第54話 地雷系少女から逃げ切れ③

 髪を切った後、僕は竜胆にファミレスへと連れ込まれた。


「何にしようかなぁ」


 タブレットを操作する竜胆。


 傍目からはカップルのように見えるだろうが、実際のところは、加害者と被害者の関係だ。


「春一は何にする~?」

「いや、僕は腹いっぱいだから」

「そうなの? でも、なんか食べといた方がいいよ?」


 竜胆はショートカットの金髪を弄りながら、ニタァと嗤う。



 やっぱりこいつは……危険だ。


「ちょっとトイレ――」


 席を立とうとしたところで、腕を摑まれた。


「まだ我慢できるでしょ?」

「……」


 彼女の眼は炯々としている。


 瞳の濁り方があまりにも異様に映り、僕は革ソファに留まることを余儀なくされた。


「今はデート中だから♡ 女の子の言うことは聞かなきゃだめだぞ♡」

「お、おう」


 声はきゃぴきゃぴしているんだが……。


 竜胆が悪魔のように見えたのは、やはり過去の経験からだろうか。


 彼女の邪悪な視線に釘付けにされていると、ずんぐりむっくりしたロボットが注文した商品を持ってきた。


「あ、来た来た。じゃ、しばらく食べるとこ見てて♡」


 ミートドリア(680円)をスプーンで掬うと、竜胆は無表情でそれを掻き回し始める。



 グッチャ、グッチャ、グチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャ――。



「……竜胆?」

「うるさい、黙って見てろ」


 何度も何度もドリアを掻き混ぜる彼女は、狂気に取り憑かれているようにしか見えない。


 こわいんですけど……。この人……。


 ドリアから目を逸らし、時間をやり過ごすことに決める。


 すると、竜胆が徐に口を開いた。


「本当はね、全員をやりたいの」


 意味不明な言葉だが、僕はそれに口を挟まない。


 というか、挟みたくなかった。


「このドリアはね。春一であり、お母さんであり、君の周りに群がる有象無象の女なんだよ♡」


 ミートソースのかかったドリアは、いつの間にか白と茶が均一に混ざった色となっていた。


「でも、君がそれを阻止した。許せないよねぇ」


 その言葉が発せられた刹那のこと。


 竜胆はミートドリアの入った皿の底を、力任せにスプーンで叩いた。


 ガキンッ――!


「ひっ!」


 凄まじい音だが、ここはあくまでもの中だ。


 店員は様子すら窺わないし、他の客もそれを気にすることはなかった。


「水杷、天津と来て、次は結城さくらってわけよね」

「な、何が?」

「白々しいわね。そんなの決まってるでしょ? よ。こ、う、りゃ、く」


 竜胆の顔をふと見やる。


 すると、彼女がいつしか微笑を浮かべていた。


 そして、彼女はまたニタァと嗤い、言う。


「させない。私がこのゲームを


 はっきりとそう宣言した彼女は、米の塊と貸したドリアに口を付けた――

 

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エンドレス⇄スノウ†地雷系ヤンデレ少女から逃げ切れ† 志熊准(烏丸チカ) @shigmaya

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