第6話

 ザワザワと五月蠅い気配で目が覚めた。

 起きていることがバレたら駄目な気がして、うっすらと目を開けてキョロキョロと目だけを動かせば、まさに俺が思っていたような召喚の儀式が行われるような、そんな雰囲気の部屋の中にローブ姿の人が1人、2人?見える。

 「勇者様、どうか私共の願いを……」

 「だからさぁ、不意打ちで攻撃されてんだよ、こっちは。それでどうして協力しろとか言えんのさ。油井は下手すりゃ死んでたんだぞ!」

 あ、土屋の声だ。

 よかった……無事だったんだ。

 しかも声の感じからして元気良さそうで安心した……えっ!?俺死にそうだったの!?

 そう思うと酷く頭が痛いや……。

 確か頭になにかが当たって、それで気絶したんだっけか。

 「それは、勇者様が先に攻撃をしたからだと報告を受けていますが」

 何言ってんの?

 俺達から攻撃?

 そんなのした覚えないんだけど……待て、この人達が人間に変化した魔物だとしたら、先に攻撃したのは俺達ってことになるのかも。

 痛む身体を動かして起き上がり、部屋の中をしっかりと見回してみれば、ローブ姿の人が部屋の四隅にいて、さらに土屋の前に2人並んで立っていた。

 「油井!起きて大丈夫か?」

 パッとこっちを向いた土屋の姿は、荷車の上で見た時のようなボロボロではなくて綺麗だったから、なんかもう、それだけでいいやって思えるよ。

 「頭が少し痛いだけ。これなら雨の日の偏頭痛の方が痛いレベルだから大丈夫だよ」

 と、言うのは嘘で結構ズキズキするんだけど、今以上に心配かけたら流石に悪いと思って……。

 「本当に?まだ治癒魔法いる?頭の骨は元に戻ってる?押さえても痛くない?」

 それでもこんなに心配を……えっ!?頭の骨!?

 「俺っ、頭蓋骨骨折してたの?」

 土屋は答える代わりにオレの後頭部を軽く押してきて、そこで頭の痛みが増した。

 「……油井、ここ……痛む?」

 「うん、痛い……」

 「ん。ちょっとジッとしててね」

 そうだった、土屋は魔法使いなんだった。それで治癒魔法も使えたんだった。

 俺のパートナーが魔法職である土屋じゃなかったら、もしかして……いやっ、コワイことは出来るだけ考えないでおこう。

 今の俺に与えられたミッションは、ちょっとの間ジッとしておくことだ。

 「勇者様、どうか話しを……」

 「油井、気分はどうだ?悪くないか?」

 ローブ姿の人の話しは一切聞かないつもなのかな?

 でもさ、こっちは頭蓋骨骨折?の大怪我をさせられたんだから、その治療中くらいは黙っててほしい所ではある。

 別の意味で気分が悪いわ!とか言える程の度胸はないけどさ。

 「大丈夫、もう痛みもそんなに……」

 「勇者様を誑かす魔物め!黙れ!」

 うわっなに?

 ビックリシタ……。

 えっと、土屋って誰かに誑かされてるのか?

 しかも魔物に?

 あ、魔物め!ってことは、ここにいるローブ姿は人間なのか。

 「お前ら、まだソレ言ってんの?」

 横目でローブ姿を睨むように見ている土屋は、それでも治癒魔法の手を止めようとはしなくて、目の前に見えている表情と魔法から感じ取れる温かさのギャップが酷くて、よくは分からないけど、なんだろうな……くすぐったい。

 俺って、土屋に大事にされてるんだなーって。

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