第3話 大事の前の小事

 ともあれ、本校の生徒たちは分校生に関心を持った。分校生は質問攻めに合っていた。今日で言うところの「ぶら下がり取材」みたいだった。


 緊張のあまり、分校生は泣き出してしまった。洋一のような中学生も加わって取り巻いたのだから、無理もない話だった。

 そこへ生徒指導教師が通り掛かった。

「誰が泣かしたんや?」


 隆と洋一、修司は、バックネット裏で厳しく追及された。

(あれくらいのことで泣くなんて)

 3人は不服だった。しかし、そんなことは、この暴力教師の前で、おくびにも出せなかった。


 いよいよ、隆たちは覚悟を決めた。殴られるのは慣れているが、喜んで頬を差し出しているわけではない。

 ソフトボールの後片付けをしていた生徒たちがざわつき始めた。

「この子の荷物がなくなっとるって!」


 生徒指導教師は、隆たちに説教している場合ではなかった。

 分校生は財布と弁当箱を古いナップザックに入れていた。バス賃のほか「都会へ行くので」と、親が小遣い銭も持たせてくれたはずだ。


「悪いな。ちょっとごめんよ」

 用務員が不用品をネコ車に乗せ、焼却炉に運んでいた。

「これは、先生。ご苦労なことですなあ」

 意味ありげに洋一たちに目をやった。


 一日に2便しかないバスの出発時刻が、迫っていた。生徒指導教師はバス賃をポケットマネーから出してやり、分校生を乗せたバスは山奥へと消えた。

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