お心当たりの方は

尾八原ジュージ

お心当たりの方は

 うちのばあちゃん、昔っから「銀行は信用できない」っつって、所謂タンス預金派だったんだよな。一人暮らしのくせにそういう話をよそで普通にするもんだから、とうとう強盗が入ってさ。ばあちゃん、殺されちゃったんだよね。

 そんで、それからばあちゃんの家に幽霊が出るようになった。でもそれ、ばあちゃんの幽霊っぽくないんだよな。しわしわのおばあちゃんじゃなくて、五歳くらいのちっちゃい女の子に見えるの。袖の膨らんだ半袖のワンピース着てさ、頭にリボンなんかつけて。裸足でペタペタペタペタって家中走り回るんだよ。

 うん、おれも見た――てか親戚とか近所のひととか、ほぼ全員が見たんだよね。この辺り、自分ちで葬式あげる家が多いからさ。

 よりによって、座敷でお寺さんが御経唱えてるときにだよ。どこから出てきたのかな、女の子がお寺さんのすぐ後ろをこう、ケラケラ笑いながら右から左に走り抜けて、障子のすぐ手前でパッと消えたんだ。もうほんとハッキリ見えてさ、パニックだよ。泡ふいて倒れちゃった人もいたくらい。

 最初はおれ、「もしかしてばあちゃん、自分が子供だった頃の姿で出てきてるんかな?」って思ったんだよね。ばあちゃんの子どもの頃の写真がないから確かめようがないんだけど……まぁでも、似てないんだよな。うちの系統の顔じゃないんだよ、その子。でも、ばあちゃんが死んだ後から出てきた幽霊だからさ、なんか関係あるだろうなって思ってた。

 したらさ、葬式終わった次の日に、近所の奥さんが逮捕されたの。そう、葬式んとき泡ふいて倒れたおばさん。

 ばあちゃん殺したの、そのおばさんだったんだよね。

 その人、スロットに嵌ってだんだんブレーキ効かなくなって、あっちこっちに借金拵えて首が回らなくなってさ。いよいよ追いつめられて、ばあちゃん家に金あるのはわかってるから盗ろうとしたんだと――そしたらあの葬式のとき、子どもの頃の自分と瓜二つのものが座敷をばーっと走っていったんで、びっくりして倒れたらしいわ。

 あの時の子どもの姿見て、高笑いを聞いて、もう逃げられないと思って自首したんだと。

 いやさ、ばあちゃん、なんでそんな回りくどいやり方で告発しようとしたんかね。そもそもあれはばあちゃんだったのかな……おれにはもう、よくわからんけど。

 幽霊なぁ。その後もしばらく出てたんだけど、最近ようやく出なくなったね。なんでも刑務所に入ってた犯人が、自分の手首噛み切って自殺したって――いや、噂だけどね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

お心当たりの方は 尾八原ジュージ @zi-yon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