マイティア1.5 信じていた親友に裏切られて殺された男はゾンビとなってこの世に舞い戻る。 婚約者であった幼馴染も孤独に耐えきれずにその親友と結婚して子供まで身ごもっていた。
panpan
第1話 ストレチア
僕はストレチア……ガデン島という小さな島で生まれ育った。
僕は昔から人見知りが激しく、1人でいることが多かった。
僕と同世代の子供は自然豊かな島で生まれ育ったためか、性別問わず活発な子が多かった。
それに引き換え僕はそんなに体が強くなく……あんまり外で遊ぶのも好きじゃない。
でもそれ以上に、僕には致命的な欠点がある。
実をいうと僕は金づち……要するに泳ぐことができない。
海に囲まれた島ということもあって……この島で水泳は基本スキルと思われている。
逆に言えば、泳ぐことができない人間はこの島の恥部であるということ。
「おいストレチア! 泳げよ!」
「むっ無理だよ……僕、泳げなくて……」
「だっせぇ! 島の人間のくせに泳げないとか……」
一切泳ぐことができない僕は同世代の男の子からの恰好の”獲物”だ。
この時もお遣いの帰り道に、ガキ大将気取りの男の子4人に絡まれてしまった。
振り切ろうとしたけど、人数的にも体力的にもそれは無理だった。
僕はそのまま海岸まで連れていかれ、泳ぎを強制させられた。
「おらっ! 泳げよ!」
「やめて! やめてよ!!」
泳ぐことを拒否し続けていた僕にしびれを切らし……4人がかりで拘束された僕は無理やり海へと引きずられていった。
「おらよ!」
「ぼごぼぼぼ……」
ギリギリ足のつかない位置に放り投げられた僕……必死に浮こうともがくけど、どんどん体が沈んでいく……。
あいつらは僕が無様におぼれているのを見てゲラゲラと笑っている。
人の命を笑いものにするこいつらが、僕と同じ人間なのか疑いたくなる。
自分達が今、殺人を犯そうとしているとまったく気づかないこの愚か者達を生んで育てた親の顔が見てみたい。
いろんな想いが心の中をめぐっていく中……体に力が入らなくなっていく。
”僕はここで死ぬんだな”
そう諦めかけた時……僕の腕を温かな手が掴み、僕の体を一気に海面へと引き上げた。
「ねぇ! 大丈夫!?」
朦朧とする意識の中で僕に呼び掛けてくる女の子……それは近所に住んでいるビリアという子だった。
関係としては幼馴染という枠組みだけど、今までろくに話すらしないほとんど赤の他人だった。
そんな彼女が必死に僕に呼び掛けてくる……どうしてか僕にはわからなかった。
「う……うん……」
どうにか返答することができた。
ビリアも僕からの返答を聞いて安堵していた。
彼女はそのまま僕を浜辺まで運び、僕を砂の上に寝かせてくれた。
おぼれかけた僕の体は鉛のように重くなり、指1本も動かせなくなっていた。
「おいなんだよ!お前!」
「そうだよ! 面白い見世物だったのに、だるいことするなよ!!」
不満げな声を上げてくるのはさっきの4人組だった。
そんな彼らにビリアはにらみを利かせながら怒声を浴びせる。
「何が面白い見世物よ! あんたたち、自分達が何をしたのかわかってるの!?
