第4話 戦闘処女達

 軍事知識に疎い環の目から見ても零式機甲の性能は凄いと感じる。

 体をサポートしてくれるので、体の動きは楽だし、その気になれば、一人で車を引っくり返すぐらい出来る。

 脳波で動かすってのは仕組みがよくわからないが、実際にはかなり直感的に使える。

 「悪くないな。これで武器を手にしたら、無敵じゃねぇ?」

 環は悪魔のような笑みを浮かべるが、それはヘルメットで他人には見えない。

 実際に零式機甲を使った全員の能力値は教官達を満足させるものであった。

 「やはり、若い脳程、親和性が高いな」

 そのデータを満足そうに見ているのは零式機甲を開発した技術者である。

 「外科手術で脳と直接データリンクするデバイスを埋め込む技術は安全性を考えるとまだ、先だからね。今の技術で最高のパフォーマンスを出すとしたら、やはり15歳前後の脳が望ましいか」

 技術者達はデータを眺めながらワイワイと楽しそうにしていた。


 3日間は零式機甲の基本訓練が行われた。

 殆どの者はすぐに慣れた。

 次に銃が渡された。自衛隊が使う20式自動小銃である。

 今まで銃を使ったことも無い素人がいきなり渡されて、上手に扱える代物じゃない。

 だが、構えてみると、照準などは弾道予測までAIが行ってくれるので、それに合わせるだけで済み、撃っても反動は殆ど感じられない。

 フルオートで撃っても、300メートル先の的に寸分変わらず当て続けるのであった。

 さすがにこれは教官達も驚いた。

 続いて、ウェッポンアタッチメントが使用される。これは背中や肩、腕、足などに用いるもので、脳波を用いて、作動させねばならない。技術者達もこれは一般の人間的な感覚では動かす事ができなから、かなり苦戦するのではと思っていた。

 だが、脳波操作に慣れてきた生徒達はこれも難なく、使いこなす。

 このことから、技術者達は若い脳の可能性の高さに驚きしかなかった。

 色々と試されて、思ったよりも早い段階で実戦投入が可能だと判断された。

 

 結果的に残ったのは15人だけであった。

 10番教官は残された15人に対して、改めて番号を振り直すと説明した。

 これは今後の実戦投入の際になるべく煩雑になるのを防ぐためだと。

 1番に環が割り振られた。この番号はこれまでの成績から割り振っているそうだ。

 忍は6番。思ったよりも良い成績だったんだなと環は思った。

 新たに割り振られた番号が首輪と零式機甲に付けられる。

 そして、10番教官は自らの胸にある番号が記銘されたプレートを外す。

 「これからはお前らの教官では無い。指揮官となる。黒井隊長と呼べ」

 それに対して、環はニヤリとする。

 「良いのかよ?教官が自ら名前を晒しても?」

 「気にするな。私も鼻っから気に入らなかったんだよ。死地を共にするお前らに番号で呼ばれるのがね」

 環は肝の座った黒井の表情に少し気圧される。

 黒井が自衛官であるのは間違いがない。だが、どのような人物なのか。

 授業を受けているだけではそれを知り得ることは出来ない。

 だが、環は直感として、彼女が普通じゃないと感じていた。

 

 そして、実戦投入の日は想像以上に早く来た。

 15人の前に立つ黒井は苛立った様子だ。

 「ふん・・・よく聞け。ろくに演習もしていないお前ら戦闘処女を戦場に投じろだと」

 環はその言葉にもう出るのかと思った。

 射撃や格闘、慣熟訓練はある程度やった。

 だが、演習などの全体的な訓練は数回程度。まともに行軍だって、出来ないのじゃないかと思うレベルだ。

 それは黒井が一番、よく解っていて、この状態でまともに戦えるとは考えていない。ただ、よく考えれば、これはあくまでも零式機甲の試験であり、個別にデータが得られれば良いのである。戦果を挙げることが目的ではない。

 「破壊された時のデータも必要とすれば、もうこれ以上、手間を掛ける必要は無いか・・・むしろ、それを願っているのか」

 環はこの計画を動かしている奴らの考えを思い知る。

 どこまで言ってもただの使い捨ての駒であった。

 

 

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