第7話
ローブ姿の人間達は、俺達がこの世界によって召喚された所までは把握していたようだが、まさか2人だとは思ってもいなかったようで、”中々勇者が訪ねて来ないのは勇者を誑かす魔物が側にいるからだ”との考えに至り、明らかに強者である土屋の隣にいる弱い俺をその誑かしている魔物だと思い込んでいたらしい。
そのため土屋が離れた隙に俺を攻撃して殺し、勇者の目を覚まさせようとした所、途中で帰ってきた土屋が瀕死の俺を見つけて戦闘になったと。
確かに、俺を魔物だと思っていた側の人間なら魔物を倒そうとしただけなのに勇者がいきなり襲ってきた。ってことになるんだろう。
そうして絶滅することを避けるため、人間は「コイツの命が惜しければ抵抗するな」と意識のない俺に剣を向け、土屋に対しては気絶するまで殴りつけて荷台に乗せて運んだ。ってことのようだ。
俺まで荷馬車に乗せられたのは、土屋が再び暴れた時用の道具だとかなんとか。
色々と酷い話だよ。
そして声を揃えて勇者に「魔王を倒して」とお願いごとをしている。
部屋の四隅にいるローブ姿は魔法が放てるように杖を構えながらだ。
俺が土屋と一緒に世界によって呼ばれた存在であるとは説明したのに、半信半疑なのか、それとも土屋だけで良いと思われたのか、未だに俺の扱いは土屋を説得するためだけの道具でしかないらしい。
気に食わないけど、いつまでもこの部屋で足止めされる訳にもいかないし、そもそも俺達はこの世界の人間に頼まれなくても、魔王を倒すためにこの世界に放り込まれた。
どうせ倒さなきゃならないんだから、はいはいって頷いてここから出た方が良いんじゃないかな?
人間扱いされてないことにはちょっと文句くらいは言いたいし、殺されかけた恨みはあるけど、だからこそ1秒だってこんな所にはいたくない。
賠償金とか請求する?
防具とか武器も?
土屋に用意されたとしても、俺には用意されないのは火を見るより明らかだ。
その土屋はもう既に立派な防具と武器を装備してる状態なんだから、ここで得られるのはこの世界のお金くらいなもの。
眠くもならない、腹も減らない俺達にとって、お金はそれほど必要なものか?
服が破れた時に新しい服を買うくらいなものじゃない?
それ位の儲けなら、魔物を倒せば十分に稼げる。
納得はいかないけど……ここは人間の願いを聞いた方が良い。
「土屋、受けよ」
「俺は嫌だ。油井は自分の怪我を見てないからそんなことが言えるんだ!」
えぇー……そんなに酷い感じだったのか……。
なら余計に人間と一緒にいたくないわ。
「ここから出たいだけなんだ……願いを聞けば速いと思って」
「……分かった。お前ら、油井に感謝……崇めろ!油井がいなけりゃ俺はお前らを先に消してた」
待って、物騒!
それに俺がいなかったら恐らくはもっとスムーズに魔王退治の流れになってたと思う!
あ、死んでたらって意味か。
「勇者様っ!有難うございます!」
結局俺のことは無視なのね?
でも、こんなのは「ゴミ」だと言われた時から変わらない扱いじゃないか。
何処に行った所で、弱い俺では「ゴミ」にしかなれないんだな。
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