第50話 コンビニ前の激闘
「おおっ! さすがウチが見込んだだけはあるたい! まさかワープゲートまで使えるなんて!」
瓦礫に呑み込まれそうになる直前、俺は『スライムトンネル』を使って地上に逃げ出していた。
「それより、こりゃ酷いな」
地下鉄の崩落により、街は怪獣映画のような大混乱に陥っていた。唯一の救いは、すぐ近くに待機していた
「ずっと気になっておったんじゃが、あの黒い玉はなんじゃ?」
地下から地上に飛び出した魔力吸は、現在直径30メートルにまで膨れ上がっており、街の上空に浮かんでいた。その外見は皆既日食時の太陽に非常に似ている。
「あっ! あそこにクソ虫がおるぞ!」
剣聖少女が指差した方向には、漆黒の羽を生やした蝙蝠のようなメフィストフェレスの姿があった。メフィストフェレスは一瞬こちらを見た後、すぐに魔力吸の中へと姿を消してしまった。
「あっ、逃げおった! あやつ我に臆して尻尾を巻いて逃げおったぞ!」
剣聖はメフィストフェレスに勝利したかのように笑っていたが、
「んん!?」
突然何かに気づき、再び魔力吸に目を凝らしていた。
「な、なんじゃあれ……?」
「何って……げっ!? モンスターだ!?」
メフィストフェレスが消えた魔力吸から、無数のモンスターが地上に向かって飛び出していた。
避難誘導を行っていた
これまで街にモンスターが出現したことはなかったので、誰もがこの状況を理解できないでいた。
モンスターは通常、ダンジョンの中にしか現れないとされていた。
しかし、その共通認識が完全に覆された。
街中からは人々の絶叫とサイレンの音が聞こえてくる。霊園町は一瞬にして、パニック映画のような状況になっていた。
俺は息をのみ、ビルの屋上から阿鼻叫喚の光景を見下ろしていた。
:さっきから何がどうなってんだよ!?
:日本語を話す悪魔? が現れたかと思ったら、今度は街中にモンスターの大群かよ!?
:一体何がどうなってんだ!?
:今日は悪魔の大王が空からやって来る日か!?
:世紀末じゃねぇんだぞ!
:令和にっんなの来てたまるかよッ!
:地獄絵図じゃねぇかよ!?
誰一人状況が理解できないまま、
しかし、メフィストフェレスが放った魔力吸は地上で待機していた
:なんでスキルや魔法を使わないんだ!
:全員MPが枯渇してるとか?
:あの悪魔の仕業だ!
:それってやばくね?
:普通にやばすぎる
一部の職業を除いて、MPが尽きても戦闘不能になることはないが、スキルが使えなければ戦闘力の大幅ダウンは避けられない。
「こうしちゃ居られない! 俺たちもすぐにみんなを助けに行こう!」
「モンスター退治は我らの十八番じゃからな」
◆◆◆
「一体何がどうなっているんだい!」
私たちは【
すると、突然激しい地響きとともに地面が陥没し、黒い球体が現れた。その謎の黒い塊から次々にモンスターが解き放たれていく。
「みみちゃむは下がっていろ!」
「ここは拙者たちが何とかするでこざる!」
鬼助さんたちはそう言ってくれるけど、彼らはあの悪魔との戦闘でかなりのダメージを受けている。かな姉だって、ポーションで傷口は塞がったとはいえ、かなりの出血量だった。ポーションで回復できるのは傷口だけで、失った血液や体力をもとに戻すことはできない。
「こっちだ! 戦えない奴はコンビニに逃げ込め!」
鬼助さん達はモンスターに襲われている人々をコンビニへと誘導しているが、あの数のモンスター相手に私や一般人を守りながら戦うのは無茶だ。
「無茶でもやるしかねぇ。彼ならきっとそうするはずだ」
「だね。きっと誰一人見捨てたりしないんだろうね」
「拙者らとて、もう誰も見捨てたりはしないでござるよ!」
『かっこ悪くても、ぶざまでも、情けなくても、みっともなくても、最後の最後まで足掻き続けろ!』
あの時の彼の言葉が、頭の中で鳴り響いていた。
「みみちゃむ!?」
MPが尽きてしまった私は、この中で一番の役立たずだ。
それでも、
わたしも自分に恥じない生き方をする!
