取材記録

@MMM12345

第1話

取材記録 #1


取材日時 6月某日 午後3時


実施場所 コーヒーチェーン


取材対象 20代女性


以下取材記録である


 


ー本日は取材にご協力下さり、ありがとうございます。


「あ、はい、こちらこそ、よろしくお願いします」


先ずは今回取材依頼に応えて下さった女性に対して感謝の言葉を述べる。


ーさっそくですが、先日のメールについて伺ってもよろしいでしょうか?


「………はい」


一瞬女性の表情が曇り、躊躇うような仕草が見られた。


ーメールに書かれていた内容としては"以前の職場で奇妙な経験をした、もし良ければ記事にして欲しい"との事で間違いはありませんか?


「………はい」


先程から目線が泳いでいる、表情もやけに暗い。この段階では内心ガセネタを疑っていた。


ー大丈夫ですか?気分が優れない様でしたら今回の取材は中止にして


「大丈夫です!」


突然の大きな声に驚き、周囲の客から注目を集めてしまう。大声に思考が一瞬飛びかけたが直ぐに周囲の客に軽く頭を下げ、問題無い事をアピールする。


ー分かりました取材は続けさせて頂きます。


「お願いします」


ーでは、メールに書かれていた奇妙な経験についてお聞かせ下さい。


「あれは…」


そこから女性は神妙な面持ちで事件について語りだした。


「あれは以前いた職場での話です」


「小さい子が好きで子供たちと関われる保育士になったんですが、少しブラックで」


現代社会に蔓延るブラック企業、彼女も被害者の一人なのだ。

「保育士の仕事は辞めたんですが、どうしても夢を捨てきれなくて」


「少しでも子供たちと関われる子供用品の販売員になったんです」


ここまでが彼女の略歴であろう


ーその店舗で事件があった、との認識でよろしいですね?


「……はい」


ー具体的にどの様な事があったんでしょうか


「……その日は閉店後にレジの締め作業とか、在庫の確認を先輩としていたんです」


「先輩がレジ作業をして、私が売り場の在庫を確認してました」


ーだいたい何時頃の事か覚えてらっしゃいますか?


「たしか、21時ぐらい、でした」


「それで、売り場を確認の為に回っていたら」


「赤ちゃんの泣き声みたいのが微かに聴こえて」


当然閉店後の店内に赤子なんているわけが無い


「少し怖くなって先輩に泣き声が聞こえなかったか聞いたら」


「先輩は聞こえなかったらしいんです」


ーご自身には聞こえたのに先輩には聞こえなかった、と


「はい」


「それで先輩と聞こえた、聞こえなかったと話してたら」


「さっきよりも明らかに近くで大きな声で泣き声がしたんです」


明らかに異常である

「今度は先輩もはっきり聞こえたらしくて、締め作業とか全部投げ出して店から逃げました」


「次の日、怖くて出勤出来なくて、店を休みました」


ー同じタイミングで泣き声を聞いたであろう先輩も休まれたのですか?


「あ、はい、後で聞いたら先輩も休んでたそうです」


そんな事になれば仕事なんて休みたくなるだろう


「その後先輩と念の為、お祓いに行きました」


「それでも怖くて、行けなくなって、仕事を辞めました」


ーその後は特に何も無く、平穏な日常に戻れましたか?


「えぇ、特に何も起きなくなりました」


当時の事を思い出すのも負担なのだろう、若干震えている


彼女への負担を考慮し、取材を打ち切る事にした


ー分かりました、取材はここまでとさせて頂きます


「……ありがとうございました」


ーありがとうございました


 


取材後記


後日該当する店舗に足を運んで店員に然りげ無く聞き込みをしたり、地域の資料を漁ってみたが特に収穫は無かった。


泣き声の主は一体…?


 


 


ファイル名 赤子

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