妹に婚約者を奪われました。代わりに私は銀河辺境伯ギュギュンタロス様に嫁がされるそうです……銀河辺境伯ギュギュンタロス??????

榎本快晴

本編

「ごめんなさいねお姉様? わたくしは遠慮したのですけど、王子様がどうしても私と結婚したいというのです。うふふ」

「すまないエリザ。僕は真実の愛を見つけてしまったんだ」


 妹のリリスは王子に肩を抱かれながら、悪魔のように微笑んでいた。


 ああ、どうしてこうなってしまったのだろう。

 幼いころの私たちは仲のいい姉妹だったはずなのに。

 いつしか妹は私に敵愾心を燃やすようになり、私からあらゆるものを奪うようになった。お気に入りの洋服も、両親からの愛も、そして婚約者だった王子すらも。


 跪いて嘆く私に、王子はそっけなく言う。


「君には代わりの嫁ぎ先を紹介しよう。そこで幸せになってくれ」

「よかったですねお姉様? 王子様がとても素敵な相手を紹介してくださるそうですよ?」

「……はい」


 もはやこちらに反論する権利はないのだろう。

 暗澹とした気分で私は頷いた。いったいどんな相手に嫁がされてしまうのだろう――


「エリザ。君は銀河辺境伯ギュギュンタロスに嫁いでもらう」

「かしこまりました……。銀河辺境伯ギュギュンタロス様ですね…………銀河辺境伯ギュギュンタロス??????」


 なんだそれ。

 初耳にも程がある。悪質な冗談か何かか?


「あら~。いつまでも垢抜けないお姉様にはぴったりではありませんの。なんせ銀河辺境伯の所領といったら、辺境中のド辺境ですから」

「え? リリスあんた知ってんの? その銀河辺境伯とかいう存在」

「もちろん知ってますとも。この王都から三千光年離れたMM666星雲の宇宙艦隊を拠点に、他銀河系からの侵略者を迎え撃つ役割を担う――戦いばかりに明け暮れる野蛮な田舎貴族ですわ」

「待って全然頭に入ってこない」


 スケールがでかすぎてもう田舎とかそういう問題じゃない。

 何の脈絡もなくいきなりスペースオペラ設定をぶちこんでくるな。


「それから、常に仮面を外さない変人として有名ですわ。きっとさぞ醜い顔をしているのでしょうね?」

「ごめんリリス。たぶん仮面外したらイケメンっていう王道展開なんだと思うけど、もう完全に絵面がダー〇ベイダーなんだわ」


 というか、そもそも――


「どうやって私、三千光年も離れた嫁ぎ先に行けばいいの?」

「銀河辺境伯が『ワープ航法』とかいう田舎技術を持ってましたから、それを使えばよろしいのではなくて?」

「どう考えても田舎技術で片付けていい代物じゃないでしょ」


 こちらはまだ馬車が交通の最先端である。

 明らかに格が違う。なんならこちらの王家こそ辺境伯と呼ぶべきなのかもしれない。


「おや。さっそくお迎えが来たようだよ」


 王子が窓の外を指差した。

 言われるがまま窓の外を見てみれば、青空に次元を穿ったような黒い穴が開き、そこから数十隻の空飛ぶ軍艦が姿を現していた。


「やれやれ……王都の上空にあんなもので乗り付けるなんて、相変わらずギュギュンタロスは品がないものだね」

「仕方ありませんわ王子様。あんな田舎者にまっとうな貴族の作法を期待するのは可哀そうではなくて?」

「すごく仲いいねあんたたち」


 あんな光景を見ても一切動揺せずに上から目線をキープしているあたり、王子と妹はある意味で大物なのかもしれない。もしくは単にイカレているか。


「っていうか大丈夫? このままこの星ごと侵略されたりしない?」

「ははは。何を馬鹿な、田舎貴族ごときにそんなことができるわけないだろう」

「どこから湧いてくるのその自信? できないわけなくない?」


 と、そのとき。

 空飛ぶ軍艦から謎ビームが射出され、王都近くに聳える山を一撃で蒸発させた。


『我、銀河辺境伯ギュギュンタロスはここに革命を宣言する。王家の者よ、速やかに降伏せよ』


 圧倒的武力を伴った宣戦布告を受け、王子と妹はがくりと膝をついた。


「そんな……たかが辺境伯ごときが謀反だと……?」

「ありえません! ありえませんわ!」

「どこからどう考えても順当なんだけど」


 むしろなぜ今までこんなバケモノが王家に従っていたのか分からない。

 パワーバランスがおかしすぎる。


『我が伴侶となるエリザ嬢に対する度重なる放言。万死に値する』

「えっ。私が革命の原因なの?」

『無論なり』

「会ったこともない私に対してその温度感で来るの、ちょっと怖いんだけど」

『一族の者をナメられたら殺す。ММ666星雲では常識だ』

「あ。本当に価値観はしっかり蛮族だわ」


 超先端技術を備えたクソ蛮族に私がドン引きしている中、妹は泣きながら床を拳で叩いていた。


「なんてこと……! なんてこと! どこで私は間違ってしまいましたの……!?」

「最初から全部だと思う」

「お姉様。さぞ私が滑稽でしょうね……。この無様に落ちぶれた妹を笑うがいいですわ……」

「ごめん。ざまあ展開があまりにもスピーディすぎて全然ついていけてないから私」


 そうしているうち、宇宙艦隊から一人の人間が王城のバルコニーに降り立った。普通に空中を飛んできたことはもうあんまり気にならなかった。


「はじめましてエリザ嬢。我が貴殿の伴侶となる銀河辺境伯ギュギュンタロス――といいたいところなのだが」


 そこでギュギュンタロスは仮面を外した。

 仮面の下からは、見るも美しい――女性の顔が現れた。


「諸事情により我は性別を偽って宇宙艦隊の指揮を執っている。しかし諸事情により結婚する必要ができてしまってな。なので貴殿とは偽装結婚を結ばせてもらいたい」

「複雑な設定にもう一段また複雑な設定噛ませてくるのやめてくれません?」

「それはそうとエリザ嬢。貴殿には素晴らしいパイロット適正がある。ぜひ私とシンクロ搭乗してスペース蛮族と戦わないか?」

「せめて情報処理の息継ぎさせてもらえません???」


 こうして私は流されるまま偽装結婚を結び、ММ666星雲に旅立つこととなった。

 そこで波乱万丈の宇宙大戦に巻き込まれた私は、いろいろあって最終的にチャーハンだけ美味しいラーメン屋を営むことになるのだが、それはまた別の話である。

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妹に婚約者を奪われました。代わりに私は銀河辺境伯ギュギュンタロス様に嫁がされるそうです……銀河辺境伯ギュギュンタロス?????? 榎本快晴 @enomoto-kaisei

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