正直、そんなに興味ないんだけど
長月瓦礫
正直、そんなに興味ないんだけど
夜空の向こうからだ。炎の花が咲いて、少し遅れてどぉんどぉんと響き渡る。
雲ひとつない澄んだ夜空の向こう、炎の華が開く。
「あーァ……はじまっちゃった……」
私は群衆の中でがくりと膝をついた。足に力が入らない。
行きかう人々は私を避けて高台へ向かう。
そりゃそうだ、花火がよく見える場所に行くよね。
散々走り回っていた私のことを気にもとめない。
「ちょっと、立てる? 大丈夫?」
「無理」
「でしょうね」
夜空の向こう、遠くで輝く火花は祝福だ。
祭り囃子の音色と人々の笑い声で出来た華やかなノイズは、ここにお前の居場所はないと告げている。覆せない現実を突き付けてくる。
「今回もタイムアップね」
魔女が懐中時計取り出し、時間を見ている。
結婚式が始まるまでに城にたどり着けば、私は王子と結婚できる。
しかし、物語はそう簡単にひっくり返らない。
王子はよその令嬢と結ばれ、私は消える。
「ねえ、魔女さん」
「何?」
「マジでお城に行かないとダメ? 正直、そんなに興味ないんだけど」
王子が結婚しようがどうなろうが興味ない。
私は元の世界に戻りたいだけだ。
元の世界に帰るために、私は物語を改変しなければならない。
意味が分からない。
この物語のエンディングを変えるために、私という異端分子が召喚された。
だがしかし、私はこの物語を知らない。
王子様とかどうでもいい。私は元の世界に帰りたい。
神の使いを名乗る魔女は人差し指を立て、左右に振る。
「残念でした、これが終わらないと物語も終わらないから」
「誰が得すんのよ、こんなの」
「知らないわよ、私もそこまで聞かされてないし」
まさか、この物語を書いた作者が黒幕とかそんな落ちじゃないだろうな。
何のために私は走らされているんだ。
「はいはい、また最初からね。来世は頑張ってちょーだい」
思いつく限りの罵詈雑言が消えていく。
花火を写した目から流れる一筋の涙は七色に光りながら地に落ちていく。
私は溶けていくのだと、そう思った。
正直、そんなに興味ないんだけど 長月瓦礫 @debrisbottle00
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