【不定期】漫画の感想

川上眞一

『ヒトナー』 作:屋宜知宏

作品はこちら。

https://shonenjumpplus.com/episode/8603475606570879923


以下感想はネタバレを含みます。



 人間社会において擬人化されたケモノの愛好家をケモナーと呼ぶ、その逆の発想で、ケモノ社会において創作上の存在であったヒトが宇宙からやってくるという設定。ヒト以外のキャラクターはケモノから進化した“ケモ”という存在で、突然現れたヒトを「姿形も奇妙だし知能は低いだろう」と思って調べていたら実はそうではなく、自分たちの進化の先にいる存在だということが分かり……といった流れ。


 ざっくり言うと面白かった。アイデアの時点で半分くらいは勝ってるんだけど、絵も流れも分かり易いし、トネリコ報道官は可愛いし、イマドキだなと思った。図解のコマで笑っちゃった。「ヒト01号」ことヒトシさんの手紙で語られた想いが特に良かった。作者はジャンプ本誌で連載していた『アイアンナイト』『レッドスプライト』の人なんですね。お久しぶりです。


 残念だったのは、ケモより優れた存在は認められないとして処刑(作中では「殺処分」)されることが決定したヒトシさんを救うべく報告会で指示と異なる演説をするという山場の部分で、一通り用意してきた説明を終えた後、聴衆から上がった感情的な反論に対してブチ切れた点。雑過ぎるでしょ。正面から理屈で返すなら例えば、ケモの中でも種族はあって、その種族間を超えた愛があるならば「ケモ・ヒト間を超えた愛」との違いはあるのか、異なる部分を認め合い心を通わせることは尊い営みではないか、と投げかけるとか。2ページ弱使えるのだからトネリコの心情をプッシュしても良いし、逆に冷静に「相手が実在し知性と人格を持つことが分かった以上“ヒトナー”という言葉は今後差別用語になる」と価値観の変化を示しても良い。スッキリと勝利したい場面ではあるものの、感情的な相手に感情的にやり返すのはあまりにも、まあ中には荒々しさを好む人もいるかもしれないが、読後感が良いとは言えない。何よりアンサーを用意していないという作品における作りの甘さに見えた。

 ここは大きなマイナスで、無料で読めるから「面白かった」と評したものの、個人的にこれではお金を出そうとは思わないし、購入した漫画雑誌にこれが載っていたらもっと怒ってる。


 山場で雑な解決をした、あるいは想定できる問いにアンサーを用意できなかった、あるいは物語として社会全体の価値観の変化を描けなかったというのは、結局、ヒトが最も優れているという既存の進化論を覆すオリジナルの進化論を創作として用意できなかったことに起因すると思う。「ケモナー」を全く逆にするなら種としての優劣も逆になるわけだし。考慮した結果としてヒト>ケモでも別に良いんだけど、考慮したなら上述くらいの収め方は思いつくのでは。言葉の中で「人」という字が出てくる箇所、「他人」「一人」「人格」等を「他獣」「一獣ひとり」「獣格」と置き換えるだけで良しとするのではなくてね。なので総じて、既に流行っている趣味嗜好をいじったら面白いかも、というだけの作品に思えたし、そこに本作ないし作者の弱さがあると思った。品質以前に方向性がそぐわないため本作が週刊少年ジャンプに載ることはないんだけど、打ち切られた前掲の2作品と比べても、失礼ながら作者はあれから大きく成長したわけではないんだな、と少し残念な気持ちになった。

 絵やコマ割りや話の展開など漫画表現としてはそこいらの新人作家より断然良い(10年選手なので当然ではある)ので、今後もネットユーザーに受けてるネタを少しいじくったらある程度評価されるかもしれないけど、そこに上乗せして新しい何かを生み出さないと一次創作の漫画家としては厳しいんじゃないかな、と思った。

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