siro、しろ、シロ、白(ドルチェリポート消失事件)

和立 初月

ドルチェリポート消失事件

 白は、良い。

 いきなり、何を言っているか分からないだろう。安心してくれ。何より私が一番良く分かっていない。白と聞いて皆様は何を思い浮かべるだろうか。

 雲、とか、白線、だとか? そうそう、白は膨張色とも言われていて、賃貸マンションの多くが白い壁紙を使っているのは、この為だというのは割と有名な話である。

 ちなみに私は「白」と聞いて、今、この小説のようなエッセイのような文字の羅列をつらつらと書き連ねている背景色をイメージした。しかし、悲しいかな。こうしてカタカタと文字をタイプするたびに、「白」が「黒」いインクで塗りつぶされていく。……厳密には、圧倒的に「白」が勝るので、その限りではないけれど。

 つまるところ(白だけに紙詰まりか)、白は清潔の象徴であり、潔白であり、純粋であることの表現であるということを私は言いたいのかもしれない。私の好きな小説(作品名は伏せるが)に、こんな言葉がある。

「白くて、白無垢で、白々しい」。やはり、純粋で潔白だ。そして、白々しい。

 いや、本当にあのラストは良い。「無茶だったかもしれない、無理だったかもしれない。でも、無駄じゃなかった」という主人公の名言もあり、最後のヒロインのあの告白……おっと、告「白」なんて、まさに白無垢じゃないか。彼女の言葉を思えば、なおのこと。白々しさが抜けて、どこか「人間臭さ」が残った(戻った)彼女にとってあれは、大事な通過儀礼だったのだろう。「猫」も「虎」も受け入れた彼女の未来は……いや、もう(誇張ではなく事実として)『概念』の類にまで昇華されたけれども。

「生きているのなら、神様だって殺してみせる」と名台詞を残した、かの御仁に並び立つほどに。(※あくまでも個人的な意見である。)

 さすがに脱線しすぎたので、ここでしっかりとレールを戻しておこう。今回この感想が書きたかったわけじゃない。……我ながら「なんて白々しい奴だ……」とセルフ突っ込みを入れておくのでどうか、大目に見てほしい。間違っても、目の横線を一本取り払って左上の角に斜めにかけるようなことはしないでほしい。そんな事をされたら、文字通り「白目」をむいてしまう。むいてしまうのは明日の方向だけで良い。あるいはリンゴだけで良い。そうしたら、私はそれをウサギの形にして、皆さんに食べさせる準備がある。

 堂々巡りもこれくらいにして、と。ようやっと本題に入れそうだ。落ち着け、中の人。どうどう。これが言いたかった。白目をむくような出来事が先日あったから、ここに記しておくんだった。備忘録のように。

 先に公開したように、ドルチェリポートにかける思いと感謝が本気であったことは、皆様によく伝わったと思うのだけれど。それ故に起きた事件をここに公開する。

 先日、とある作品のドルチェリポートを書こうと思い立ち、レシピ通りに書き進めていった。確か八百字程度書き進めた頃だっただろうか。

 小休止を挟もうと思い、YouTubeで好きなアーティストのMVでも見ようと、タブを切り替えようとしたその時! 事件は起こった。その時書いていた、ドルチェリポートのタブが保存されないまま、閉じられてしまったのである!

 急いでカクヨムのページを開き直し、編集中の画面を開こうとして……できなかった。立つ鳥跡を濁さず。逃走経路不明、痕跡なし。

 犯人は、一切の痕跡を残さずして、「ドルチェリポート」を盗んでいった……。

 こまめに保存ボタンを押していなかった私にも確かに非はある。何かの間違いであってくれと願いながら、必死に復元できないか色々と試みた。否、心(の目で)見た。が、しかし。

 そこに残るのは、圧倒的な白さ。驚くほどの白さ。冒頭に書いたように、膨張色でもある白がどんどんと無限に膨張していく中、私はその真ん中にぽつーんと取り残されていた。……いや、今自分が立っている場所が、真ん中か否かすらも曖昧だった。

 孤独は感じない。元より、PCの前でカタカタと地味な音を立てながらドルチェリポートを仕上げている時間に比べれば、そんなもの孤独ではない。

 この時、脳内では緊急速報が繰り返し流されていた。それまで頭の中でイメージしていたドルチェリポートが一瞬で白紙に戻り、代わりに差し込まれたのはニュース番組の映像だった。

