第13話 今後の予定
「――ということで、しばらく北海道にいるわ。すまんな」
空港のロビー。変装し、茶髪にサングラスを掛けた陽介は、タブレットの向こう側にいる一花と絵麻に事情を説明した。
「えーずるい! あたしも行きたい!」
「残念。もう北海道」
「はやっ」
「早い時間の飛行機しか無かったから」
「はぁ~。陽介の親が羨ましいわ」
「親はいないから、爺ちゃんの提案なんだけど」
「え、あ、ごめん」
「大丈夫」
陽介は慣れているので、気にする素振りを見せなかったが、一花と絵麻は戸惑っていた。だから、一花が慌てて言う。
「と、とにかく、陽介は良いな~。あたしなんて、しばらく外出禁止って言われたんだから。ムカつくわぁ。あたしは何も悪いことしていないのに。しかも、なぜか怒られるし」
一花は画面越しでもわかるほど、イライラしていた。
「それくらい大事に思われているってことなんじゃないの?」と陽介。
「そ、そうだよ」と絵麻も頷く。
「……でも、ムカつくわぁ」
「それくらい一花のことが心配なんだよ。明美ちゃんとかからも連絡来たし。一花も来たでしょ?」
「……まぇね」
「明美ちゃん?」
「うん。私と一花の友達」
「なるほど」
「でも、それはそれで、たくさん連絡が来たから、大変なんだよね」と一花は気怠そうに答える。
「逆に陽介は称賛の連絡がたくさん来たんじゃないの?」
「……ぼちぼちな」と陽介は適当に答える。
実のところ、陽介は学校に友達がいない。学校以外で勉強したくないので、休み時間に宿題や予習・復習などを全部終わらせるようにした結果、クラスメイトと会話する時間が無くなり、ぼっち街道を進むことになった。
ゆえに、これ以上、この話題になることを快く思わなかった陽介は、話題を変えることにした。
「絵麻さんは、親御さんとかから何か反応があった?」
「連絡は来た。で、私もお母さんにちょっと怒られた」
「へぇ。何で?」
「一花ちゃんはとても可愛いんだから、あんたがちゃんとそばにいてあげなさいって」
一花の眉がぴくりと動く。
「……ふーん。絵麻のお母さんはそんなこと言っていたんだ」
「うん」
陽介は一花を眺め、考える。先ほどの反応で、ある仮説が浮かんだので、試してみることにした。
「そういえば、空港のロビーでたまたま若い女性二人組の話が聞こえてきたんだけど、一花のことで盛り上がっていたよ」
「え、何で?」
「めちゃくちゃ可愛いって言ってた。襲われるのが理解できるほどの可愛さらしいよ」
「……へぇ」
一花の口元がにやつき始め、それで思い出したように絵麻が言う。
「そういえば、一花は私たちのチャンネルを見た?」
「ん? 見てないけど」
「登録者数が増えていたよ。それに、新しいコメントもいっぱい来てた」
「そうなの?」
一花はスマホを取り出して、自分のチャンネルを確認し始めた。そして――その顔に喜色が滲みだす。
「……陽介はさぁ、今回の件で登録者増えたの?」
「ん? ああ。10万人くらいになってた」
「ふーん。あたしたちは、50万」
「え、すごっ」
「でしょ」
一花はさらにコメントなども眺め、ご機嫌な様子でスマホを置いた。
「いやぁ、まぁ、考えてみたら、今回の件は可愛すぎるあたしにも問題あったよね。これからは気をつけないと。ほら、あたし、すごい可愛いからさ」
「……そうだな」
陽介は苦笑する。いろいろ思うところはあるが、一花の調子が戻ったようなので、余計なことは言わないことにした。
「明美ちゃんも心配していたよ」と絵麻
「それで」と話しを続ける。
「これからどうする?」
「これから?」
「ああ。俺たちは、ランク戦に参加するためにパーティーを組んだわけだから、とりあえず、参入戦に出た方が良いと思うんだよね」
「そうね」
「で、いつ、どの参入戦に参加するかを早くから決めた方が良いと思った。目標によって動き方も変わるだろうし」
「確かに。じゃあ、ちょっと見てみようか。画面を共有するね」
