入学式が終わって。
入学式。
俺は、その市内の難関高校に難なく入学を決めることが出来た。合格通知をネットで見るなんて、やはり時代は移り変わるものだと思ってしまう。高校生が何言ってんだって話かも知れないが。
入学式は滞りなく終わり、すでに時間は12時。廊下を歩く。流石に一日で一緒に帰る友達など作れそうもなかったため、今日は一人ぼっちで帰ることが確定している。
背伸びをして今日一日を振り返るが、兎に角先生の話が長かった。マジで校長の話が長くて薄っぺらいとは思わなんだ。俺でも作れるような原稿の内容をペラペラと喋りやがって。10分以上喋るとか頭おかしいんじゃねぇの?
あと、ついでに言えばクラスに知り合いなど1人もいなかった。そもそも同じ学校に知り合いが来ているかどうかも確認していない。
それほどに難関高校なのだ。友達と一緒にいくとか、考えたくもなかった。どっちか落ちるフラグでしょうよ、それ。
階段を降り、指の消毒を済ませた俺。そこで、俺の肩を叩く人物がいた。なんだろうか、と振り向くと……。
受験日。駅で受験票を拾ってあげたあの女が、俺のハンカチを持ってそこに立っていた。
「これ、落としまし……あ」
「あ」
「……」
「……」
「なんか言ってよ、遠藤くん」
「なんで名前知ってるんですか雛形さん」
「ハンカチに名前書いてあるし。遠藤晴翔って。」
「成程」
俺は、まるで何かを閃いたようにグーにした手の横の部分を、パーにした手のひらに打ち付ける。
「ねぇねぇ、遠藤君」
「なんでございましょう」
「何かの縁だし、一緒に帰らない?」
「そいつぁ僥倖」
「ウンかハイで答えて?」
「イエス」
呆れたように頭を振る雛形さん。
俺は、自分のギャグセンの低さに思い悩み、そもそもギャグセンとは何なのか。と言うことを考えながら駅のホームへと向かうことになる。
ところで女の子と2人きりになった時に何を話せばいいと思う? 尚、その女の子は一緒に帰ろうとか言う距離の詰めかたをしてきたくせには自分から喋り出さない、クソ可愛い女の子であるとする。
意味わかんねぇよこの問題。陰キャわかるはずもないこのアンサー。もちろん俺の持っている答えは『わからない』だ。
静かな市内の駅。何故市内だと言うのにこれ程静かなのかは分からないが、もしかしたら丁度電車が去ってしまったタイミングだったのかも知れない。それでも流石に静かすぎるだろ。喧騒があってもらっちゃ困るが人ぐらいたくさんいて貰わにゃ困る。
会話の糸口が全く見つからん。そもそも雛形さんと同じクラスですら無いんやぞ。受験の日に受験票が落ちそうなのを拾ったぐらいが俺と彼女の関係性。いや……かなり運命的な出会いしてんな。普通はしねえよこんな出会い方。
「ねぇ、遠藤くん」
「あ、なんでございましょ」
「ありがとう」
「何が?」
喋り出してくれるとは思ってなかった。ここ3分ぐらいずっと無言で歩き続けてたからね。南無。
実は、本当は何もかも分かっています。っつか、相手から話しかけられるってこんなに嬉しいことなんだな。どんだけ陰キャなんだよ陰キャは陰キャしてろよ陰キャ。卑屈ってわけじゃないけど目の前の女の子可愛すぎてもう無理。どうやって卑屈になるな言うねんな……。EGUITE……。
「受験票、見つけてくれた時さ。ちゃんとお礼言えてなかった気がしたから」
「え、そうだっけ?」
「そうだよ、多分」
「言ってた気がするけど、その感謝を真っ向から受け止めよう」
「どういたしまして?」
「どういたしまして」
これ雛形さんも会話の糸口無さすぎて困ってたやつやんな。一旦お礼言っとくかの精神? それにしても気まずい。お礼言われてハイになってる暇なんて無いのだ。そんな暇があれば雛形姫を喜ばせろってんだ。
俺は一体、彼女にとってどう言う位置にいるんだろうか。正直言って、今のお礼ぐらいならいつでも出来ただろうに。一緒に帰ろうとした理由は……? まぁ、陽キャなら素でやるか。この人男たらしっぽいもんな。可愛いし。
「雛形さん」
「え?」
「俺を誘った理由をアンサープリーズ」
「え、一緒に帰ろうって?」
「そそ」
「仲良くなりたかったから?」
「眩しい」
「えぇっ!?」
随分と大仰に驚かれてしまった。眩しいとか言って大仰に驚くんじゃなかった。言葉のスケールは俺の勝ちだが動きのスケールは雛形さんの勝ちだな。
……って、何を争ってんだ俺は。
陰キャラ男子の青春白書〜見知らぬ美少女の受験票を拾ったら、接点ができたようです〜 元気百倍ガッツ仮面 @aomaru000
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