第3話 おお、美しい!心よ、光よ!

 まさかあの後であのようなことになるとは私は想像もしなかった。夜になっても部屋から出て来られないベルニーニ様を気づかって部屋を訪ねると、先生は、先生は…床に倒れて…すでに息を引き取られていた!そのあとの騒ぎはまあ大変だったが、いま葬儀もなにもかもすべてを終えて、改めて当時を思い返すと不思議なことばかりだ。常々先生は「形に心を奪われてはならぬ。飽くまでも理想の途次とせよ。作品の出来栄えに溺れるなら悪魔は、それを名誉心や官能にさえ変えてしまうからだ」とおっしゃられていたが、そう云えば最後まで彫られていたあのキリストの胸像…あの像は、みずからへの祈りを片手を上げて制し、顔を横にして‘形ならぬ’天上の光を見る者に媒介しているようだ。そう…それとあの折りの幻聴と幻視!倒れている先生の横に神々しい光があらわれ、その光と先生の会話を、私は確かにこの耳で聞いた…

「ジャン、よく仕事をした。見上げたものだ」

「あなたは!あなたは…ゆ、許してください!私は、私は…傲慢でした!私に力などない。いまそれがよくわかります。も、もう一度あなたの工房に入れてください。こ、心を、心を…一から学びたいのです」

「ああ、またいっしょに働こう。しかしジャン、見てごらん、あそこに現れた、おまえの最後の彫刻を」

 先生の眼に涙があふれ、そして最後に先生はこう申された。「おお、美しい!心よ、光よ!」と。

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カタファルコ(棺台) 多谷昇太 @miyabotaru77

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