第8話

 こうして俺達は魔王討伐に向けて人間の住む場所から離れ、世界のあちこちを魔物を倒しながら放浪している。

 途中で魔王が住んでいそうな城とか、明らかに敵の強さが跳ね上がった怪しげな場所も通りかかったけど、俺達は特にそういったそれっぽい場所には近付かずに、森とか平原とか比較的安全そうな場所の魔物を倒していた。

 1日に10体ずつくらいのスローペースで。

 理由は、俺の経験値酔いを避ける為と、魔物の絶滅を防ぐためだ。

 「油井ー、レベルいくつになった?」

 「15・3になった所。もう防御だけなら土屋より強いよ!」

 防御だけね。

 レベルがかなり上がり難い俺がここまでレベルを上げられたんだ、1日に10体くらいのスローペースで。だから、魔王を倒してと願われた日から何年?何十年かは経っているんだと思う。

 だけども俺達はこれでも魔王退治に専念しているんだ、確実に。

 1日1日ゆっくりではあるけど、魔王は着実に死に向かっているといって良い。

 だから俺達はその日がくるまでこの世界にいる魔物を倒しながら、のんびりとした生活を送り続けるつもりだ。

 食事をとらなくて良い体ではあるけど食事はできるから料理の真似事とかもして、眠らなくていいんだから家もいらないのに小屋を建てたりして。

 小屋の庭で薬草を育ててみたり、その薬草で傷薬を作ってみたり。

 全部独学……というかひらめき?こうしたら良いんじゃないかな?でやってるから正解なんか分からないんだけど、それでもなんとかなってるから楽しい。

 そのうち、倒した敵の鱗とか革とか牙で防具とか武器も作れたらいいなーって。

 だから、なんというか……魔王には長生きしてほしいとか願ってしまってる。

 だってさ、魔王が死んだらこの世界を救ったことになってスカイ・ルリ・アクアマリンとミント・ワカバ・エメラルドがいるあの広場に戻されるんだ。

 そうなって次の異世界に放り込まれる時、また土屋と一緒に行けるとは限らない。

 「油井、今日は何処まで行く?」

 「土屋がいるなら、どこでも付いてくよ」

 後数十年?

 後数年?

 1日でも長くこの世界にいたいな。

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ひとクラス分の異世界奮闘記 SIN @kiva

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