第157話 黒い塊


 とりあえず……ドラゴンゾンビがどこに消えたのかを調べるのが先だな。

 レッドワイバーンの龍鱗で遊んでいる二人を呼び、この付近の捜索を行うことにした。


「向かうとしたらどこですかね? キューブ山にいることは確定なんでしょうか?」

「それも分からないな。……ただ、アンデッド系の魔物が多くいたということは、この山のどこかにいる可能性は高いと思っている」

「グレアムが見つけられないのは想定外かも! いつも気配を探れるから、今回もすぐに見つけると思ってた!」

「アンデッド系はちょっと特殊だからな。とりあえず、俺が一人でこの辺りを探してくる。二人はこの場で待っていてくれるか?」

「分かりました。アオイちゃんと待っていますね」

「グレアム一人で倒さないでね! ちゃんと私達も呼んでよ!」

「分かってる。それじゃ行ってくる」


 二人にそう告げてから、俺は全力疾走で山頂付近を見て回った。

 ドラゴンにしては小さいレッドワイバーンとはいえ、普通の魔物に比べたら大きいし、すぐに見つかるはずなんだが……見当たらないな。


 おかしな気配も感じられないし、今のところドラゴンゾンビがいるようには思えない。

 ただ、依然としてアンデッド系の魔物が跋扈しており、山頂から湧いてきているような感じがある。


 瘴気のようなものが見えれば手っ取り早いのだが、今はアンデッド系の魔物が湧いてきている方を手当たり次第に探すしかない。

 すれ違う魔物を全て重力魔法で潰しながら、山頂を目指していると……山頂に黒い塊のようなものが見えた。


 見たことのない形状をしており、完全にあの黒い塊が悪さしていることが分かる。

 ただ……視界に捉えても、そこまで悪い感じがしないのが不思議。


「なんだこれ? ……卵か?」


 黒い塊に近づき、なんなのかを確認してみたのだが、近くで見ると卵にしか見えない。

 黒い塊の下には鳥の巣のようなものがあることからも、卵だとは思うんだけど、黒い塊の大きさは俺よりも大きい。


 軽く触れてみたが硬度もそれなりにあるし、もしかしたらドラゴンの卵の可能性が出てきた。

 ドラゴンゾンビとの関連性は見当たらないけど、関係ないということはないはず。


「潰すか、それとも持って帰るか……」


 どう対処するか迷ったが、グレグのことを考えたら持ち帰った方が良い気がしてきた。

 ドラゴンゾンビや、キューブ山に跋扈しているアンデッド系の魔物と関連しているのなら、なおさら潰さずに持って帰った方が説明しやすい。

 そう考えた俺は、卵のような黒い塊を持ち上げ、担ぐようにして待機させているジーニア達の下へ戻ることにした。


「ふぇ……? 変なのが近づいてくると思ったらグレアムじゃん! なに、その黒いの!」

「多分だけど魔物の卵だ。俺はドラゴンの卵じゃないかと思って持って帰って来た」

「ドラゴンの卵ですか? ドラゴンゾンビと何か関係があるんでしょうか?」

「それは分からない。ちなみにだが、この辺りにはドラゴンゾンビはいなかった。中腹にもいるとは思えないし、キューブ山からはもう立ち去った後なのかもしれない」

「ということは、ドラゴンゾンビとは戦えず仕舞いかぁ! でもでも、キューブ山からドラゴンゾンビがいなくなったってことは、クリンガルクの疫病は収まるってことだよね?」


 それなら話が早いんだが、まぁ終息はしないというのが俺の考え。

 キューブ山から移動しただけで、この近くにはいると思うからな。


「それも分からん。ただ、近くに潜んでいるなら終息はしないと思う」

「うーん……もう少し調べないといけなさそうですね。その卵を見せることで、グレグさんが協力してくれれば、きっと有力な情報を得ることができると思います。この近くに潜んでいるということは、クリンガルクの冒険者の中には異変に気づいた人がいると思いますし」

「俺もそう考えて、この卵を持って帰ってきた。今日はもう下山して、グレグにこの卵を見せるとしよう」


 異変が起きている証拠としては十分なはず。

 本当ならドラゴンゾンビを倒してしまいたかったが、ここから先は更に有力な情報がないと難しそうだからな。

 ということで、俺達はキューブ山でのドラゴンゾンビの捜索を打ち切り、下山することにした。


「ねね、一つ気になったんだけどさ……。その卵がゾンビになっちゃったレッドワイバーンの卵だとしたら、襲ってくることはないの?」

「アンデッドになった段階で、以前との意識は断たれるはずだからないと思うぞ」

「そうなの? ベインさんとかはベラベラと喋ってるじゃん!」

「ベインは特殊だし、ベインも生前の記憶はないと思うぞ。アンデッドになってからが長いから、ああいった感じで喋れているけど」

「そうなんだ! じゃあ卵を持ち帰ったからって、クリンガルクの街がドラゴンゾンビに襲撃される心配はないんだね!」

「ああ。ない……はずだ」


 ないとは思うが、急に心配になってきたな。

 卵のためにアンデッドになったのであれば、襲撃してくる可能性はゼロではない。


 キューブ山にアンデッド系の魔物が跋扈していたのも、今になると卵を守っていたようにも思えるしな。

 卵を持ち帰ることが急に不安になってきたが、グレグが否定的な以上持ち帰る以外の選択がない。

 

 それに、もしドラゴンゾンビが卵を奪い返しに襲ってきたとしても、レッドワイバーンであれば対処はできるだろう。

 その場合はジーニアとアオイに戦わせてあげられないのが申し訳ないが、一般人の命が最優先だし俺が倒す。

 俺は黒い卵を担ぎながらそんなことを考えつつ、キューブ山を下りていったのだった。




—————————————

ここまでお読み頂きありがとうございます。

本作の書籍版の第一巻が発売しております!!!

加筆もしており、web版を読んでくださっている方でも面白く読めると思いますので、是非お手に取って頂ください!


どうか何卒、ご購入お願い致します!!!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

辺境の村の英雄、四十二歳にして初めて村を出る。 岡本剛也 @tatibananobana

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