一花が操作して、画面に参入戦のページが表示された。
「直近だと、八月末、つまり、約一か月後に、岩手、東京、岐阜、徳島、熊本で開催されるみたいね」
参入戦は毎年計四回(春・夏・秋・冬)、五つの区域(北部、東部、中部、西部、南部)で開催される。参加区域に規制は無く、好きな場所で参加できるが、各回一回しか参加することができなかった。
開催スケジュールを眺めながら、一花が言う。
「どうする? 早速、東京のやつに参加してみる。まだ受け付けているみたいだし」
「いいね。俺は賛成」
「私は皆が賛成なら賛成」
「でも、八月末ってことは、夏休みがほとんどこれの準備に向けて使われることになりそうだけど、絵麻も陽介もその辺のところは大丈夫?」
「俺は問題ない」
「私は途中で帰省する……って思ったけど、今帰れば、いいか。二人ともダンジョンには行けない状態だろうし」
「え、絵麻もあたしをおいていくの?」
「あ、いや、そういうわけじゃなくて」
「なーんてね、冗談だよ」
「もう。本気で焦ったじゃん」
「ごめんごめん。でも、ありがとう。絵麻があたしたちに予定を合わせてくれるなら、余裕をもって準備はできそうだね。じゃあ、参加しようか。で、東京の詳しい会場はというと……『練馬ダンジョン』みたいだね」
画面に『練馬ダンジョン』に関する情報が表示される。
==============================
迷宮名称 | 練馬ダンジョン
迷宮形態 | 洞窟型
迷宮等級 | E
迷宮階数 | 地下1階-地下5階
迷宮特性 | 自動変化
出現魔物 | スライム(F)、メイキュウコウモリ(F)、ゴブリン(F+)、グリーンスライム(E)、ミドルゴブリン(E)、マッドゴーレム(E+)
==============================
それらの情報を眺め、陽介は語る。
「『洞窟型』ってことは、『八王子ダンジョン』とほぼ同じダンジョンってことだよな?」
「そうね」と一花。
「でも、迷宮特性が『自動変化』なのは厄介ね」
「確かに……」
と答えつつ、陽介は素早く迷宮特性の『自動変化』について確認した。自動変化は一定時間人の入構が無かった場合、各フロアの構造が自動で変化するという特性だった。だから、既存の地図は無意味なものとなり、自力で道を探しながら進む必要がある。
「でも、あたしたちには絵麻がいるから、大丈夫! ね、絵麻?」
「う、うん」
「へぇ。何で?」
「にしし。それはお楽しみってことで」
「……わかった」
「モンスターについてはどうかしら? カッコ内のランクは、そのモンスターの危険度を示しているみたいだけど。ちなみに、あたしも絵麻もFならプラスも含め余裕で倒せる」
「俺も問題なく倒せる。Eのモンスターについては、まだ戦っていないからわからん」
「そっか。なら、一回は『練馬ダンジョン』に行って、確かめておきたいね」
「そうだな」
「じゃあ、次はルールを確認しよう!」
画面は『参入戦のルール』に遷移する。
==============================
参入戦基本ルール
大会方式 : タイムアタック
▼パーティーの人数について
・パーティーメンバーは5名までとする。
▼ゴールについて
・最深部である地下5階にパーティーメンバーの少なくとも一人が到着した時点でゴールとする。
・ゴールした者が属するパーティーに報酬ポイントを付与する(ポイントの内訳は後述)。
・ゴール後は他メンバーも含め速やかにダンジョンから出なければならない。
▼戦闘ボーナスについて
・道中で倒したモンスターの数および種類に応じて、パーティーに戦闘ボーナスポイントを付与する(ポイントの詳細は後述)。
・ゴール後の戦闘ボーナスは無効とする。
▼時間切れについて
・最初にゴールした者が現れてから、1時間以内にゴールできなかったパーティーは失格とする。
▼最終順位について
