バレンタインの魔法

菜月 夕

第1話

「美味しくなぁれ、は私たちの魔法の言葉ですよ」

彼のもとから逃げる様に去ってもうすぐ一年。

私の趣味が仲間に認められ料理教室まで、開ける様になった。

今日はバレンタインも近いので手造りチョコだ。

そう、あれからもうすぐ一年。

去年のバレンタインの日、彼にとても可愛い社長令嬢との婚約話が持ち上がってるのを聞いてしまった。

私は彼の机にチョコを置いた所だった。

そして逃げ出してしまった。

私みたいな身よりも無い、何の取り柄もない女では彼の隣には相応しくなんてない、と。

そんな私が仕事とは言え、またチョコを造っている。

チョコの苦さだけが心に刺さっていく。

それでもあの日の様に「美味しくなぁれ」と魔法をかける。

自分に言い聞かせてチョコで心を覆って行く。


そして今日は、バレンタイン。自作チョコ講習も本番だ。

もうすぐ終わる、と言う時に教室のドアが開く。

「もう、教室は終わりですよ」

開けて入って来たのは彼だった。

「探したよ。友達が貰った試作のチョコを食べて判ったよ。

あれは君の味だ」

「どうして、ここに貴方はあのお嬢さんと婚約したんじゃ」

「勘違いさせてごめん。 あいつは俺の従姉妹なんだ。

叔父に虫除け代わりを頼まれてね。

従姉妹なんて『たかくんなら安全パイだから調度良い』なんて言ってたんだぞ」

私は呆然と立ち尽くすだけだった。

「君のチョコが出来上がるのを皆待ってるようだけど。

そして、今度はちゃんと俺に渡してくれるんだろう?」

彼は周りを見回しながら私の手をとった。

私は今更ながら動悸が激しくなって来るのだった。

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バレンタインの魔法 菜月 夕 @kaicho_oba

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