短編小説「吹雪」
白鷹いず
第一章 「吹雪」オリジナルバージョン
北海道の冬の寒さは厳しい。今日も朝から粉雪が強風に煽られて蔓延し猛吹雪と化していた。こんな休日には人々は家に閉じこもっているのだろう。町中には人っ子一人出歩く者はいない。と思いきや、よほど大切な用事でもあるのだろうか、毛糸のマフラーを三重に顔半分まで巻いて毛糸の帽子を深々と被った少年が1人、雪まみれになった凍える体を引きずる様にして歩いていた。
彼の名は本庄信夫。近くの公立中学に通う2年生。彼は明日の月曜日に提出する数学の宿題のプリントを学校に置き忘れていた事に昨日の夜遅くに気付いた。今日は昼過ぎまで待ったのだが吹雪が止む気配はまるでなく、天気予報によると今夜遅くまで荒れるらしい。信夫は仕方なく猛吹雪の中、片道徒歩30分の道のりを学校まで取りに行って来た、その帰りだった。
昨日の夜、プリントを忘れた事を信夫はラインで愚痴っていた。するともう1人、クラスメートの早坂健二も信夫同様プリントを忘れていた事を告白していた。2人はラインで級友たちに同情されあるいはツッコまれて、面白おかしく話のネタにされて盛り上がったのだ。
結局プリントを置き忘れたのは信夫と健二の2人だけだった。2人は仕方なく学校まで取りに行く事にしたのだ。こんな吹雪の荒れる日曜日に学校へ出向く輩はこの2人以外いなかったに違いない。
信夫が息せき切って歩いていると遥か前の方から近づいて来る人影に気付いた。吹雪に遮られ見通しの悪い視界の先を目を凝らして見つめる。信夫と同様に雪のまとわりついたマフラーと帽子を身につけて歩いて来たのは健二だった。
猛吹雪の中ですれ違い様、歩を止める事もしないで健二が話しかけて来た。
「どさ」
「えさ」
信夫はマフラーと帽子の間から覗いている目を細めて答えた。
お互い数学は大の苦手。このプリントを明日の期限までに提出しないと成績が相当まずいことになる崖っぷちである。
少し歩いてから信夫はふと立ち止まって振り返った。学校へ向かう健二の後ろ姿に悲壮感と共にどこか哀愁が漂っている気がした。
信夫は前へ向き直り、わずかに覗いている目の回りに吹き付ける粉雪に目を細めながら再び家路を急ぐのであった。
頑張れ信夫!負けるな健二!
荒れ狂う吹雪が、千尋の谷に我が子を突き落とすライオンのごとくに2人を叱咤激励しているかのようであった。
●
第二章 「吹雪」リアル発声バージョン
北海道の冬の寒さは厳しい。今日も朝から粉雪が強風に煽られて蔓延し猛吹雪と化していた。こんな休日には人々は家に閉じこもっているのだろう。
(中略)
信夫と同様に雪のまとわりついたマフラーと帽子を身につけて歩いて来たのは健二だった。
猛吹雪の中ですれ違い様、歩を止める事もしないで健二が話しかけて来た。
「どぉっさ(何処さ行ぐ?)」
「ぃえっさ(家さ帰る(えさけぇる))」
信夫はマフラーと帽子の間から覗いている目を細めて答えた。
お互い数学は大の苦手。このプリントを明日の期限までに提出しないと成績が相当まずいことになる崖っぷちである。
(中略)
頑張れ信夫!負けるな健二!
荒れ狂う吹雪が、千尋の谷に我が子を突き落とすライオンのごとくに2人を叱咤激励しているかのようであった。
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第三章 「吹雪」会話解説バージョン
(前半省略)
「どさ(どこへ行くんだ?プリントはもう取って来たのかよ?)」
「えさ(うん、それで今学校から戻って来て家に帰る所だよ)」
(後半省略)
短編小説「吹雪」 END
短編小説「吹雪」 白鷹いず @whitefalcon
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