・報酬ポイントと戦闘ボーナスポイントの合計点数で最終順位を決定する。
▼ランク認定について
・参加パーティー数に応じて、ランク認定する最終順位を決定する。
▼妨害について
・本大会では、他パーティーに対する妨害を認める。
・ただし、開始から1分間は魔法やアイテムの使用を禁じ、いかなる妨害も認めない。
・上記のルールを破った者は失格とし、また、その被害を受けた者はやり直す権利が与えられる。
・ゴール後の妨害は場合によって失格とする。
▼途中退場について
・HPが0となり、途中で退場することになったとしても、そこまで獲得した戦闘ボーナスポイントは無効にならない。
▼失格について
・失格者が獲得した戦闘ボーナスポイントやゴールの実績は無効になる。
▼タイムアタック報酬ポイントについて
・順位とタイムアタック報酬ポイントは以下の通り。
- 1位:1000pt
- 2位:800pt
- 3位:600pt
- 4位:400pt
- 5位:350pt
- 6位:300pt
- 7位:250pt
- 8位:200pt
- 9位:150pt
- 10位:100pt
- 11位以降:50pt
▼戦闘ボーナスポイントについて
・順位とタイムアタック報酬ポイントは以下の通り。
- スライム:1pt
- メイキュウコウモリ:2pt
- ゴブリン:3pt
- グリーンスライム:5pt
- ミドルゴブリン:10pt
- マッドゴーレム:20pt
▼詳細なルールについて
・こちらから確認すること。
==============================
陽介はそれらのルールを眺めた後、過去の実績から認定パーティー数や獲得ポイントについて調べる。
「……どうやら、東部会場での参入戦では、毎回約200パーティーが参加し、10位以内になると、ランク認定されるみたいだな」
「どこでわかるの?」
「そのページの下の方に、リンクがあるんじゃないかな」
「あ、これか」
一花がクリックし、遷移した画面を眺め、「ふむふむ」と頷く。
「だいたい300pt前後を獲得できれば、10位以内に入れるみたいね」
「ああ」
「どういう作戦が良いんだろう? 早めにゴールを目指すのが良いのかな?」
「軽く経験者の記事とかを漁ってみたんだけど」と絵麻が言う。
「5人制の場合は、5人で登録して、開始直後に2人と3人のパーティーに別れ、片方が全力でゴールを目指し、もう片方でモンスター狩りを行うと良いとか」
「ふぅん。じゃあ、今から2人探す?」
「どうなんだろう。最初から早めにゴールを目指すでも良いと思うけど」と言って、陽介は顔を上げる。
遠くのベンチで、文司と寅子が談笑している姿があった。
(いつまでも待たせるわけにはいかないか)
陽介は画面に視線を戻す。
「その辺は、また時間を作って考えようか。時間はあるわけだし」
「そうね。もしかして、お爺さん? たちを待たせている感じ?」
「ああ、まぁ」
「そっか。じゃあ、続きはまたべつの機会にしよう。しゃーないから、参入戦にはあたしが申し込んでおいてあげる」
「あざす!」
「ありがとう、一花」
「ん。また何かあったら連絡する」
「よろしく!」と陽介。
「うん」と絵麻。
「じゃあ、またね~」
テレビ電話が終了した。陽介はタブレットをしまいながら思う。
(参入戦か……)
いまいち実感は湧かない。
しかし、これから楽しそうなことが始まる予感はあるので、自然と笑みがこぼれた。
――――――――――――――――――――
ここまでお読みいただきありがとうございます。
この先の展開についてですが、少々見直したいため、ここでいったん区切らせていただきます。
次の展開が固まり次第、連載を再開したいと思います。
パワー系奇術師、ダンジョン配信中の美少女を助けたら、バズってしまう 三口三大 @mi_gu_chi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます