第4話 都会は怖い

 殴られはしなかった。また、今回に限り、窃盗の疑いもかけられなかった。3人の足取りは軽快だった。


「あいつ、どんな山奥に住んどるんやろ」

「運動場なんかないんと違うか」

「人間より、猿が多かったりして」

 言いたい放題だった。


「けど、どこにリュック置いたのやろ」

 修司には優しい一面があった。

「修ちゃん。まあ、山の中やから、泥棒なんかおらんやろ。都会に出てきたら、貴重品は肌身離したらいかんってこと習うてないんやろ」

 いつしか洋一は都会っ子気取りだった。


「洋ちゃん。ちょっと待ってや。警戒心がゼロやから、そこらにリュックを置いた。邪魔になるので、片付けた者がいた。誰かがそれをゴミやと思うて…」

 言いながら、隆はネコ車を思い出していた。確かに、ボロ切れのようなものがあった。


 3人は学校に引き返した。

 焼却炉から、煙が上がっていた。用務員が止めるのも聞かず、洋一は焼却炉によじ登った。蓋を開け、灰かき棒で焼け焦げたリュックを取り出した。

 リュックは山仕事などに長年使ったと見え、くたびれ果てていた。中から、財布と空の弁当箱が出てきた。


 3人は暗くなりかけた千足せんぞく道を急いだ。

「洋ちゃん。よかったなあ。財布が無事で」

 隆はホッとしていた。

「ゼニ盗られとったら、あいつ『都会は怖いところや』って、一生思うやろな」

 笑ってはいたが、3人はまだ本当の都会を知らなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

続 村の少年探偵・隆 その11 上には上 山谷麻也 @mk1624

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