第15話 バイバイ世界【売買世界】

 新たな発見というか最悪な発見。


 コレクションブックを開いて転売する事が出来ないという事。


【奴隷になったらコレクションブックを解放できなくなる】


 と無機質な夢の声は告げた。


「最悪だ。これで、チート稼ぎ方法が絶たれたが、どうやらコレクション効果は適応されるらしい」


 俺の右手に握りしめられた石ころ、クッキーのように粉々に握りつぶす事が出来た。


「つまり、コレクションした物を転売できないが、コレクションした効果は得られるという事。ふーむ、ここではダンジョンで稼ぐというのが基本とされているらしいが、一度ダンジョンに潜ってみようか、いや、そんなメンドクサイ事出来るか」


 ぐーたら気質が働きたいという気持ちを阻害した。

 ダンジョンの入り口の通路には大勢の奴隷達が並んでいる。

 正確には奴隷パーティーだろう。

 彼等は俺と同じように買われて、自分を買うために頑張っている。

 リークンという人物が何者なのかはさておいて、俺は自分を購入しないとこの夢から出られない。


「取り合えず買取を始めよう」


 元手は400億万Tあるのだから、それを上手く活用せねばならない。

 獲得したスキル、超能力、覚醒力は適応されるので、そこも上手く活用していきたい。


 至る所で販売されている品々を見ていくが、そのどれもがとても高額な代物ばかりだった。


 回復ポーション、マジックポーション、強化薬。

 武器一般。魔法武器。

 防具一般、魔法防具。


 そのどれもがあり得ない程の高額だ。


 それでも買わねば生きていけない。

 逆に買い取り業者は格安で買い取っている。

 この売買制度が崩壊してしまっている所を突けば何とかなるかもしれない。


 口の端を釣り上げて笑って見せた。

 

 取り合えず、コレクションブックが使用できないので、露店用の屋台を取り出す訳にもいかない、まずは地面に座る事から始める。


 場所はダンジョンの入り口手前。

 突然座った俺に対して、周りの奴隷や冒険者達は驚きの視線で見向きする。


 俺は大声で話し始めた。


「夢幻ショップが買取を始めるよー、どんな買い取り業者よりも2倍で買い取るよーさぁさぁ」


 最初奴隷パーティーの人や冒険者パーティーの人達は意味不明な顔をしていたが。

 次の言葉で騒然となる。


「買取出来るのには限りがあるよー、買取できなくなったら店じまいだよー」


 次の瞬間。


 奴隷パーティーや冒険者パーティーは騒然となって夢幻ショップの買取露店に長蛇の列として並んだ。


「兄ちゃん、俺はこれを売りたい」

「僕はこれを売る」

「本当に2倍なんだろうな」

「す、すげえええ、こんだけの額になっちまった」

「おいおい、俺も売りてーぜ」

「俺様もいいかー」


 高速で鑑定スキルを発動させる。

 次から次へと売られてくる商品達。


 脳裏で計算高く計算する。

 まず鑑定で品の品質を見極める。それを2倍で購入する。1つの品さえ手に入れれば、次は【スキル:複製】を使用する事が可能。さらに【スキル:改造】を使用して強化できる。【鑑定スキル】はあまり使用した事がないので、違和感はあったが、アイテムや装備には色々な情報が記載されている。まずランク、次に属性、次に素材、本当に面倒くさい能力。


「店じまいだよーありがとうねー」


「ちぇ、間に合わなかったか」

「くそー沢山仕入れたのに―」

「……」


 大勢の人々が長蛇の列をなしていたが、元手の400億万Tは綺麗さっぱり消滅した。

 残ったのはコレクションブックが機能せずしまう事が出来なくなった無数のアイテムと装備達。

 

 買取最中にリアカーを買い取れたので、そこに積み上げている。

 まるでホームレスまたは貧乏な旅人になった気分だった。


 リアカーを引いて、ダンジョンの中に入る。

 それはもう皆から唖然と見られただろう。


 それには理由がある。

 リークンなる物がどこからどう見ているか分からないからだ。


 ダンジョンの中に入れば、誰も見ていない。

 1つのパーティーが1つだけ存在できる空間こそがここのダンジョンだからだ。


 ダンジョンの中はある意味、世界が広がっていると言ってよかった。

 壮大な草原、果てしない森、雲の上には遺跡が連なっており。

 巨大な山には巨大な階段がある。

 海はどこまでも続き、無人島には塔がある。


「いやいや、俺一人じゃ攻略できねーよ」


 当たり前に思った。


 辺りを伺うもモンスターの気配はない。

 というよりモンスターがこちらにびびって近づいてこないようだ。


 それは好都合と思い、色々と作業の準備を始める。


「コレクションブックがあるからアイテムボックスは必要ないと思ってたんだけどな―、今回ばかりはそうはいかない、という事で、この袋を改造しよう」


 その袋はどこからどうみても革製の鞄の形をしていた。

 そこに改造を加える。


 案山子を改造したように、イメージ力と可能性を引き出し。

 ほぼチートの力で作り替える。


「よし、アイテムボックス完成」


 試しにと色々と入れてみる。

 入れてみたはいいが、空から降ってくる。


「あちゃーちょっと改造しなおしっと、こうしてこうしてと」


 アイテムボックスにまた入れると、次にアイテムボックスから取り出せる。


「よしよしまずは成功と。次に、マジックポーションが10本あったので、1000本に複製すると、そんでもって俺の魔力が付きそうになるから、10本飲んでと」


「次に、回復ポーションを10本から1000本に複製してと、また魔力が付きそうになるから10本飲んでと、次に、回復ポーションとマジックポーションを【スキル:合成】を使ってと、完全回復ポーションが100個完成と」


 ふぅと一息ついた。

 1本で1000万Tするポーションが100本完成した。

 つまり10億万Tの収益が見込めるが、残念ながら売れないかもしれない。

 それほどまでにこの世界の住民は金が必用だからだ。


「次は装備といこうか」


 だが、唐突に作業を止めざるえなかった。

 目の前に巨大な翼に包まれてゆっくりと空から落下してきた何かがいたからだ。

 思わず鑑定してしまうと。

 そいつは【魔王】であったのだから。



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