第16話 魔王光臨ですが腰痛で悩んでいます
地面が陥没するくらいの衝撃を伴て魔王が落下してきた。
魔王は決めポーズをとりながら、こちらを見て【ギクリ】と嫌な音を立ててその場でうずくまった。
「どうだ、かっこいいだろう」
「いえ、どこからどう見てもかっこ悪いです」
「いや、腰痛ヤラカス前々での段取りがいいだろう?」
「いえ、恥ずかしいです」
「ぐぬううう、ようやく我の世界に冒険者がやってきたからコテンパンにしてやろうかと思ったのになぁ」
「今までの冒険者はこなかったので?」
「皆、ランダムに分かれるダンジョンに行ってしまいなぜか我の世界にはこんかった。お前が初めてでお前が初めての犠牲じゃじゃ、ごほーーーーーー」
盛大に腰をやらかしたようだ。
「あのー年齢は?」
背中には黒い翼を生やしており。
漆黒の衣服はどこからどう見て魔王ではなくヴァンパイア王にしか見えない。
「ふぅ、そうだな」
かっこつける感じで髪をかき上げる魔王は少し悲しく見えた。
「年齢は-100000歳だ」
「生まれてねーだろ」
「-を付けるとカッコいいと聞いたぞ」
「誰にだよ、あれか、ヴァンパイア王か」
「うむ、冷たさが表現されるそうでな、ってなんでそうなるんだよ、もういい魔王怒った、お前をぶちのめす」
「お前は赤ちゃんか!」
「赤ちゃんじゃねー、我は魔王、この世界を滑る王、ふぅ、腰が痛いぞおお」
「それ関係ねーだろ」
「腰をなんとかしてくれええええええええ、ふぅ、お前を滅ぼしてやる」
「お前は助けを求める相手を殺そうとしてるんだぞ」
「はっ」
「今気づいたのか」
「湿布の時間だ」
「お前は自由だな」
「ちょっと待ってくれ、腰に貼るからちぃとばかしまってくれんかのう」
「待ってやるよ、こっちは作業で忙しいんだよ」
「待ってくれるかありがとうな、良い奴ではないか」
「お前が勝手に現れたんだろうが」
目の前で魔王が背中に湿布を張っているというシュールな光景を見せ付けられながら。
俺は装備を複製する事にした。
「それにしてもおっさん、凄いスキルをお持ちで、この腰痛を治してくれんか、だからぶっ殺してやるぞ」
「だから、お前は情緒不安定か、もうちょっと落ち着いて話せ」
「うむ、頼む、昨日から腰が痛くてさ、もう無理なのよ、年齢のせいなのかもしれん」
「これでも飲んどけ」
「おお、ありがとうな、優しいな」
そう言いながら、魔王はぐびぐびと完全回復ポーションを飲み干した。
なぜか背中が輝いていた。
それはもう盛大に輝いていた。
「ふぁあああああああ」
魔王復活。
「ふ、敵に小麦粉を振るとは馬鹿め」
「何もかも間違ってるぞ」
「さ、お前をコテンパンにしてやろう、破壊魔王で朽ち果ててやろうぞ」
魔王の右手に黒い塊を出現させると、それを俺に向かって解き放った。
孤を描いて俺の顔面に命中したが。
「ぽふん」
と可愛らしい音を鳴らして消滅した。
「は!?」
魔王は口を唖然と開いてこちらを二度見していた。
「ぐぬぬ、何かせこい事をやらかしおったなお前、この魔王の剣で首を両断してやる」
俺は一生懸命に装備を複製し続ける。
魔王は魔王の剣で俺の首を両断したはずなのだが。魔王の剣がぽっきりと半分に折れてしまった。
「はいいぃぃい」
魔王の剣はぽっきりと半分に折れてしまった。
「お、お前、人間なのか?」
「あああ、話しかけるな複製ミスったっだろ」
「す、すみませんん、出直してきますうううう」
魔王は空を飛翔してどこかへと消えていった。
その日から1時間おきに魔王光臨が始まった。
「さてと装備複製完了で、後は改造を施してっと、ほれ、そこの剣とってくれ」
「はい、師匠」
なぜか魔王が弟子になっていました。
「師匠、ところで強さの秘訣とは」
「良く寝て過ごす事だ」
「どのくらいでしょうか」
「最低でも10年は寝ろ」
「は、はい? 死ねと」
「違う、寝るんだ。それが俺の強さの秘訣だ」
「メモメモと」
装備を片端から複製していき、片端から改造していく。
魔力が尽きればマジックポーションを飲み、マジックポーションが尽きそうになる前に、マジックポーションを複製しておく。それの繰り返しで、最終的には無数の最強装備達が出来上がる訳だ。
「こ、これただの鉄の剣ですよね? 我から見たら空間を斬る剣のようにしか」
「大丈夫だ。この鉄の剣をこの大木にゆっくりと滑らすように触れる。ほら見ろスライムのように両断だ」
「ひ、ひええええ」
「この鉄の鎧だってな、こうやってぶん投げても」
遥か天へと飛ぶ鉄の鎧はゆっくりと雲の真上にまで到達し、ゆっくりと地面に向かって落下し、地面に巨大なクレーターを作る程までになった。
「こ、これ本当に鉄の鎧ですか?」
「ああ、そうだが? これを冒険者達に売り飛ばす」
「なるほどです。所で師匠、ダンジョンから出たらどうするので?」
「自分を購入して現実世界に戻り、売れ残り達を売りさばく」
「ほむほむ、我も連れて行ってくれんか」
「どうやって連れて行けと?」
俺がまっすぐに睨みつける。
「師匠の話だと、ここは夢の世界を介していると、そして夢の世界とは惑星であり異世界だと、そう認識出来ます。つまり宇宙空間をあなたは魂の様な状態で通っているのです」
「お前頭いいな」
「ありがとうございます。理論は簡単、あなたの言うコレクションブックなら無理だったかもしれませんが、師匠のアイテムボックスに我が入ればとんとんです」
「え……」
眼玉が飛び出そうになるほど、俺はなぜ気付かなかったのだと。
なぜそんな簡単な事に気付かなかったのだと。
「そういう方法もあるのか、うむ、試してみよう、失敗してもお前が死ぬだけだ」
「まぁ、そうなったら潔く死にますよ、もうこのダンジョンで1人ぼっち魔王はこりごりですからね」
「じゃあ、俺はダンジョンから出るからアイテムボックスに入ってみろ」
「任せてください」
アイテムボックス、見た目は革のバッグ。
魔王が頭から突っ込むというシュールな光景を見せられつつも。
魔王の翼が邪魔だったので無理やり折り畳んでアイテムボックスにぶち込んだ。
「さて、行くとするか」
自分を買い戻すため。
1000億万Tを用意する為。
さぁ、売買の売りを始めるとしようか。
ダンジョンに入り、複製と改造と合成を使い、魔王と出会ったけどろくに戦わず。
結局モンスターの1体も倒さず。ダンジョンを脱出した。
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