第156話 赤黒い龍鱗


 キューブ山の山小屋までは比較的簡単に辿り着くことができ、予定通り中腹の山小屋で一泊した。

 そして、翌日の早朝から再び登り始めたのだが……山小屋以降から一気に魔物が増え始めた。


「なんだか魔物の数が多いですね。キューブ山は普段からこんなに魔物が多い山なんですか?」

「私も一度しか登ったことがないので分かりませんけど、レッドドラゴンを討伐した際に来た時は半分未満でしたわ」

「今回は明らかに多いと思う。後、魔物の質も何か変」


 前回の半分と聞くと、流石に何かしらの原因がありそう。

 レッドドラゴンがいたせいで、他の魔物がこの付近を避けていた――という可能性も高いが、今のところ遭遇している魔物の八割がアンデッド系の魔物。


 アンデッド系の魔物ならば避けるとかいう考えもないだろうし、ドラゴンゾンビと同じアンデッド系の魔物ということも考えると、やはり【紅の薔薇】が討伐したレッドドラゴンはドラゴンゾンビになっていそうな予感がプンプンする。

 俺の勘が外れていればいいのだが、こういう時の勘は大体当たるんだよな。


「アンデッド系ばっかりだもんな。ドラゴンゾンビと何かしらの関連がありそうな気しかしない」

「私もそう思いますわ。ということは……グアンザは本当のことを言っていたということでしょうか?」

「そうだろうな。改心したようではあったから、本気で街のために抗議していたんだと思う」

「そうだとしても、私はグアンザのこと嫌いだけどね!」

「私も同じく。ただ、疫病だけじゃなく、アンデッド系の魔物も増え始めているということなら、グアンザが嫌いとか言ってられない」

「どうしましょうか。私とモナは下山して、ギルド長に報告しに行った方がよろしいですか?」

「いや、多分だけど聞く耳を持たない可能性の方が高いから、このまま案内してほしい。それで討伐できればドラゴンゾンビの何かしらの素材を、見つけることができなければ何かしらの手掛かりを持った上で報告しに行ってほしい」


 俺達とこうしてキューブ山に来たことは既に知られているだろうし、ベロニカやモナが報告したところで聞く耳を持ってくれないはず。

 ただ、悪いギルド長ではないことは確かなため、何かしらの証拠となるものがあればきっと聞く耳を持つようになってくれると俺は踏んでいる。

 そのためにも、まずはレッドドラゴンを討伐したとされる場所まで赴き、何かしらの手掛かりを持って報告に行ってもらいたい。


「分かりましたわ。グレアムさんの判断に全面的に従います」

「私も。実際に戦ったし、魔王軍との戦いっぷりも凄かったからね。グレアムの判断は間違いないでしょ」

「そう言ってくれるとありがたい」


 買いかぶられるのは嫌だけど、指示に従ってくれるのは非常にありがたい。

 俺達はまず、ドラゴンゾンビの何かしらの手掛かりを掴むべく、魔物の跋扈するキューブ山を登り進めていった。


 そして、山小屋を出発してから約六時間。

 ようやく山頂付近に到着し、レッドドラゴンを倒した付近までやってきた。


「あっ、あの赤黒い大きな岩石は見たことあるかも。ベロニカ、あの辺りじゃない?」

「そうだと思いますわ。あの窪みのところで倒した――」


 ベロニカはそう言いながら、走って窪みのところを見に行ったのだが……予想していた通り、そこにレッドドラゴンの死体はなかった。

 倒した場所を勘違いしているとかでもないようで、その窪みの場所にはレッドドラゴンの死体があった痕跡とも思われる赤い龍鱗が散らばっていた。


「いませんわ! やっぱりレッドドラゴンはドラゴンゾンビになってしまったようです」

「龍鱗が散らばっていることからも、ここで倒したというのは間違いではなさそうだしな。とりあえず、ベロニカとモナは龍鱗と腐った肉片を持って下山し、グレグに報告してくれ」

「分かった。すぐに応援を呼んでくるから」

「グレアムさん、後のことはよろしくお願い致します」


 ベロニカとモナは大きく頷いた後、急いで下山を始めた。

 魔物が多いし、二人だけで無事に帰れるかも少し心配ではあるが……道中は俺達だけで魔物を倒していたし、体力も有り余っているはずだから大丈夫だろう。


 今は下山した二人の心配よりも、俺達はドラゴンゾンビの行方を追うことの方が大事。

 まずはどこに行ったのかの手掛かりを探そう。


「ドラゴンゾンビ、本当にいるんだ! 巨体だろうし、すぐに見つけられるよね?」

「どうだろうな。予想していた以上に龍鱗が小さいし、そこまで大きくはない可能性もある」

「これで小さいんですか!? 私は大きいなと思っていたんですけど……」

「私も! めちゃくちゃ大きいって!」


 龍鱗一枚の大きさは手のひらサイズ。

 他の魔物に比べたら確かに大きいのかもしれないが、ドラゴンと考えたらかなり小さい部類。


 俺は拾った龍鱗を軽く曲げてみたのだが……硬度もいまいちだし、レッドドラゴンではない可能性が高いと思う。

 龍鱗が赤いことから考えるに、この魔物はレッドワイバーンっていうのが俺の今回の見立て。

 強いドラゴンではなさそうで一安心だし、ゾンビ化しているとはいえ、レッドワイバーンならばジーニアとアオイの二人で倒せるはずだ。




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ここまでお読み頂きありがとうございます。

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