第5話

 頭からなにかをかぶせられ、後ろ手に拘束されて自由を奪われた俺は、多分荷車かなにかに雑に乗せられて運搬されている。

 どうして急にこんな状況になったのかなんて分からないけど、いくら呼び掛けても返事がないことから、近くに土屋はいないのだろうと予想がつく。

 これはなんだ?

 人攫い?

 犯人は人間?

 それとも魔物?

 せめて犯人の話し声だけでも聞こえたら人間か魔物かの判断ができたかもしれないのに。

 いや、それよりも俺はどうしてこんな状況に陥ってるんだ?

 土屋は?

 「土屋、何処?」

 決して無音じゃないのに、それでも知りたいことの返事が返ってこないのは酷く不安で、空しい。

 ガタン。

 1回大きく揺れた後、荷車が止まった。

 目的地に着いた?

 「確認してくれ」

 「分かった」

 雑に頭を押さえられ、なんの予告もなく頭にかぶせられていた物が取られると、視界一杯に入って来たのは太陽の光で、俺はあまりにも眩しくて目を閉じることしか出来なかった。

 「どうだ?」

 「間違いない。運べ」

 ガタタンと荷車は再び動き出して太陽に光が途切れたので、ソッと目を開けてみると想像していたよりももう少しだけ立派なものに乗せられている状況が確認できた。それと同時に、最も見たくはなかった光景まで。

 荷台にはもう1人乗せられていて、そいつはグッタリとして目は開いてなくて、体のあちこちに血が付いていて……。

 「土屋……?」

 這って近付いていくと微かな呼吸音が聞こえてきて、心底ホッとした。

 だけど分からない……睡眠すら必要がなくなっていた筈の俺が、何故意識のない状態で連行されることになっていたのか。

 気絶させられたにしても、いつ攻撃を受けたんだ?

 それに俺は無傷なのに土屋がこんなにボロボロになっているのも不思議だ。

 「土屋……起きてないの?怪我は痛くない?大丈夫?土屋……」

 何度呼び掛けてみても返事はない。

 呼吸音は聞こえるけど、コワイ……もしこのまま目覚めなかったら?

 いやいや、物騒なことを考えちゃ駄目だ。

 きっとスグに目覚めて、なんでもなさそうな声でおはよう、とかなんとか言ってくれるに違いないんだ。

 な?

 そうだよな?

 そうだって言ってくれよ。

 「土屋……つちっ……うぅ……」

 「うるさい!黙れ!」

 なにかが頭に当たった鈍い痛みを感じた直後意図せずに倒れ込んでしまい、そのまま目が閉じていった。

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