「せやぁああああッ!」
母子がオークに襲われているのを見て、私は鉄パイプを握りしめて立ち向かった。
「くっ……」
だが、鉄パイプではオークにダメージを与えることができない。
それでも、
「今のうちにコンビニの中にっ、走ってッ!」
「あ、ありがとうございますっ!」
あの時の彼のように、彼らを逃がすことくらいなら、今の私にもできる。
「みみちゃむっ、何やってんだッ!」
「そんな物では無理でござるッ!」
「あんたも逃げるんだよッ」
わかっている。
今の私ではオークに勝てないことくらい。
でも、だからと言ってここで逃げ出すわけにはいかない。
今やっと、私はあの日見た背中に、ずっと憧れ続けていた
「はぁ……はぁ……あきらめないド根性なら、私にだってあるんだからっ!」
体勢を低くしてオークの攻撃をかわし、鉄パイプを槍に見立てて鋭い突きを繰り出した。
「よし! ――――――っ!?」
穂先のない鉄パイプでは、オークの厚い脂肪を貫通することができない。皮下脂肪の弾力で鉄パイプは弾かれ、バランスを崩した私はそのまま臀部を地面に打ちつけた。
「「「みみちゃむッ!?」」」
「――――!?」
醜悪なオークが笑みを浮かべ、天高く剣鉈を振りかざした。
すべての光景がスローモーションで見え、私の人生はここで終わるのだと悟った。
「――――――ッ!!」
しかし、次の瞬間、私の視界に飛び込んできたのは、オークが振りかざした剣鉈ではなく、目を疑うほど美しい銀色の髪だった。
「うらぁああああ――――――ッ!」
美しい顔からは想像もつかないほどの鬨の声を上げながら、彼女は白銀の剣で剣鉈を受け止め、間髪入れずにオークを十文字に斬り伏せた。その剣筋は、達人のそれと見間違えるほどに美しかった。
「無事か!」
「え……あ、うん」
この子は私を嫌っていたはずなのに……どうして私を助けてくれたのだろう。見たところ、彼女もかなりボロボロだった。
「なんでって……誰かを助けるのに好きも嫌いもあるか!」
「――――!」
彼女の言葉にハッとさせられ、本当にその通りだと思った。
「……そうよね」
私はおかしくて笑ってしまう。
「……変なやつだな」
「変なやつじゃないわ、みみちゃむよ」
私が差し出した右手を、彼女は不思議そうに見つめていたが、しばらくしてから、ぎゅっと握り返してくれた。
「私はエルミアだ」
私は彼女と、エルミアと友達になれるような気がしていた。
「エルミア! 呑気に握手なんかしている場合じゃないぞ!」
「そうですよ!」
「私たち戦えないんですから、あなたが戦ってくれないと殺されてしまいます!」
【黄昏の空】の三人もこっ酷くやられたようで、ひどい状態だった。
「あれ、そういえばアンデッドマンは? エルミア一緒だったんじゃないの?」
尋ねると、アンデッドマンとは途中で別行動になったことを教えられた。
「アンデッドマンは無事なの?」
「わからん。地下が崩れ始めて、私たちも自分たちが逃げることで精一杯だったからな」
そりゃそうか。
「おい、響! てめぇもB級最強ならさっさとコンビニを守りやがれッ!」
「バカを言えッ! 僕は本物の悪魔との死闘でボロボロなんだぞ! 骨だって何本か折れてるんだ。死ななかっただけでも奇跡なんだ! もうこれ以上戦えるわけないだろ!」
「オレだってとんでもねぇ悪魔と激闘を繰り広げていたんだぁ! てめぇだけじゃねぇよ!」
「はぁあああ!? お前たちが戦ってたのはメッシュの男だろ! あんな雑魚は僕が戦っていた悪魔が簡単に喰い殺してしまったよ!」
「は? そりゃ剣聖、戦場堂我渚がフルボッコにして瀕死だったからだろうがぁ!」
「はぁあああ? その戦場堂我渚は僕が戦っていた悪魔にフルボッコにされていたんだよ! 僕はその化物と死闘を繰り広げたんだぞ!」
にらみ合いを続ける二人に、
「こんな時にくだらないことで言い争ってんじゃないよ! あんたも、あんたもっ、あたしもッ、みんな負けちまった雑魚なんだよ!」
「……っ!」
「なっ……!」
遠慮がないかな姉の言葉に、二人は何とも言えない表情をしていた。
「その上、誰も守れなかったとなれば、あたしゃ恥ずかしくてライセンスを捨てちまうよ」
かな姉の言葉で、みんな覚悟を決めていた。
「やればいいんだろっ!」
「ぶっ倒れるまで戦ってやらぁっ!」
みんな満身創痍だった。
あと何回、剣を振れるかもわからなかった。
「なんでここにばっかり集まってくんだよ!」
「B級最強の僕とはいえ、さすがに……マジでヤバいぞ」
エルミアの顔にも疲れが表れていた。このままでは本当に、みんなの体が持たない。
万事休す――そう思った時だった。
「にゃははははッ!」
「これはピンチのようでござるな」
「こりゃまたすごい数のモンスターっすね」
「わたくし達が活躍するに相応しい舞台ですわね」
突然、奇抜な集団が現れた。その中には、体中に包帯を巻いた猫耳娘や可愛らしいくノ一コスの少女、とんがり帽子を被った魔法使いのお姉さん、そしてめちゃくちゃギャルな看護婦さんもいた。
彼女らには見覚えがあった。
Sランク最強パーティー、【
「つ、強え……」
「何だ……このデタラメな強さは……」
100匹はいたであろう魔物の群れを、彼らはたった4人だけであっという間に倒してしまった。しかも、一人は杖を使ってモンスターを撲殺していた。
ダンジョン配信中にアンデッドになってしまった件 🎈葉月🎈 @hazukihazuki
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