「緊急ニュースをお伝えします。つい先ほど、小説投稿サイト『カクヨム』内におきまして、ドルチェリポートを執筆中のドルチェさん(36歳男性)が小休止を入れようと、YouTubeのタブを開こうとした瞬間、何者かによってそのタブが閉じられるという事件が発生しました。事件発生直後に異常に気づいたドルチェさんは、すぐさま復旧を試みたとのことですが、今もなお書きかけのドルチェリポートは返ってきておりません。

 犯人は現在も見つかっておりません。現場には監視カメラ等も設置されておらず、執筆者であるドルチェさんは今も頭を抱えているとのことです。

 なお犯人には、「きちんと謝罪してくれれば、それで良い」とのことで被害届は出さない意向とのことです。繰り返します……」

 絶望の二文字が頭をよぎった。たかが八百字、されど八百字。望みは絶たれたと思った……皮肉にも「絶」の文字に「色」が入っているなんて……。白が望みを絶つ色だったなんて知る由もなかった……。(勿論、決してそんなことはないと、一応書き添えておく。

 そうして、しばらく(約十五分程)現実逃避と、犯人捜しを続けたものの、結局残るのは、空白だった。いや、白空と言うべきだろうか。仰ぐ空は、果てしなく白い。

 ただ、どうしても許せなかった。犯人も勿論だが、放心状態のまま書きかけから白紙に戻ってしまったドルチェリポートをそのままにして、作者様に何もお伝えしない自分が。今こそ、ドルチェリポートが真価を発揮するべき時なんじゃないのか。

 そこからは、もう迷わなかった。レシピを見直しながら、一文字目からドルチェリポートを再構築した。

 八百字を超えたあたりで、内なる自分とハイタッチを交わしてから、思いの丈を書き連ねていった。最終的に、千五百字を超えるドルチェリポートが完成した。「絶」たれたと思った色から、わずかな糸を手繰り寄せ、それが結実した瞬間だった。

 無我夢中で書き上げたレビューは無事に作者様の元へと届き、「ユーモア満載で読み物としても面白いのでレビューだけでも是非読んでくれ」「レビューから文才が溢れ出て隠しきれていなかった」という旨のメッセージを頂戴した時、私は涙を流した。頭が真っ白になったあの時、もし書くことを途中で投げ出していたら。こんな素敵なメッセージを頂戴することはできなかった。

 今後も誰の作品に対しても、思いは変わらずにドルチェリポートに全力を注ぐことを、もう何度目か分からないほどに宣言する。

 かくして、この度のドルチェリポート消失事件は、最幸の結果を残して、閉じられることになった。

 それはそれとして。この事件の犯人は未だに発見されていない。

 今回はオチらしいオチがないので、事件発生までの経緯を最後に軽くおさらいしていこうと思う。

 ・事件発生時、私はカクヨムの画面を開き、ドルチェリポートを執筆していた。

 ・小休止を取ろうと思い、マウスカーソルを動かし

 (カクヨムのタブの×と空のタブの絶妙な隙間位をクリックしたと思う。)

 ・その後、YouTubeを開こうと新しいタブをクリックした

 ・その時には、カクヨムのタブが消えていた。

 顛末としては、実にシンプルである。webブラウザという(厳密にはワールドワイドだが)密室で行われた、ドルチェリポート消失事件。犯人は一体誰なのか? 

 マウスカーソルの挙動がその時だけおかしくなって、カクヨムのタブの×ボタンをクリックした? あるいは、何かしら未知の力が働いて、カクヨムのタブの×ボタンをクリックした?

 ミステリーのお約束(ノックスの十戒)に則るならば、犯人は冒頭で登場していなければいけないが……。さらに言えば、未知の力(超自然的な力)というのも、十戒の縛りに抵触する。

 ここまで、起きた事実のみを思い出しながら綴ってきたものの、私自身未だ犯人の手掛かりすら、足取りすら掴めていない。文字通り、手も足も出ない。

 これを読んだあなた。このドルチェリポート消失事件の犯人は一体誰なのか? 是非とも皆さんの名推理を伺ってみたいものだ。

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siro、しろ、シロ、白(ドルチェリポート消失事件) 和立 初月 @dolce2411

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