客さんなめちゃーいけませんぜ、まだまだ在庫はありますから」
「な、なんと、鑑定してみたが、とんでもない破壊力だぞ」
「こっちの防具についちゃースキル付きだぜ兄ちゃん」
「なんだとおおお、どうやってスキルを付けたんだ」
「それは企業秘密です」
「ぐぬぬぬ、よし、武器も防具も買った」
「おいおい、騙されてんじゃねーのか」
野次が入ってきた。
これは想定内だと言わんばかりににやりとほくそえみ。
アイテムボックスから魔王光臨させた。
「あばぼおお、ってここがお前の世界か」
「違う、ちょっと協力しろ」
「へいへい」
「このおっさんはどこからどう見ても最弱だ」
「なんだとおおおお」
「だから魔王黙ってろ」
「し、師匠が言うなら」
周りの野次を飛ばす人達が笑い転げる。
「どこからどう見てもただのおっさんだな、まぁお爺さんに近いぞ」
野次馬達がさらに笑う。
俺はほくそ笑みながら、魔王が攻撃しないかハラハラドキドキと見張っている。
「ではそのおっさんがこの剣を持ち振るってみたらどうなるか、やってみましょう」
「師匠、やればいいんですね、誰を殺害しますか」
「いや、殺害するなぼけ」
「はいはい、で何を破壊すれば」
「ダンジョンを破壊しろ」
「は、はいいいい?」
野次馬達が蒼白となる。
「おっさんやれ、この鉄の剣【ミラクル改造版】でだ」
「へい、師匠」
そこにいる人々は蒼白とした顔となっている。
このダンジョンが破壊されれば何もかもぱぁ。
一生この世界から出れない。
だが俺は別なものを期待している。
あれはダンジョンだが破壊すれば別の何かが出てくる。
それが楽しみで仕方ない。
「やっりまーす」
鉄の剣【ミラクル改造版】で魔王が達人級の剣捌きでダンジョン塔を両断して見せた。
「「「「ぎゃあああああ」」」」
大勢の人々は悲鳴をあげて悶絶していた。
ダンジョンが真っ二つに千切れて。
そこから見たことも無い数のモンスターが溢れ出す。
「ちょ、師匠聞いてないよ」
「俺も想定外だ」
てっきりダンジョンとこの世界が融合するものと思っていたが。
ダンジョンの世界は塔の瓦礫に押しとどまり、そこからモンスターが大量に湧き出る。
その数数えきれない。
「まぁ、想定外だが、今すぐこの最強装備を買わないとお前等死ぬぞ」
「そういう商法だったのかい」
「いえ、偶然です、ほれほれ、早くしないとモンスターの大群に食われるぞー」
「この野郎、買ったこれもこれも買うぞ」
「俺も買うぞ、ったく自分を買うために貯めてたのに」
「ちきしょうううう」
「私のへそくりがあああ」
大勢の人々の断末魔を乗り越えて3000億万Tを獲得した。途中で値上げ工作をし、商人の汚い本性を丸出しにした。
奴隷パーティーと冒険者パーティーがモンスターを全て倒すと、大量の素材が落下した。
その結果、大量の品々が買い取り業者によって買われて、奴隷にされている人々は全て自分を買い取る事に成功した。
その日よりユウ夢幻ショップ店長の名はその世界に轟いた。
【災害を利用して荒稼ぎした人と】
「ってこれひどくないか」
「何を言いますか師匠、これは褒められているのですぞ、この世界で魔王が何と呼ばれているか知っていますがクズですよ、ダンジョンから出た事ないんですがね」
「そうか、クズかひどいなってダンジョンから出た事無いのになんでわかるんだよ」
「さぁ?」
「さて、リークンにお金を渡したいのだが」
【夢の声です。リークンに渡すにはカード化して「自分購入」とキーワードを呟くだけです】
「助かる」
アイテムボックスから1000億万Tを取り出すと、それを1枚のカード化する事に成功する。次に。
「自分購入」と呟く。カードが消滅する。
――おめでとうございます。自分を購入しました、この世界から出る事を許されました――
「あまり変わらないな、よし、出口にいこうか」
後方では大勢の人々がお祭り騒ぎとなっている。
そもそも、そんな事してたら誰かに購入されてしまうぞと思ったのだが。
その元凶がいなくなってしまったかのようだ。
「さぁ、魔王よアイテムボックスに入るんだ。あと俺の世界に来たら、魔王の娘がいるが、お前の娘ではないから気を付けろ」
「もちろんだ。いつの間に子供を作ったんだよって突っ込みたい」
「確かにダンジョンから出てないもんなお前」
「ああ…」
「なんか悲しいな」
「ほっとけ師匠」
そう言いつつ、魔王はアイテムボックスに収納された。
門を出た所であの老人はいなかった。
一応挨拶だけはしておこうと思って門の控室の扉を開いた。
老人の衣服が飾られており、そこには名札が張られてあった。
「リークン」
脳みその中で整理する。
既に会っていた。
自分を購入した人物。
それは老齢の守衛だったのだから。
心臓がはらはらドキドキしながら気配を察して振り返る。
そこにはリークンと呼ばれる1人の老人が椅子に座っていた。
まったく気配を感じさせず。
最初に出会った頃の優しさなど微塵もなく。
彼はゆっくりと小首を傾げながら。
「いやはや、面白い物を見させてもらったよ、実はねここいらの奴隷達は全てわしが買っていたのだよ、全てが自分自身を購入し終えた。わしの懐にはありえない、いや到底遊びきれない大金のTが入ってきたわけだ」
「何が言いたい」
「そろそろ、この世界も暇になったものだし、別な世界に行こうと思う、君だけが世界を旅出来る訳ではない、わしもまたその1人、君もまたその1人、わしは詐欺で金を稼ぐだけだ、生粋の詐欺師だ」
「俺にはあれが詐欺には思えなかった、周到なる正々堂々な買取だよ」
「ふ、君くらいだな、あんな誰でも思いつく買取方法なんて、君だって思いつくさ」
「俺はそういうのは思いつかない、皆が笑う方法くらいだな、あと寝るくらいだ」
「ふむ、そうか、君は平和主義なのかな?」
「そうなのかもしれない」
「商売とは時に人の不幸を噛みしめるものだよ」
「俺はそういうのは好きじゃない」
「まぁ、いいさ、この大金で色々出来そうだ。次の舞台に来れたらもてなそう、まぁ舞台は決まってないがね」
「じゃあね、リークン」
「ああ、ユウ」
それが詐欺商売リークンとの出会いであった。
「がはがは、君、ここは部外者は立ち入り禁止だぞ」
控室入り口には太った守衛がいて。
リークンの姿はいなくなっていた。
俺は挨拶して、外に出た。
少し楽しみが増えた気がして、夢から覚めた。
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