蔵とネズミ

朽木桜斎

2月某日、総理官邸執務室にて

「この法案が可決されたあかつきには、国民からしぼり取れる税金の額面が十倍二十倍いや百倍になることは自明ですな」


 自明党総裁にしてときの内閣総理大臣・瓦星かわらぼしゲンバーは、コウモリのような顔をつりあげてケタケタと笑った。


「素敵~っ!」


 掃除のおばちゃんがすみっこのほうでキャッキャと叫ぶ。


「おい、おばちゃん! いまは大事な会議中だ! 機密情報を盗み聞きしたらいかんよ!」


 法務大臣・赤羅あからサマーが唾を吹く。


「は~い」


 おばちゃんはドアを開け、はけていった。


「国民の立場からすれば深刻な事態ですがね、わはは!」


「申告だけに~っ!」


「まだいたのか! さっさと出てけ!」


「は~い」


 官房長官・浪速銀平なにわ ぎんぺいがほくそえむ。


「チョキ券の件はうまくうやむやにしましょう。のちの選挙のためにもね」


「わるい~っ!」


「だから出てけってば!」


「は~い」


 三人は引き続き談話を続ける。


「しかしまさか、われわれが検察と結託しているとは、たとえ天でも気づきはしないでしょう」


「それでそれで~!?」


「わざとやってるだろ! 誰かつまみ出せ!」


「ちぇ~」


 瓦星総理は耳をひくひくとさせた。


「ついでに言えば、警察とも結託していますからな」


「うそぉ~っ!?」


「だから盗み聞きするな! 始末するぞ!」


「始末書だけに~?」


「うまいこと言ったつもりか!」


「幹事長はウマヅラだけどね~」


「だからうまいこと……おほん!」


「花粉症? イソギンあげる~」


「いらんわボケが!」


「いつもボケたふりしてるクセにぃ」


「いったいなんなんだ、あんたは! SPはどうした!?」


「記憶にございませ~ん!」


「うるさい黙れ!」


「さっきの話~、もうちょいくわしくぅ」


「ああもう、キックバックはルックバックだったってこと!」


「おもしろ~い!」


「騒ぐな! 外に聞こえるだろ!」


「ケンシもタツキも喜ぶ~!」


「だからうまいことを言うな!」


「それでそれで~?」


「要するにみんな結託してるってこと!」


「ふわ~お!」


「どこおさえてんだバカ!」


 やっとのことで黒服たちが乗りこんできた。


「阪神優勝おめ~っ!」


「胴上げじゃねえんだぞ!」


 かくしておばちゃんは強制退場させられた。


「ふう、まったく。あれが国民の縮図ですな、ははは!」


「うける~っ!」


「消えろ!」


 数日後、お食事券の汚職事件が世間に発覚し、内閣をしめる大臣の首がごっそりと入れかわったのである。


「楽し~い!」


(終わり)


※この物語はフィクションであり、特定の人物や団体などとはいっさい関係がありません。


作中BGM


「常動曲」 ヨハン・シュトラウス2世


おすすめ音源


ヘルベルト・フォン・カラヤン(指揮)

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団


https://www.youtube.com/watch?v=0UmXfKUeAbE

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蔵とネズミ 朽木桜斎 @Ohsai_Kuchiki

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