第3話
「ねー、レーくん。まだつかないのー?うぇっくっしょーい!ぅひぃ寒っ」
「手で塞げー。んで多分そろつくはず」
「そー言って3日!3日よ3日!!風邪ひくよっ!?」
そう言って不満を示すトレフエン。
現在二人は雪の都『ヴェーク』を目指していた。
ヴェークは年中雪が降るこの地域の中で特に発展した町である。地域が地域ということで、人口の集中が凄まじく、今や雪国とも呼ばれている。
ヴェークに特に用事があるわけでもないが、毎年行われるオークションが近頃あるとの話で、まだまともな装備をしていないトレフエンのためによるということになっていた。
だが…
「俺もこんな氷雪地域初めてなもんで…」
「で!?」
「迷った。」
「バカタレぇぇぇ!」
まぁ初心者二人で年がら年中、昼夜問わず殆どの時間雪が降っている場所で遭難するなというのは酷な話であり。
絶賛迷子である。
「綺麗な雪景色ー!」とか最初ははしゃいでいたトレフエンだが、慣れてしまえば、ただただ視界を遮られるだけである上、ものすごい風に吹かれ、雪は荒れ狂っているのである。
そりゃブチギレである。
「どーすんのさ!?もう十歩前の足跡もわかったもんじゃないのに!」
「すまん…とりあえず風が落ち着くまで休もう」
「レーくんがやってよね!」
「わかってますって…」
そう言って、先ほどまで足元を探るために利用していた杖を雪から抜き出し、すぐそばの崖に杖の先を向けた。
「『ソメツイマ』」
すると、岩が削れる。
削れるというより、崩れるといった表現が正しいか。
ともかく、一部が崩れ去った崖には人二人が入って余裕がある程度の穴が空いた。
レーベヴォールは杖を下ろすと、入口となった部分に布を貼った。
「おっ先ー!」
「結界は任せていい?」
「りー!『エグ・べグレンツェン』」
トレフエンが空洞内に杖を這わし、唱える。
這わした部分が淡い青色に発光した。
「これでオッケー」
「了解。飯にするかー」
バッグから調理器具諸々を取り出すレーベヴォール。
彼のカバンは当然改造されており、魔法によって拡張、軽量化、中身の保存がされている。
そのため、結構ガチめな器具と食材が出てくる。
「何がいい?」
「辛いやつ」
「抽象的だなおい」
「鍋」
「了解」
すると、包丁を取り出し、ざっくりとした感覚で食材を刻んでいく。
「スープ先に作っとくね」
「さんきゅ、でき次第火の通りにくい物から入れて」
「あいあいさー!」
トレフエンも出来ることを始めた。
そんなこんなで、トレフエンが鍋をこぼしかけるというトラブルこそあったものの、無事に完成した。
「食べよー!」
パチンッと手を合わせて早くしろと催促するトレフエン。
辺りもちょうど薄暗くなってきており、レーベヴォールは入口付近にランプを掛ける。
「「いただきます」」
バッという音と共に始まる第一次肉争奪戦。
さっきまでの仲睦まじい態度はどこに行ったのやら。
一瞬で険呑な空気に様変わり。トレフエンに至っては親の仇を見る目である。
「ちょーっと譲ってくれてもいいんじゃない?私手伝ったよ?」
「奇遇だな。こっちも色々やったんだよねー。分けるという手段は?」
「なしっ!全部よこせ!」
ガッとレーベヴォールの箸を箸で挟むトレフエン。お行儀が悪い。
第一弾の肉というのはなぜこんなにも争いを産んでしまうのであろうか。
まだ少年少女と呼べる世代だから良いものの、これが中年以降になるとただただ醜いだけである。さっさとお互い譲れ。
「そんなことすんならこっちもやってやんよ」
レーベヴォールは箸で牽制はしつつも、後ろに位置する入口の布に手をかけた。
トレフエンの魔法体系は『エグ』『ウグ』『イグ』『オグ』の順に魔法の練度が上がる。
先ほどトレフエン『エグ』で結界を生成しているので、練度が一番低いものであるため、最低限のものしか阻まない。
つまり、ゴリゴリ雪と暴風が入ってくる。
「貴様自分もろとも死守するかッ!?」
「さよう」
「なぜそこまで肉にこだわるっ!?」
「お前も同じだろうが!」
ギャーギャーと喚くかのような言葉の応報。
しばらく争ったあと、お互いに諦めて仲良く分け合った。
肉は冷めていた。
Day to day!~魔法使いの旅路~ 春猫うつつ @shineko0417
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