もし私が助けに行かなかったら、この子が溺れ死んでいたかもしれないのよ!?」
「はぁ? 俺らは泳げるように手助けしてやったんだぜ? 責められる覚えはねぇよ」
「そうだそうだ! 泳げない奴が悪いんだよ」
「つーか男のくせに女なんかに助けられるとか女々しすぎだろ! ハハハ!!」
「人間、得意不得意があって当たり前でしょ!? そんなことすら理解できないから、いつまで経ってもガキなのよ!」
「なんだ? 女のくせに俺達に生意気なこと言いやがって!!」
「いたっ! このっ!」
4人組のうちの1人がビリアを突き飛ばした。
砂浜の上に倒されたビリアだったけど、すぐに立ち上がり……仕返しと言わんばかりにその子を突き飛ばした。
「こっこの女!」
「ふざけやがって!!」
ビリアの反撃が癪に障ったらしく、4人組は一斉にビリアを取り囲んだ。
僕なら怖気づく場面だが、ビリアの目は全く動じていなかった。
「おいお前! 謝れよ!」
「そっちが先に手を出したんでしょ!?」
「この生意気女、軽く袋にしようぜ!」
「そうだな。 せっかくのお楽しみを台無しにされたわけだし……」
僕の命をなんとも思わない連中が、女相手だからと手加減するとは思えない。
かといってビリアが同世代の男4人に敵うとは思えない。
ボコボコにされたビリアのイメージが脳内をよぎったその時……。
「おい! 俺のダチに何してんだよ!」
颯爽と浜辺に降り立った男の子……それはビリアと同じく僕の近所に住んでいるアネモネだった。
あいつとも一応幼馴染ではあるけど、そこまで親しい関係はない。
「女1人に男4人とはずいぶん情けねぇ喧嘩だな」
「うっ! それはその……」
さっきまで威勢よく僕らに絡んでいた4人組が借りてきた猫のようにシュンと大人しくなった。
ビリアに放とうとしていた拳も収め、先生に怒られる生徒のように両手を前に出して小さくなっている。
でもそれは当然と言えば当然だと言える。
アネモネは島1番の漁師の子供で、島の子供たちのリーダー的存在。
性別や年代問わず、島のみんなが人格者である彼を慕っている。
腕っぷしも強く、彼に喧嘩で勝てる人間は彼の父親を除いてこの島にいないとまで言われている。
「ダチに喧嘩売ってんなら俺が相手になるぜ?」
「いっいえ……そんな……喧嘩とかそんなじゃなくて……」
「なんだよ? さっきまで随分強気だったくせに、急に大人しくなりやがって……」
「いえ、あの……」
「そうそう……そこで倒れている奴、お前らがやったのか?」
僕に視線を向けながらアネモネは4人組に問いかける。
「いえあの……」
「……」
「ひぃ!」
アネモネの無言の圧力に屈し、4人組は震える唇で恐る恐る回答する。
「えっとその……俺達、海で遊んでいただけです。 ほんとそれだけです」
「嘘言わないで! この子が泳げないこと知ってて、面白半分に海に突き飛ばしたんでしょ!?」
「うっうるせぇ! お前は黙って……」
「……」
「!!!」
アネモネが軽くにらみを利かせると、すぐに勢いを失う4人組。
力の強い者には媚びを売り、力の弱い者には横柄な態度を取る。
尻尾を振る犬という言葉が似合いな連中だと、僕は内心嘲笑っていた。
「俺は嘘は嫌いだ。 正直に答えろよ」
「あのその……俺達はあいつに泳ぎを教えようとしていただけです。
「そうですよ。 だって島の人間のくせに泳げないなんて情けないでしょ? だから俺達……」
「俺から言わせれば、対峙する人間によって態度をコロコロ変えるお前らの方がよっぽど情けねぇよ! 恥を知れ!!」
「「「「!!!」」」」
アネモネの厳しい言葉に、4人組は押し黙った。
「すっすいません。 もうこんなことはしません」
「お前らが謝るべきなのは俺じゃねぇだろ!!」
『すっすいません!!』
倒れている僕とビリアに向かって4人一斉に土下座する。
僕はこいつらを許す気はない……殺されかけたんだから当たり前だ。
でも今の僕に口をはさむ権利はない。
「僕は……いいです」
「この子がそういうなら、私も……」
「そうか……2人がそういうなら俺もこれ以上口をはさむ気はない。
だが次はねぇぞ?」
『はっはいぃぃぃ!!』
4人組は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「ビリア。大丈夫か?」
「私は大丈夫。 それよりも、この子を医者の所に連れて行こ?」
「そうだな。 とりあえず、俺が負ぶってやる」
アネモネの背に乗って医者に連れていかれたけど、幸い僕の体に異常はなかった。
そしてこの出来事をきっかけに、僕はアネモネとビリアと一緒にいる時間が増えていった。
2人と遊ぶことが増えて、今まで家にこもりっきりだった僕のライフスタイルは一変した。
将来料理人として勉強してきた成果を、家族以外の人間に披露する機会もできた。
2人がおいしいと言って僕の料理を食べてくれるのは素直にうれしく思う。
そんなビリアとアネモネに少なからず友情のようなものを感じ始めたのも事実。
