陰キャラ男子の青春白書〜見知らぬ美少女の受験票を拾ったら、接点ができたようです〜
元気百倍ガッツ仮面
受験票。
とある日。駅のホームで縮こまっている俺が一人。
今日は高校受験の日。難関学校がある市内に向けた電車はまだ訪れる気配がない。
受験日が冬のせいで冷気が立ち込めているそこには、ほとんど熱気がない。暖を取ろうと手を擦って、息を手に吐きかけるけれども、小さな熱に過ぎない。
やっぱり冬に受験をさせるのは間違いなんじゃないかと思う。来年の夏でいいって。春を入学式にしてるせいで冬に受験せざるを得ない俺たちを不憫に思って欲しい。
公立もそりゃ、最低限の人数は必要だろうが、多くの人材は欲していない。欲するのは、金の亡者。私立。いや、これだと私立の先生方が金の亡者みたいか。多分人類全員金の亡者だとは思うけど。
「うぉぁ、ぁ……さぶぅ」
そんな事考える暇あるなら勉強しろって? 本当に俺もそう思う。だけど緊張するんだ。昨日は九時には寝たし、朝も六時頃に起きて、相当な睡眠をとったのに眠く感じるし。日頃の勉強の成果を、最近感じられることがなかったからこそ……すっごい不安なんだ。
塾の先生はいけるとしか言わないし。NPCか。
お母さんもいけるとしか言わない。俺の周りにはNPCしかおらんのかこんちくしょう。行けるっていう言葉は安易に発されても困るんだよ。行けなかったらどうするんだよマジ。
俺の受ける難関高校って、倍率三倍なんだけど普通にやめて欲しいです。今年から公立の受験制度が変わった、とかいうから期待してたのに去年より倍率あがってんじゃん。倍率低いから受かりやすくなる、とかはそんな無いかも知れないけれども。それでも倍率低いの見てから安心したいじゃん?
まぁ、塾模試でもA判定出てたから大丈夫だとは思うんだけど……。
A判定という事実と、その難関高の過去問の難しさを繰り返し思い出し、頭を抱える。
そんなことを繰り返していたその時、電車が訪れるアナウンスが流れる。黄色い線より前に行かないように……というモノ。それに従う前に、そもそも黄色い線より前にいく物好きなどクラスの剽軽者ぐらいだろう。
耳は赤く、より一層この辺の空気は冷え込んでいく。
その最中、俺の足に何かが擦れた。
その何かは、俺の足に触れた後に線路の方向に向けて、風を受け入れて流れていく。
それを掴んだ俺は、目に皺を寄せてそれを目に近づけた。
「……受験票?」
その受験票には、雛形莉乃という名前が記されていた。そして、もちろん受験番号も。
こんな日に受験票を落とすなんて、なんとも不吉な出来事だと感じた。自分が落としたわけじゃないのに。
周りを見回すが、特に探し物をしている中学三年生らしい人物は見つけられない。
椅子に座っているおじさん。ついでのおばさん。探し物をしている高校生。空を見上げた世界を達観したようなおにいさん……。
探し物をしている高校生……?
「……えっと。すみません、これ落としました?」
身長は見た感じ高め、正直言って遠くから見たら高校生にしか見えなかったが、近くで見てみたら中学三年生にも見えなくはない。学校の制服を着ていくため、その制服が問題だったのだろうか。
身長としては、パッと見俺と同じぐらい。168cmが俺の身長であり、ほぼ高一だとしても女子にしては高い身長のように思える。
ま、意外と俺より身長高い女子なんてザラに居るけどね? 彼女ら全く気づかずに俺のメンタル破壊してきてるんだよね。これは夜更かしして放置少女やったせいだと思いますけど。
俺が話しかけた相手は、ゆっくりとこちらを振り返って、その受験票に目を向ける。
「……うぁぁ! あった!!」
「あ、ハイ。ありましたね」
「どうもありがとうございます!」
「どいたまです」
別に俺は初対面の相手に対してのコミュニケーションが上手なわけじゃない。だから、少し挙動がおかしくなってしまった。
俺のコミュニケーション能力が低いのもそうなんだけど、目の前の同級生は余りにも可愛いすぎた。
栗色のショートボブの髪。栗色という表現が正しいのかは定かじゃないけれども、太陽に照らされて茶色に近い色だということが分かる。そして、二重で長いまつ毛。お母さんから俺のまつ毛が長いということを何度も何度も聞かされたことがあるが、恐らく俺のまつ毛よりは長い……と思う。鼻はそこまで高くないが、シュッとしている。日本人の理想の鼻とも言えるだろう。知らんけど。口は……うん。可愛い。
駅が同じだという事は、もしかして家が近いのだろうか。中学校が同じである可能性はゼロに等しいと考えられるため、中学校はこの辺じゃないんだろう。電車通学だろうか? この辺から市内に向かうのを、中学校の頃から繰り返しているのかも知れない。
聞いてみようか、と口が開きかけるたびに、緊張して体が動かなくなる。先ほどの会話の時から距離は変わっていないため、今現状ものすごく気不味い。
話しかけようかと思って、彼女の顔を見るとバッチリ目が合ってしまった。気まずさ爆発。視線を外すことができなけりゃ、緊張を解くことも出来ない。
「……えっと、私の顔何かついてますか?」
「や、付いてません。俺の顔はどうっすか?」
「あ、いやいや。付いてませんよ」
「うす」
なんだよこれ。いつも通りの会話ができねぇ。友達との会話までとは行かんが、先生との会話ぐらいは行けるだろう。と踏んでいたのに。目を逸らすが、前を向いていても彼女がずっと俺のことを見続けているということは察知できる。物凄く離れたい。いつもならもっと話したいと考える俺だが、受験の緊張と相まって、汗が物凄いことになっている。
「……えと、雛形さんは今日受験っすよね?」
「何で名前知ってるんですか!?」
「受験票です」
「あぁ成程……。はい、私は今日受験ですよ」
「成程。俺も受験なんですよね。お互い頑張りましょう」
「はいっ」
この辺が会話の落とし所な気がしてきた。
それじゃ、と俺が半ば強引に会話の流れを断ち切ることになった。少し勿体無いような気もするが、そもそも今日は受験日。
そうだよ受験日だよ。何可愛い女の子に現を抜かしてんだよふざけんな俺。何が勿体無いんだよ言ってみろクソ野郎。
アナウンスから2分ほど経った今。やっと電車はホームへと舞い込んだ。無限に感じた時間も、2分ほどでしかなかったのだ。本当に、異性との会話というものは恐ろしい。
俺は電車に乗り込んで、試験会場までの道地を特に何もなく過ごした。
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