untitled

@rabbit090

第1話

 君はちょっとだけ、困った顔を浮かべたけれど、僕はずっと知らないふりをしていた。

 だってその方が好都合だったから、僕にとっては、人の気持ちなんてどうでもよかった。むしろ大事なのは、みんなと違うってことは分かっているけれど、世界のことだから、知ってしまったから、だから、仕方ないんだ。

 「滅びる…?」

 「そうだよ、だから一緒に逃げてくれよ。」

 「馬鹿なこと言わないでよ、変なの?ごめん、言い方悪かったよね。おかしくなったの?」

 「いや?」

 「じゃあ何よ。何で、ここが無くなるっていうの。」

 「…説明はできない、複雑なんだ。だから頼む、来てくれ。」

 僕は、そう言った。

 これは、ただの小芝居だ。

 本当は、僕は彼女のことが好きだったから、ただ直接的に、愛を伝えることができなかったから、こんなことを口走っている。

 それくらい、鬼気迫っているのは、もうすぐ僕が、死ぬからだった。

 君の心は、もう僕のことを、思っていはいない。

 その顕著な事実に気付いたのは、あいつが現れてからだった。

 「近藤。」

 「ああ、で?」

 「でじゃなくてさ、あいつのこと、好きなのかよ。」

 「別に、だから何?」

 近藤は、同じ学校に通う男子だった。そして、最近あいつに、気があるようだった。でも、こうやって追及すると、するりとかわす。

 そんな仕草が、なんても腹だって仕方が無い。

 「悪いけど、言ってないけど、僕もあいつのことが好きだ。」

 「そうか、よかったな。」

 いいわけねぇだろ、お前、何だよ。

 やたら話しかけたり、一緒に帰ったり、最近は来るのまで一緒、そしてあいつはい

つも笑っている。

 「…それより、何か忘れてないか?」

 「はあ?」

 「まあ、ならいいや。」

 ため息をついて、近藤は去る。こいつはホントに、何を言っているかがよく分からない時がある。

 何なんだ、一体。

 

 そして、その日僕は、夢を見た。

 その夢には大きな高原が出てきて、きれいな建物が一つ、存在した。

 僕はそこに入ることにして、入り口に手をかけた。でも、どうしても開かなくて困っていた。

 しかし、隣りにはなぜか、近藤がいた。

 僕は違和感を抱かずに、近藤に助けを求め、扉は開いた。

 何事もなかったかのように、平然と。

 そして、思い出すのだ、そうだ、そうだった。

 「近藤、悪い。」

 「はあ、いい加減にしてくれよ。」

 「僕らは、そうだ。世界を滅ぼしてはいけない。だから、行かなくては。」

 「だろ?」

 こいつの、ニヒルな物言いは、昔から慣れていた。

 でも、あいつのことが好きなのは、似ているんだ。

 あの純粋さが、好きだった。良くも悪くも表裏がない、あの、素朴さが僕らを惹きつけていた。

 「何でこんな存在に生まれたんだろうな。」

 「さあ、神様が考えることなんて、知らねえもん。」

 

 僕らは、この世界が崩れる際、それを調整する役目として、神様に作られた存在だった。

 神様は、この世界を作った人で、絶妙なバランスで世界を形成することができる、神のような人だった。

 それを行うには、物事の法則をこれといっていいのか、というほど解き明かし、超越した知性が無くてはできない。

 だから、僕らは尊敬する彼のために、ただ働くだけだった。

 けど、

 「今回は、ダメみたいだ。」

 「…ああ。」

 どうやら、世界は滅びるらしい。

 しかし僕らには、逃げ道があった。

 そして、僕はそこに彼女を連れて行くつもりだった。そして、それを彼に、近藤に伝えると、「勝手にしろ。」と突き放した。

 本当は、分かっていた。

 彼女が僕のことではなく、近藤が好きだってことくらい。

 でも、僕は彼女の手を引いて、逃げることを選んだ。

 その代償は、僕の死、でも構わない。

 三枚目として、その役を引き受ける、それが僕の望むことだった。

 なるべく何気なく、誘いだそう。

 きっとぼくの気持ちは、彼女に伝わるはず、だから、大丈夫。

 僕はそう信じて、笑った。

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