特に僕の命を救ってくれたビリアには恩義や友情以上に熱い特別な感情を抱いていた。
それが世にいう初恋という現象であることに気づいたのは14歳を過ぎたころくらいだった。
ビリアは誰にでも優しく、僕のように弱い人間を守ろうと必死になれる女性だ。
素晴らしい美貌を持ちながら、それを一切鼻に掛けないのも彼女の魅力だ。
僕にとってビリアは女神のような存在……いつしか彼女を自分1人の者にしたいという欲望が出てきた。
だが、僕にはこの気持ちを打ち明ける勇気がなかった……彼女の気持ちを聞くのが怖かった。
この気持ちが露と消えるのが恐ろしくて仕方なかった。
それに男勝りなビリアを同世代の男の子たちは頼れる姉のように慕っているが。恋愛対象として見てはいない。
だからビリアが僕のそばを離れる危険性なんて考えもしなかった。
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だがある日……耳を疑う知らせが僕に届いた。
「ストレチア……私ね? アネモネとお付き合いすることになったんだ」
「……は?」
「アネモネに告白されたんだ、私。 実をいうと……私もアネモネのことが好きだったんだ」
ビリアが何を言っているのかわからなかった。
アネモネはビリアと仲が良いことは知っていたが、いつも男友達のように接していたからそこに男女の気持ちなんてないと思っていた。
でも違っていた……2人は物心ついた時から両想いだったんだ……。
「それは……おめでとう」
「ありがとう! ストレチア」」
愛しいビリアを友達と思っていたアネモネに奪われた……僕の心は絶望に包み込まれた。
そしてそんな2人を祝福することしかできない自分が不甲斐なく思った。
でも若い男女の付き合いなんて、熱しやすい分冷めやすいものだ。
幼馴染とはいえ、2人もその類だ……放っておいてもすぐに別れるだろうと、心のどこかでほくそえんでいた自分もいた。
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だが現実は残酷だ……それから2年後、アネモネとビリアが正式に籍を入れることが決まった。
それはつまり……2人は夫婦として生涯を共にするということだ。
僕は目の前が真っ暗になった。。
島中が2人を祝福する中、1人絶望の闇へと突き落とされた。
「おめでとうアネモネ」
「ありがとうなストレチア。 あっそうだ! この前頼んだ件、考えてくれたか?」
「うっうん……引き受けることにしたよ。 せっかくの結婚式だから」
「本当にありがとう! お前の作る飯は世界一だからな! 楽しみにしてるぜ!」
僕はアネモネに結婚式で出す料理を作ってほしいと頼まれていた。
表沙汰には親友として2人をお祝いするようにふるまっている。 ……でも本音を言えばビリアを奪った上、僕が毎日磨いている料理の腕をあろうことか結婚式で披露しろなんてふざけるな!……だ。
できるものなら、ビリアをこの手で奪い返したい!
でも僕とアネモネでは男としてのスペックが全く違う。
頼りがいもあり、人脈もあるアネモネ……対して僕は料理に多少覚えがあること以外何もない。
僕にないものをすべて持っているアネモネがずっと僕のコンプレックスになっていた。
それでも僕に優しく接してくれる親友だからと気持ちを押し殺してきた。
だけど……そんな僕のつらさを知りもせず、ビリアとの結婚にウキウキしているアネモネのことが少しずつ憎くたらしく感じ始めていた。
そしてそんな2人を祝福することしかできない自分がみじめで仕方なかった。
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2人の結婚が間近に迫ったある日……島に大きな台風が接近してきた。
島はある時期になると台風が2、3度接近してくることがあるから台風自体はそれほど珍しくはない。
……が、今回ばかりは例年よりもはるかに大きな台風が島を襲ってきた。
もはや台風というよりも嵐に近い。
台風に備えて補強していた家も次々と破壊されていき、地面は大雨の影響で沈み始めていた。
「ストレチア! ひとまず鉱山に避難するぞ!!」
「うっうん!」
父さんを先導に、僕と母さんは島にある鉱山へと向かった。
そこは昔いろんな鉱石が取れる宝の山として有名だったが、いつからか鉱石が一切取れなくなって以降……島の避難所として活用するようになっていた。
「!!!」
その道中……僕達はビリアの家の前を通りかかった。
彼女も鉱山に避難したのか、家のドアが開きっぱなしになっている。
それを見た瞬間……僕の心を悪魔がくすぐった。
僕の体は何かに導かれるように、ビリアの家の中へと入った。
※長くなったのでいったん区切ります by panpan
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